第7話
マンションのリビングに一人残された雪乃。
茫然とした状態でソファーに座っている。
(康介さんは、今頃別れ話でもしているのだろうか)
そう思いながらパソコンを立ち上げた。
なんとなく浮気相手の名前を検索する。
大学名、年齢は分かっている。
SNS更新はされていないが、昔のFBから結婚式の写真を見つけ出す。
旦那さんと奥さんの結婚式の様子だ。彼女は純白のウエディングドレスを着ている。
可愛い感じの人だった。自分とは真逆のタイプの真奈美の姿に驚く。
(この人が康介さんが好きな人なんだ。私と違って、女の子らしく可愛いアイドルのような顔をしている)
康介は学生時代、彼女を好きだったと言っていた。
どちらかというと雪乃は背が高く、目は大きいが吊り目がち。クールビューティーと学生の頃は言われた。
雪乃は冷たそうに見えるからという理由で、雪女というあだ名をつけられたこともある。
見た目も雰囲気も全く違うのに、夫はなぜ自分と結婚したんだろうと不思議に思った。
康介の帰りを待つのをやめて、荷物の整理を始める雪乃。
帰ってくるかどうかわからない人を待つのは辛い。
そんな思いをするくらいならビジネスホテルに泊まったほうがマシだと思った。
どのみち、もう康介と同じ部屋の同じベッドで眠ることはできないだろう。
雪乃は他の女を抱いた夫の横で眠りたくはなかった。
しばらくの間ビジネスホテルに泊まろうと決めた。
ひと月、会社の研修でホテル住まいだった事もあるから、問題はないだろう。
なにも、新しいアパートが見つかるまで康介と共に暮らす必要はない。
その考えにたどりつくと、着替えと化粧品をスーツケースに詰め込んだ。
夫は水曜と金曜、月にだいたい6日彼女と会っていた。
休憩だとしてホテル代が3~4万。食事もしているだろうから、交通費も入れて7万くらいだろうか。
職種が経理だから、思わず計算してしまった。私のために使われたお金じゃなく、彼女と楽しむために使ったお金なんだなと思うと腹が立つなと思った。
「旅行とかにも行ってたのかな……?」
考え出すとキリがない。
さっき康介との話の最中、冷静でいた自分に少し驚いた。
「私って肝が据わっているのかしら」
もともと雪乃は感情をあまり表に出さないタイプだ。
冷たいと言われたこともあり、それで誤解されることも多かった。
けれど感情はある。
辛く哀しい想いだって人間なんだからあるに決まっている。
**********************
帰って来て雪乃がいなくなっていることに気がついただろう夫からの連絡はなかった。
そもそもスマホを壊してしまったから、連絡のしようがないだろう。
パソコンに同期していたら番号くらいは分かっていると思うけど。
そんなことを考えながら、雪乃はビジネスホテルで賃貸住宅情報を検索していた。
トゥルルルル、トゥルルルル……
ホテルの部屋の電話が鳴った。
『河津康介様というお客様がいらっしゃっています』
受付からの電話だった。
どうやって自分の居場所を突きとめたのか雪乃は分からなかった。
連絡せず、直接宿泊先に来る強硬手段は康介の決意表明のような物なのだろう。
長期滞在できて、価格的にも安く雪乃の会社に近いホテルと考えればだいたい察しはついたのかもしれない。
けれど、ビジネスホテルが混在しているこの地区で、泊まっているホテルを特定するのは難しかっただろう。
受けて立つしかないが、雪乃は流されるタイプではない。
静かだが自己主張はするし、怯えて何も言わない性格でもない。
『行きます』
部屋に招くのもどうかと思い、下に降りていく事にした。
雪乃が家を出ていってから5日が経っていた。
康介は仕事帰りに来たのだろう。
時間は夜の8時だった。
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