第5話

 あれから私は毎日生活魔法を駆使して生活をしている。朝起きてから魔法で水を出して歯磨きや顔を洗っている間にいつの間にか扉の外に朝食が用意されているの。パンと卵と紅茶。従者の誰かが置いてくれている。


本当に有難いわ。


 食後には運動を兼ねて魔力循環をする事にしたの。それと、クリーン魔法でお部屋の掃除ね。クリーン魔法があるんだから歯磨きや洗顔は必要ないんだけど、なんとなく前世から続く習慣なのよね。洗ってすっきりしたい。


 確か魔法やスキルは18~19歳位まで体の成長と共に多少は成長するらしい。そこまでこの家にいるつもりはないけど、過ごせるだけここでひっそり過ごしながら魔法やスキルを成長させたいとは思っているのよ。一応。



 引っ越しをした翌日から庭師が私の部屋の前の鬱蒼とした木を切り、バラの生垣を作り、生垣と部屋との間にオレンジの木を植えて畑を作ってくれたの。庭師は私と言葉を交わす事を禁じられているみたいで何となくジェスチャーで好きに使っていいと言ってくれたわ。


 庭からはバラの生垣やオレンジの木で上手に隠されていて部屋の中も見えなくしてくれているし本当に有難いわ。家族以外は私の事を心配してくれているんじゃないかな。


私はみんなの善意で生きながらえていることに感謝しかないわ。


 私は小さな畑でトマトとキュウリ、じゃがいもを植える事にしたの。魔法で土づくり。掘り起こしたり、火魔法で土を焼いて消毒した後、空気を含ませたりして畝を作っていく。肥料?それは夜にこっそり厨房外の生ごみをいただいたわ。


風魔法で細かく切り刻んで火魔法で乾燥させて土に混ぜ込んだわ。おかげで魔力はすっからかん。でもおかげで素晴らしい畑が出来たわ。


あとは野菜たちのお世話をするだけね。



そして家族が夕食を摂る時間に私はこっそり部屋を出て図書室へ向かう。


 今まで家庭教師が付いていたから何となく歴史や淑女になるためのマナーは記憶に残っているんだけど、魔法に関しての知識は一切ないのよね。幸いにして代々続く伯爵家は書籍が沢山ある。魔法や薬草学、スキルについて。


今から詰め込めるだけ知識を詰め込んでおかないとね。部屋に本を数冊程度持っていっても気づかれない程に所蔵しているのよね。私はまず魔法に関する書籍を初級魔法の書かれている本とスキル本を5冊ほど部屋へ持って帰る事にした。


 家族は召喚スキルばかりに目がいっているせいか本を読んでいるのを見たことはないわ。豚に真珠よね。



 そうして私は部屋の外に置かれた食事を部屋で摂りながら本を寝るまで読み倒す事にした。本に書かれている魔力循環や魔法の使い方。私が想像していた物とそんなに大差は無かったわ。ただ、本を読まずに魔法を使っていた私は無唱詠だった事に気づいたわ。


どうやらイメージを掴んでイメージ通りにする分だけ魔力を魔法に変換させて使う方法を無意識の間に行っていたのね。日本人で良かったよ。


 本には唱詠をする事によって使う魔法を特定し、魔力を調節しながら魔法を出すのだとか。この魔力の調整が上手くいかないと魔力暴発が起きてしまうらしい。だから幼児では魔法を使う事が許可されないのね。


子供って大きな魔法とか好きそうだもの。全力で魔力を出しちゃいそう。まぁ、私は中身が大人なのでやらないけど。部屋を明るく照らし出すライト魔法なんかは何となく分かるけれど、本で読んでもよく分からない魔法はやはり唱詠して実際に自分の目で確認してみないと分からない。


夜中にこっそりと庭へ出て試してみたりした。使えなさそうな魔法も沢山あるわ。


さすが初級魔法、くだらない魔法もある。ベルを鳴らす魔法、手を叩く代わりに魔法で手を叩いた音を出してくれるとか。おならやげっぷの音を消し去る魔法とか。初級魔法はどうやら1つ1つが単純な動作をこなすような魔法なのね。


中級以降の魔法はその組み合わせを1つの唱詠で行う感じのようだわ。そう考えると生活魔法って素晴らしいわ。単純な魔法だけど全てが使えるのよね。よく考えるとお湯を出すには水を出して火で温める必要がある。


 生活魔法は熟練するとお湯位は出せるようになるのだとか。詳しく考えると一度で出来ない事もあるけど、イメージでなんとかなっている魔法もある。例えばクリーン魔法。きっと詳しく考えると除菌や埃とり、汗とりとかあるから目的に応じて何度も唱えないといけないと思うのよね。


今まで何にも考えていなかったわ。イメージって大切なのね。


私はちょっとしんみりしながら本を読んでいった。


そういえば、この間蜘蛛に噛まれた手を改めて見た。小さな噛み傷はもうかさぶたになっている。これは初期魔法で治るのか。試しに簡易唱詠の【ヒール】と唱えてみた。するとかさぶたはほんのり光って跡形もなく綺麗に治っていた。


私は回復魔法も使えるのね。


ちょっと嬉しくなる自分がいる。


これってイメージが大事だから傷を治す、とか骨をつなげるとか少しの範囲だけしか出来ないけれど炎症を鎮めるとかの簡単な物も何度か繰り返せばなんとかなるんじゃないかしら?それって凄いよね!?


出来るかはわかんないけど。なんちゃって聖女になれるんじゃない?


まぁ、魔力量は大した事がないから治せても1人、2人が限界だろうけどね。


考えてみれば生活魔法って魔力量の少ない平民が殆どだから貴族達に気づかれていないのかもしれない。


それに平民は識字率も低いから魔法本を読む人も限られてくる。光属性魔法を使える人は滅多にいないらしいし、出るとこ出たら私は立派な治療者になれそうね。


なんないけど。


私はやっぱりそんな大層な事をするより植物と向き合っていたいわ。植物達って育てていくと我が子みたいに思えるんだよね。でも、農家ってここに住んでいる限りは出来ないわ。






早くここを出て自活できる道を探さないと。


やっぱりお金を貯めるには治療者?悶々としながら自分の生きていく道を考える。そして毎日魔法の練習をしながらスキルについても勉強していく。本にはいろんなスキルが紹介されていたわ。あまり他人に自分のスキルを公表することはしないらしい。


それもそうよね。友人がアサシンスキルって知ったらちょっと引いてしまう自信があるもの。そういう私だって貴族令嬢たちから嫌われる対象のスキル。そういえば、姉は学院でお友達に私の事を聞かれたら恥ずかしいと言っていたわ。


スキルを公表する気だったのね。


なんて馬鹿なのかしら。


そんな事はさておき、スキルを使って窓の外にいる蝶を呼んでみたり、バッタや蟻で実験している。スキルにはレベルみたいな物はなさそうなのよね。習熟度は必要みたいだけど。1匹なら呼び寄せたり、単純な命令で動かす事は出来る。これが数匹~大量になると呼び寄せるにも疲労感が伴うみたい。


こればかりはスキルを使いこなすために練習あるのみのようだわ。そして今日は植物図鑑を眺めている。前世では山育ちだったおかげで食べられる野草や薬草をある程度は見分ける事が出来ていた。幸いな事に名前は全く違うけれど形や用途は同じみたい。これは野菜も同じ。


私が畑で植えているトマトとキュウリとじゃがいもと呼んでいる植物たち。世界が変わると名前も変わるみたい。混乱するのであえてここでは日本名で通す事にするわ。


 薬草も覚えていて損はない。だって山に捨てられるかもしれないでしょう?薬草は日本名が分からないから図鑑の通りの名前を覚えるしかないわね。ひたすらに熟読して覚える。子供なだけあって記憶力がよくて助かるわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る