第4話執事セバスチャンside

 ヘルクヴィスト家に仕えてはや35年。現当主のアーダム様は代々の精霊使いスキルに誇りを持っておられるようだ。そして奥様のペトロネラ様も政略結婚ではあるものの夫婦仲は良いほうだろう。


奥様は旦那様と違って野心家だ。自分の実家が男爵家だった事がコンプレックスとなっているようだ。奥様は娘達が公爵家や王家に嫁げるように幼少期からの早期英才教育を施していたが、長女のシーラ様の成績は芳しくない様子。


反対に二女のファルマ様は教師達から褒められていた。


将来有望なのだろう。


 一般には貴族の子供たちは6歳から勉強を始める。語学から始まり、男の子は剣術、女の子は刺繍などの淑女教育だ。シーラ様とファルマ様は3歳より勉強を強いられていたが三女のエイラ様は今年8歳になったがまだ家庭教師は付いていない。


本人も勉強する気はないようだ。アーダム様達は一番下だからと甘やかしているのでエイラ様は我儘放題だ。


よく侍女達がエイラ様の我儘に疲れ切っているのを見かける。このまま成長していくと大変な事になるだろう。


そうは言っても家族仲は良い方だと思う。


 毎日家族で食事を摂り、母と娘は共に刺繍をしたり、お茶をしながら過ごす時間を持っている。妾を別邸に住まわせ帰ってこない貴族も多いと聞く。そう思えばヘルクヴィスト家は幸せな家族だったのだろう。


あの日までは。


ファルマ様の10歳の誕生日の出来事だった。子供は10歳になるとスキルの確認をしに神殿へと出かける。ファルマ様も朝からアーダム様と共にウキウキと馬車に乗り込んで神殿へと向かっていった。


私達従者はファルマ様が帰ってきてから10歳の誕生日とスキル発現の祝いのために大忙しだった。


しばらくしてアーダム様達を乗せる馬車が邸に到着したのが分かり迎えに出るとアーダム様は今にも倒れそうな程顔色が悪い様子。後ろから一人で馬車から降りてきたファルマ様の目元は赤い。


何か良くない事が起こったに違いない。


アーダム様の指示でファルマ様を自室へ送り、私はアーダム様と共に執務室へと入る。待機していた従者に指示を出した。ペトロネラ様とシーラ様が執務室へと入り、神殿での出来事をアーダム様が話始める。


 それまで家族仲は良かったのにスキルが蟲使い、魔法が生活魔法と判明しただけでファルマ様は亡き者にされようとしている。


なんという事だろう。まさか我が子を躊躇いもなく捨てようとしている。


家族としての情は無いのか。


長年この家に仕えてきて初めて辞めたいと思った瞬間だった。こんなに薄情な人間に仕えていたなんて。やりきれない。


彼らはファルマ様に毒を飲ませ、徐々に弱らせて病死をさせる計画をしていた。私はもちろん長年仕えている侍女長やファルマ様の専属侍女のネスもこの邸の従者達もアーダム様の命令に納得はしていなかった。


けれど、皆家族を養う身。従わなければ暮らしていけない。


 我々は涙を呑んでネスを配置換えし、ファルマ様への接触を最小限に留めてアーダム様達の気をそらすように務めた。そしてエイラ様がファルマ様の部屋が欲しいと我儘を言った事を機にファルマ様は邸の奥部屋へと引っ越しする事となった。


簡素で最低限の物しか置かれていないがあそこならアーダム様達と会わずに済むだろう。


ファルマ様の存在を忘れてしまう事を願うのみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る