第15話


「時間を置いて、関係を復活させる気でいるのかもしれないわね」



「ん?どうしたの」



康介が風呂上がりにビールを飲みながら雪乃に訊ねてきた。


残業を減らしたのか、彼は最近、早い時間に帰宅する。

康介が先に帰っている時は、雪乃の夕飯を作ってくれていた。


嫁に尽くす旦那作戦だと思うけど、仕事を早く終える事ができたのかと思うと腹立たしい。

今更感が否めない。


雪乃は平穏な夫婦を演じている。


今までと変わらず、仲の良い夫婦だ。


ただ、執拗なボディータッチは心情的に無理だ。


それに愛しているとか、好きだとか、幸せだと口にだして言わなくなった。




「今日はちょっと疲れたの。先に休んでいいかしら?」



「ああ……その……明日って水曜日だよね」


「ええ」


「帰りは、やっぱり遅いのかな?」


「そうよ、接待だから遅くなるわ」


水曜と金曜の雪乃の予定は接待だ。

康介は半年間「今日は接待で遅くなる」と言って不倫していた。


だから雪乃も同じ言葉をそのまま夫に伝える。


訊かれても雪乃は接待としか言わない。

本当のことを言うはずないのに、わざわざ確認してくるのはなんでなんだろう。


「適当に晩飯食って帰るよ」


「そうね。美味しいものでも食べてきてね」


笑顔でそう返事をして寝室へ向かった。



明日は、前島さんと、綾ちゃんと3人で焼き肉を食べに行く。


決起会だ。もちろん雪乃が御馳走する。




雪乃は康介に300万プラス弁護士費用とこれまでに彼女に使ったホテル代など150万、真奈美さんに慰謝料300万を請求する。






***********************




弁護士に依頼して真奈美さん宛に内容証明を送った。

そして、単身赴任しているご主人と真奈美さんの実家宛に彼女の浮気の証拠を弁護士を介して送り付けた。

真奈美さんのご主人が、康介に慰謝料を請求できるよう丁寧に全ての証拠を揃えて送った。


真奈美さんのご主人には、個人的に連絡を取り、康介相手に慰謝料請求して下さいと伝えた。






「自分の責任だから、弁護士費用もまとめて雪乃に支払う」


康介はテーブルに置かれた書類に目を通した。


真奈美さんがカフェで話したすべてを文字に起こし、雪乃は彼に渡した。

SNSを見せて、1年前から関係を持っていた事を証明した。


「彼女の分も慰謝料をあなたが支払ってくれるのよね?」


「そのつもりはないよ。彼女とはもう関係を断っている。ご主人の小林さんから俺に慰謝料請求が来るだろう。その分は彼女の旦那さんに支払う」


「謝罪しに行かなくちゃいけないわね。しっかり謝ってね。真奈美さんはご主人と離婚して、あなたと子供たちを育てるつもりみたいよ。新しい家族と共に頑張ってね。責任を取ってあげなきゃね」



「……真奈美との関係は終わっている。子供は俺の子じゃない。育てるつもりはない」


流石に他人の子どもを育てる気はないのかもしれない。

けれど全て、康介が起こした不始末。



「不倫したあなたは有責配偶者だから私との離婚には応じてもらうわ」



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