第10話第六騎士団団長コーバスside

 第六騎士団、ここは平民で構成された騎士たちの集まりだ。もちろん俺も団長ではあるが平民だ。第一騎士団は陛下や王族を警護する任務に当たっている。第二騎士団は貴族や要人警護が主な任務となっている。


そして第三騎士団は女性騎士達の団。王族や貴族の女性達の警護を担当している。第四騎士団は王宮警備を主に担当している。大体この辺りまでが貴族籍の者で構成されている。第五~第十騎士団は主に平民達の構成で街や村の警備や時には魔物の討伐に向かう。


各団は数年毎に交代で勤務地が変更されるんだ。魔物討伐なんて普通のやつは行きたくないだろうしな。魔物討伐だけは希望者を優先する。


 人に向き合うより魔物を討伐していた方が気が楽なんだそうだ。中には何年も討伐し続けている猛者もいるらしい。


 俺は王都の警備が性に合っているがな。毎日酔っ払いに絡まれた、財布を盗まれただの事件は多いがそれなりに仕事には満足している。


そんな日々を送っていたある日。


「誰かいるか?子供が攫われそうになってるんだ!」


そういって男が詰所に飛び込んで来た。日中に人攫いなんて珍しいな。


「どこだ?案内してくれ。カザル、オーウェン行くぞ」


 俺は部下を連れ男の案内で急いで現場へと向かうと、人集りが出来ていた。


俺達は人集りをかき分けてみると、そこには虫に集られて呻いている男と、その男の前に佇んでいる1人の男の子の恰好をした子供が居た。


スキルを使っているのか?


男の子は平然とした様子で倒れている男を見下ろしているが私たちに気づくと虫たちはすぐに去っていった。蜘蛛の子を散らすように。


 カザルはすぐに倒れている男を縛り上げ、オーウェンは周辺にいた人たちからさっきまでの出来事を聞き取ってくれている。子供が平然としている様子には違和感を感じる。




 俺は早速捕まえた男と共に子供を詰所へと連れて行った。


カザルには男を牢屋へ連れて行くように指示を出し、オーウェンには子供が喜ぶようなお茶とお菓子を用意させた。子供はファルと名乗った。何故だろう、子供とは言い難い言葉のやり取り。それこそ平民の恰好をしているが、どことなく垢ぬけた上品さがある。


早く帰りたがっている様子だ。こんな事件のあった後だ、家族に連絡を取って一緒に帰ってもらおうとするとファルの雰囲気が一変する。ファルはどこからともなく数匹の大きな蜂を背後に飛ばせてそれ以上の詮索を避けるようにしている。


スキルのせいで家族と上手くいっていないのか。いや、もっと根深そうだ。ファルが犯罪をしているわけではないしこれ以上の詮索は止めた方がいいだろう。ファルは元気で明るい表情に戻り、オーウェンの用意したお茶とお菓子を頬張って詰所を出て行った。


「コーバスさん、あの子追跡しますか?」


「いや、いいさ。それにベンヤミンを知っていると言ってたな。あいつに話を聞くのが先だな」


 そして俺は昼過ぎにベンヤミンの所へと向かった。


 アイツは子爵家の6男だったか。貴族らしくないんだよな。初めは騎士になるために一緒に訓練をしていたんだが、料理に目覚めてしまったとかで王宮料理人の元へ足しげく通い料理人の道へ入ったんだよな。


最初は親から猛反対されたようだが騎士団の料理人として王宮へ勤め始めると少しずつ態度が軟化し、今は認めてもらっているようだ。もちろん有事の際は騎士としても働く事になっている。


「よう、ベンヤミン。今暇か?」


「コーバス。俺は暇じゃねぇな!で、何の用だ?」


「さっき王都で人攫いをしようとした男を捕まえたんだが、攫おうとしていた子供がな、ファルって名前の子でお前の事を知ってるって言ってたから聞きに来たんだ」


「あぁ、ファルか。不思議な奴だよ。俺もあの子と知り合ってそんなに経つわけじゃないが、良い子なのはわかるぞ。たまに野菜を持ってきてくれるから買い取っている」


「野菜?家が農家なのか?」


「いや、きっと違うな。あの子1人で野菜を育てている感じだ。わずかだがファルの持ってくる野菜はいい魔力を感じる。お前も知ってる通り、市場で売り物にする野菜は緑魔法を持つ農家が魔法を使い、無理やり育てるからすぐに育つ半面、形や味は二の次が多い。


だがファルの野菜は魔力で強制的に育てていないからか野菜たちが生き生きしている。どちらかと言えば成長を魔力で助けている感じに近いな。収穫に時間が掛かる半面、形も味も申し分ないんだ。


むしろ王族への献上品にしてもいいくらいなんだぞ?お前もこの間トマトを食べて絶賛していただろう。野菜の取り合いで殴り合いに発展するなんて考えてもみなかったがな!ハハッ」


「あれを作っている子供だったのか」


「それにお前が絶賛していたマヨネーズ。あれもファルがレシピをくれたんだぞ?美味かっただろう」


「それ、本当か!?」


「あぁ。あの坊主、色々とアンバランスなんだが敵ではないな。あの歳で読み書きができているんだ。どこかの貴族の子供だろう。趣味で野菜を作るには凄すぎるけどな」


「詰所で言ってた。これ以上詮索するなってな。親から生きることを望まれていないと言っていた。だからお小遣いを貯めて出ていくのだと」


「それならここで働くのもいいかもな。料理にも詳しそうだしな。まぁ、機会を見て声をかけてみるわ」


「あぁ、そうしてくれ。あまり第六騎士団は貴族の内情に首を突っ込めないからな」


俺はベンヤミンと話をして詰所に戻った。ファルがあの野菜を作っていたとはな。俺としては気がかりだがベンヤミンが連絡を取っているなら大丈夫だろう。

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