第13話

 部屋に帰ってからは静かに本を読んでいると、いつもになく廊下が騒がしい。何やら家族だった人たちが玄関で騒いでいる。私は気になったのでそっと扉を開けて聞き耳を立てていると、父と母とおぼしき声がした。


「なんということだ!王宮からのお茶会の招待状だと!?」


「セバスチャンどうしてファルマ宛に王宮からの招待状が来ているのかしら?」


「奥様、旦那様。確か、殿下は今年12歳でファルマ様と同じ歳でございます。まだ殿下は婚約者がおりません。きっと婚約者選びの為に年頃の令嬢達を集めていらっしゃるのではないでしょうか?」


あらあら、いきり立って大声でしゃべっているけど玄関で話す内容ではないわね。でも、セバスチャンが私に聞こえるようにいつもより大きな声で話してくれたのかしら?内容は何となく理解したわ。


「あいつは今、毒で弱っているはずだ。来週には病死として届を出す。邸で殺すのは寝覚めが悪いな。あいつを山の中に捨ててこい。セバスチャン」


「・・・かしこまりました」


「そうだ、ファルマの代わりにエイラを連れて行こう。それがいい。我が家で一番美しい娘を連れて行けばきっと婚約者となるに違いない」


エイラが私の代わり?無理に決まってるわ。早々にお茶会の場から閉め出されるに決まっている。10歳になってからようやく淑女教育を始めたばかりだというのに。天真爛漫に映って選ばれる事を陰から応援してあげるわ。


 私はそっと扉を閉めてこれからの事を考える。


リュックにはしっかり物は詰めてある。あぁ、お酒を作るって約束しちゃったわ。完成には間に合わないけれど、途中までならなんとかなりそう。私は急いで取り掛かる。適温は30度位だったわよね?室温だとちょうどいいか少し寒いかもしれない。


温度を間違ってたらそれはそれで仕方がないわね。そうそうこの世界ではさすがにお酒を作っても密造酒にはならないのよね。もっと時代が進めばそうなるかもしれないけれど。私はいくつかの大きな瓶に材料を入れて魔法で室温を上げる。


残念ながら保温機ってないし、一定の温度にするのは難しいわ。魔力が切れた所でこの日は終了。1日目は問題無かったわ。2日目からは蓋を開けるとポンって音がしたの。ちょっと発酵が進んでいる気がする。3、4日目にはいい香りがするようになったわ。私はレシピをいくつか書いてベンヤミンさんに先触れを出した。


もう残された時間は少ないもの。


するとベンヤミンさんから今から来てもいいよと言ってくれたわ。お昼過ぎだからちょうど食事が終わった所よね。私は籠にどぶろくと畑に残っている野菜を全て収穫してベンヤミンさんの所へ急いで向かう。途中でエイラを見かけたけれどそれどころでは無いわ。


「ベンヤミンさん!」


「ファル。どうしたんだ急ぎで会いたいだなんて」


私は籠を地面に置き、息を整える。


「多分、ベンヤミンさんに会うのはこれが最後だから。これ畑の野菜全部持ってきたんだ。食べて。そしてこれが作っている最中のお米から出来るお酒さ。まだ途中なんだ」


ベンヤミンさんにそう言って1つの瓶を差し出す。ベンヤミンさんは蓋を開けてクンクンと香りを確かめている。


「これは、いい香りだな。上手に作っている」


「でしょう?僕の渾身の力作だよ!これを毎日1~2回程かき混ぜて後、2週間位したら飲み頃だよ。濾して飲んでみてほしい。あと、これがこのお酒を使ったレシピね!」


「最後って?」


「この間父さんが僕を家で殺すと処理が大変だから山に捨ててこいって話を聞いちゃったんだ。周りには病死する事になってるみたい。もう王都には戻れないと思うから最後に挨拶したくってね」


「・・・ここに住めばいいんじゃないか?ファルなら料理人としてすぐに働ける」


私は眉を下げて答えた。


「嬉しい申し出だけれど、僕がここにいると父のスキルでばれてしまうかもしれないんだ。王都を出た位なら大丈夫かなぁ。王都でウロウロしていると今度こそ本当に殺されちゃう。生き延びる為には仕方がないんだ」


「殺される?それは不味いんじゃないか?」


「セバスがきっと上手く逃がしてくれると思うしきっと大丈夫」


「・・・そうか。何もしてやれずにすまんな」


ベンヤミンさんは凄く心配してくれている。


「ファル少ないがこれを持っていけ。酒の報酬だ」


そう言ってお金と紐で吊るされたベーコンの塊を渡してくれた。


「これは巡回騎士団の団員が持ち歩くもんだ。これを身に着けておけば捨てられても非常食にはなるだろ」


ベンヤミンさんの心遣いに涙が零れる。もっとここに居たかった。籠を背負おうとするが手が震える。


「・・・ベンヤミンさん。ありがとう。もう、僕行くね。そろそろ時間だと思う」


「あぁ、無事に生き延びろよ」


私はぐっと手に力を込めて籠を背負ってベンヤミンさんに手を振り走り出す。


「ファル、どこかに住む事が出来たらいつでも連絡をくれ。待ってる」


「わかったよ!さよなら!ベンヤミンさん!!」


 王宮を走り出るとゆっくりと歩き始める。あぁ、もっと居たかったな。蟲使いって言われてからとっても大変だったけれど楽しかった。


でも、家族に愛されたかった。


スキルのせいで家族に疎まれるなんてツイてないね今世は。


次第に歩みはトボトボとなり、部屋へ戻る頃には夕方になり始めている。もうすぐ家族は夕食を摂る時間となる。

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