第12話

 そうして野菜を育てては買い取ってもらうこと2年半。早いものだわ。気づけば私は12歳を過ぎていたわ。


 今までは野菜を作ってきたけれど、ちょっとは次に進みたい気持ちになったの。飽きるわけじゃないけれど、たまには、ね。そして次に豆味噌を作ろうと思ったんだよね。調理する場所もないのにね。


確か、外国人って味噌を色や匂い、塩辛いって倦厭してたから味噌を止めて醤油に変更したんだ。懐かしい味。でも不思議ね。


醤油を作る麹菌ってこの世界に無いと思っていたんだけど、キノコの魔物の菌糸が麹菌だったなんて。


たまたまよ、本当にたまたま長距離を活動出来る蜂に麹菌を探してきてーって冗談で言ったらキノコの魔物の笠部分を噛みちぎって持って帰ってきたの。


よく分からないからとりあえず米麹になるように蒸して菌を定着させたの。上手に出来るか心配だったけどなんとかなって良かったわ。


因みに米は王都にも存在している。日本で食べられているような米ではなくもっと実は小ぶりで売られている。原種を見たことはないけれど品種改良が進む前の実だと思う。


手持ちのお金は少なかったので少量しか買えなかったのが残念な所。


主食はやはりパンだけれど、地方ではパエリアっぽい料理のために米は生産されているらしい。王都では地方の行商人が来るので売られているのだ。米を見つけた時は感動したわ。米には巡り合ったけれど、菌は難しいと思っていたから諦めていたの。


そしてなんで蜂さんが持って帰って来た物がキノコの一部だと分かったかと言うと、つまり、1度失敗してもう1度蜂さんに採りに行ってもらった時に追いかけてみた。


実物を知っていれば次から自分で何とか出来そうだと思ったの。キノコの魔物は王都の外すぐに生息していて10cm位の大きさでよちよち歩いてたのよね。


 門番が言うにはそこいらにいる害の無い魔物。非常食に焼いて食べてもいいらしいが、あまり美味しくは無いらしい。


2匹ほど拉致して家に戻ったのは言うまでもない。


邸の庭にこっそり住んで貰うことにした。案外居心地がいいのか日陰でのんびりと過ごしている。そうして苦労の末に出来た醤油。もちろん米麹は長期保存用に乾燥させて瓶詰してリュックに仕舞ってある。



 そしてあるお願いをしに今日はベンヤミンさんの所へ向かった。


あれから偶にだけれど、ベンヤミンさんに野菜を買い取って貰う時にコーバス団長がいる時がある。団長さんは野菜が嫌いだったらしいんだけど、マヨを付けて食べたら野菜嫌いが直ったのだとか。


きっと付けるのではなく漬ける勢いなのかもしれない。


「ベンヤミンさん!」


「ようファル。相談したいことってなんだ?」


私は予めベンヤミンさんに蜂さんに手紙を持たせて先触れを出してからやってきた。コーバス団長も何故かその場に同席している。


「あのね、お願いが2つあって」


私は初めてのお願いにちょっとモジモジしてみる。


「お願い?難しい事でなければいいぞ」


「1つはね、僕が作った調味料を使って料理がしたいんだ。家で料理が出来ないから厨房を貸してほしい。もちろんベンヤミンさんに味見をしてもらうからさ!」


「厨房か。ちょうどお昼過ぎて空いているしいいぞ。もう1つはなんだ?」


「ちょっとね、実験したいからお米を頂戴。3キロ程手に入ればいいんだ」


「米か。あったかな」


「やった!ありがとう!」


そうして私はベンヤミンさんと一緒に厨房に入らせて貰うこととなった。もちろん清浄魔法で全身くまなく綺麗にしてから厨房に入る。どうやら併設されている食糧庫の物を使ってもいいと許可が降りた。


わくわくが止まらない!何十年振りかしら。自分で料理をするなんて。


 私は早速食糧庫に入り、食材を探す。あったあった。試食に使う肉や野菜を見つけて厨房に運ぶ。食糧庫の一番奥に米が麻袋に入っていた。どうやらあまり使われていないようでベンヤミンさんは全部持って行ってもいいと許可してくれたので籠に麻袋ごと入れた。


 さて、米をゲットしたので厨房に戻り、調理に取り掛かる。鶏肉っぽい肉、玉ねぎ、卵。始めに肉を一口大に切り、塩水、砂糖を入れて浸して置く。卵はマヨ用とゆで卵を分けて茹でている間にマヨを作る。


次に茹で上がった卵の殻を剥いてから細かく切ってボールに移しておく。玉ねぎをレンジでチンしたい所だけれど無いのでそのままみじん切りにしてゆで卵とマヨと玉ねぎを入れ、マヨと少しのビネガーを入れて混ぜ合わせるこれでタルタルは完成ね。


次に持ってきた醤油を使ってタレを作る。ビネガーだと自分が思っている味とは微妙に違うけれど美味しい事には変わりなかった。


今の所ベンヤミンさんは口を出すことも無くただじっと私の手元を見ている。


そして最後の段階。


鶏肉を卵で溶いた小麦粉の衣を纏わせてフライパンに油を入れて揚げ、熱い間にタレに唐揚げをくぐらせてお皿に載せてタルタルソースを掛けて完成!


「ベンヤミンさん出来たよ!!」


そう言いながらフォークでチキン南蛮を一口食べてみる。肉汁が溢れて唐揚げ自体も美味しいけれど、タルタルとタレのハーモニーが心地よく口の中で奏でている。


前世ぶりに食べたわ。


美味しい。


渡したくなくなる程の美味さ!けれど私はそんなに意地汚くないわ。心の中は全部食べてしまいたい気持ちで大荒れだけれど、ベンヤミンさんにお皿を渡す。


もちろん食堂のテーブル席でコーバス団長も座っている。味見を待っているのだろう。


 ベンヤミンさんはコーバス団長の向かいに座り、香りを確かめたり、じっと唐揚げを観察した後にフォークを取り出しお肉に突き刺し、恐る恐る口に運ぶ。カッ!!って効果音が聞こえてきそうだった。目玉を落としそうなほど見開き、一瞬動きを止めた。


「んまぁぁぁい!」


その言葉と同時に2個目を口に入れる。コーバス団長もフォークをからあげに突き刺そうとするが、ベンヤミンさんは皿をサッとずらし、阻止する。


「ベンヤミン、意味が分からないな」


そう言いながら何度もフォークを刺そうとするが阻止されてついにはベンヤミンさんの腕を掴み、動きを止めてからチキン南蛮を口にすることが出来た。


「!!美味いなこれは」


あとは予想通り二人の取り合いにより皿一杯にあったチキン南蛮は即完売となった。


「ベンヤミンさん、美味しかったね。また厨房貸してね!」


「あぁ、いいぞ!そういえばさっきファルが持っていた黒い調味料、あれは何だ?」


「あぁ、あれは醤油って言ってね。簡単に言うと、豆を発酵させて作った調味料なんだ」


「しょうゆ?聞いたことがないな」


「そうだよね。だって僕が作ったんだもん」


色々とあるだろうけど、ここで違う世界の話をしても可笑しな事になるのでそういう事にしておく。


「この醤油で色んな物が作れるんだ。ベンヤミンさんにあげるよ。大事に使ってね。結構手間暇が掛かってて量も僕の部屋では作れないんだ。さっき食べたチキン南蛮のレシピ、予め書いておいたよ!」


「おう!こんな美味しい料理を知ったんだ。それに醤油も貰ったしな。そういえば米は何に使うか聞いてもいいか?」


「うーん。お酒を作ろうと思ってね。それを作れば色々と料理の幅も広がるんじゃないかなーって思ってさ」


「お酒?ファル君、お酒が完成したら是非教えてくれ!」


コーバス団長が横から声を出した。


「コーバスはただ飲みたいだけじゃないか」


二人ともとっても仲が良さそうだわ。


「いいよ。ただ実験として作るだけだからね?失敗したらないけどね」


そうして楽しい試食会を終えて意気揚々と家に帰った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る