第6話
雪乃は呆れたように短くため息をつくと話し始めた。
「彼女の旦那さんに、あなたとの不倫関係がバレたらどうするの?もし、そのことが原因で、ご主人が真奈美さんと離婚するって言ったらどうするの?慰謝料だけあちらに支払って済む問題じゃないわよね」
「そんな事にはならない。彼女は離婚するつもりなんてない。子どももいるんだ。家だって、ローンを組んで買ったって言っていた」
「ローンを組んで買ったマイホームも手放して、子供は……小さいから育てるのは奥さんのほうよね?仕事はしていないでしょうから、母子家庭で福祉のお世話になって一人で真奈美さんは頑張っていくのよね?」
「そんな……大げさなことにはならない」
「あなたは無責任にも、彼女を放置して、離婚の原因になったにもかかわらず、私と幸せに結婚生活を続けるの?」
「だから、ご主人には関係はバレていないし、子供がいるのに簡単に離婚なんてしない」
「……康介さん。私からは何も言わないし、関係をバラしたりしない。だけど、彼女はあなたを愛しているかもしれないし、離婚してもいいと思っているかもしれないでしょう。さっきのメッセージにもそれが伝わるような文面があったわ」
「遊びだから、彼女もそんな言葉が言えるんだ」
「彼女が離婚したら、あなたは責任を取って彼女と再婚してあげるべき。子供が二人もいるんだし、今から私と子どもを作る必要もない。私は、揉めずに、できるだけ円満にあなたと離婚したいの。もういいでしょう」
「彼女の子供は俺の子じゃないだろう。もっと考える時間を持ってくれ、時間が経てばもっと冷静に物事を考えられる。離婚だとか簡単に言わないでくれ。雪乃と過ごしてきた3年は何だったんだ」
それをあなたが言うの?
「30歳までに私たちの子供を産みたかったわ。昨日は私の誕生日だった。そろそろ子どものことを話し合えるかなって思ってた。あなたがしたのは、ただの浮気なのかもしれない。無かったことにすればそれでいいのかもしれない。でも、私はあなたの愛情に縋ってしか生きられない人間になりたくないの」
「どちらか片方に縋るんじゃない。お互い支え合って生きていくんだ」
それが裏切られたんだから、どうしようもないじゃない。
「かっこ悪いでしょう。愛した人が別の人を愛してしまったんだから、私はあなたを諦めることを選ぶの」
「だから、俺が愛しているのは君だけだ」
「どうするの?もうすぐ準備して家を出なくちゃ間に合わないわよ。真奈美さんがホテルで待ってるわよ?」
行かないという選択肢があることに康介は気付くだろうか。
「……携帯を壊したりしなければ、連絡できたのに……」
「そうね。弁償するわ」
「そういう問題じゃない!彼女と別れ話をしに行ってくる。雪乃も少し冷静になってもう一度ちゃんと考えてくれ。俺との夫婦生活に不満はあった?お互い愛し合いっていたし思い合っていたと思う。君を大切にしていた」
康介は自分の部屋へ何かを取りに行き、包装された包みを雪乃の前に置いた。
「君の誕生日プレゼントを用意したんだ。今日、ホテルで渡そうと思っていた」
(いらないわよ)
昨日彼女と抱き合って、今日は妻にプレゼントを渡す。
そんな調子がいい夫を軽蔑する。
康介を信用できないのは当たり前だ。
そして、こんなに大事な話をしているのに、遊びだと言っていた浮気相手に会いに行こうとしている。
いくら妻が行くように勧めたからと言ってもだ。
彼女を放置したらいい話だけど、それを康介はしないだろう。
二度と会わないと言ったあなたは真奈美さんに会いに行くのよね。
愛していると言った妻を置いて。
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