人の物語るを味わう
私は読書が好きである。
そういう方は世の中に数多いるであろう、その反面、本を読むことをしないという方もいる。別にどちらでも良いと思うのだ。無理に読まなければならないものでもない。
そして読書が好きとひとことで言っても、その読み方は千差万別、十人十色。百人いたら百人が異なる読み方をして、それが当然のことだろうと個人的には思っている。
本の読み方というものに、正解はない。と、これは私の持論であるので、「そんなことはない」と言う人がいてもそれで良い。
私はこれまでの人生で、おそらく相当数の本を読んできている。これは自慢だとかそういうわけではなく、ただ書棚にあるものを片っ端から読んでいた、そういう事実に拠るものである。
さて、この書棚の本。自宅の両親が所蔵していたものと、祖父が祖父の家に所蔵していたものだ。
私の祖父は、研究者であった。所謂、大学教授という職業である。もう何年も前に彼岸に渡った人であるが、実は著作もいくつか出版されている――というのは完全なる余談か。そもそもこれは祖父の功績であって、それで私がどうなるものでもない。
ともかくそんな立場の人であるものだからか、それとも単なる趣味であったのか、この祖父の蔵書というのがなかなかの数であった。祖父の書斎は本の詰まった棚がいくつも聳え立っていて、祖父はその中で埋もれるように仕事をしていたものである。その書斎と、縁側、そしてリビング、これが祖父の家の本棚の場所であった。
その本棚もひとつではない。いくつあるのか数えたことはないが、ともかく沢山だった。今となってはもう数えることはできないのである、祖父の死と共に研究用の資料であるとか、そういったものはすべて寄贈してしまった。遺ったのは祖父が趣味で集めたものである。それでも天井から床までの大きな書棚六個分はあるのだけれど。
さて私はこの祖父の家で、延々本を読んでいたのである。どうにも同世代の子どもと馴染めなかった私は、おそらく本の世界に逃げ込んだのであろう。
自宅も自宅で家系なのか本だらけで、通称を「本の部屋」という、部屋の壁がほぼすべて書棚の部屋がある。結局そこに納まりきらず、廊下にまで書棚は進出しているのだが――本来そこは文房具であるとか、よそ行き用の靴であるとか、そういうものを置いておく場所であったはずなのだが、今はもう本しかない。
これもまた、片っ端から読んだ。学校から帰ってきて、本の部屋に引きこもった。
そういうわけで完成したのが、立派な本の虫、活字中毒者なのである。その過程でなのか、それとも元々の写真記憶的なものによるのか、速読を身に付けたわけなのだが。
本とは、ものがたるものである。
人は何故本を書くのか。語りたいことがあるからである。と、こんな話を先日人前でしたのだと、そんなことをふと思い出した。
故に、物語なのか。
本屋に行けばずらりと並び、webを見ればそれ以上に多くの物語がある。それはすべて、誰かが自分の手で生み出し、物語ったものである。であればこれらはすべて誰かが語りたいことであり、その手で生み出された価値あるものだろう。私にとってはいずれも、等しく価値ある物語なのである。
こう書くと出版されているものとwebは同じかと言われそうなものであるが、誰かが自分で生み出し、自分の手で書いたという点においては、やはり等しく価値あるものだと思うのだ。出版されているであるとか、多くの人に読まれているだとか、そういうものは更にその上にある付加価値というものだろうと私は思うのだ。
だから、いずれも蔑ろにするようなものではない。私はつまり、そうして誰かが物語ったものを読むのが好きなのだ。そこには物語があり、その向こうには必ず作者が――生きた人間がいる。私にとって読書とは、ある種の作者との対話でもある。
ですから、あなたはあなたのことばで、あなたの思うように、物語を綴れば良い。私はそう思っている。もっともすべてを私が読むことはできないので、それはもどかしくもあり、けれど同時にだからこそ、出会えた物語というのは得難いものなのだろうと思う。
だからいつも何を読むにしても最初にこう思う。「ありがとうございます、いただきます」と。そうして咀嚼し、飲み込み、それぞれの味を楽しむのだ。
文章とは、味あるものである。私にとってそれは、実際比喩ではない。
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