第5話 アルベルト・ロッサ

田中竜星は、オフィスの窓から見える夜景をぼんやりと眺めていた。エリックの誘拐事件から数日が経ったが、その衝撃はまだ消え去っていない。勇者株式会社の成功は、表の世界だけでなく、裏社会にまで波及していた。田中はそのことに気づき、次の一手を慎重に考えていた。


「これ以上、裏社会と戦うだけではいけない……」


彼は自らに言い聞かせるように呟いた。表社会の改革が進むにつれ、裏社会からの抵抗も激化していくのは避けられない。だが、田中は戦いによって全てを解決するつもりはなかった。彼はビジネスで人々の心を掴み、信頼で世界を変えてきた。そして、今回もその信念を貫くつもりだった。


「竜星、考えはまとまったのか?」


ミリア・オルステッドが部屋に入ってきた。彼女の顔にはいつもの冷静さが戻っていたが、内心ではまだエリックの誘拐事件の後遺症を引きずっているのだろう。彼女もまた、今回の事件を通じて、裏社会の暗い現実に直面していた。


「俺たちは、裏社会と正面から向き合わなければならない。力で制圧するのではなく、話し合いで解決する方法を探す」


田中の言葉に、ミリアは少し驚いた表情を見せた。


「話し合いで解決? そんなことができるのか? 相手は一筋縄ではいかない連中だぞ」


「わかっている。でも、今までのやり方で闘争を続けていても、無限に衝突が続くだけだ。俺たちの目的は、世界を平和にすることだろう? だからこそ、裏社会とも共存できる道を探さなければならない」


田中は自分の言葉に確信を込めた。彼が目指すのは戦いによって誰かを打ち負かすことではない。裏社会の人間にも、彼らなりの生き方があるはずだ。彼らと話し合い、共存の道を模索することが、この世界を本当に変えるための次のステップだと感じていた。


「でも、どうやって彼らと話し合いを始めるつもりだ?」


ミリアは疑念を抱きながらも、田中の提案に興味を示していた。彼女は長年、冒険者として生き抜いてきたが、裏社会との交渉は一度も経験したことがない。それがどれほど難しいことかを理解していた。


「彼らのリーダーに直接会う。エリックを誘拐した連中の背後にいる人物がいるはずだ。そいつに接触して、話をつけるんだ」


田中の言葉に、ミリアはしばらく黙って考えていたが、やがて頷いた。


「わかった。竜星がそう決めたなら、私もついていく」


その翌日、田中とミリアは裏社会との接触を試みるため、情報を集め始めた。裏社会の人間たちは、表に出ることを嫌う。だが、田中はこれまでのビジネスで培った人脈を駆使して、彼らに繋がる道を探していた。


数日後、田中はついに裏社会のリーダー格とされる「アルベルト・ロッサ」という男にたどり着いた。彼は表向きには一流の商人として活動しているが、裏では違法取引や犯罪組織を束ねる実力者だという。


「アルベルト・ロッサ……聞いたことがある。かなり危険な男だぞ、竜星」


ミリアは警戒心を強めながら言った。彼女も冒険者としての経験から、この名前を知っていた。


「危険な男だろうと、会わなければ始まらない」


田中は冷静にそう言い切った。裏社会と交渉することは、リスクを伴う。だが、このまま放置していては、再びエリックのような被害者が出ることは避けられない。田中は覚悟を決め、アルベルト・ロッサと直接対話するための場を設定した。


数日後、田中とミリアは、アルベルト・ロッサとの会談場所として指定された高級なレストランに向かった。その場所は異世界の都市の外れに位置し、普段は表向きの取引が行われる場所だが、裏取引も頻繁に行われているらしい。


「ここがその場所か……」


田中は一瞬立ち止まり、ミリアと目を合わせた。ミリアはいつでも戦闘に入れるよう、剣の柄に手をかけている。


「大丈夫だ、ミリア。今日は戦うつもりはない」


田中は微笑みながらそう言ったが、ミリアの緊張は解けなかった。それでも、田中の決意を信じて彼に従っている。


レストランの中に入ると、すでにアルベルト・ロッサが待っていた。彼は落ち着いた雰囲気の中、ワインを片手に優雅に座っている。その顔には、全てを見透かしたような余裕が浮かんでいた。


「田中竜星……ようやく会えたな。君のことは聞いている。なかなか面白い男だと噂だよ」


アルベルトはにこやかに笑い、田中に手を差し出した。田中はその手をしっかりと握り返し、冷静な表情を保った。


「話し合いに来た。俺たちのビジネスが、どうやら君たちにとって邪魔になっているらしい」


田中は率直に切り出した。アルベルトはその言葉に笑みを浮かべ、ワイングラスをゆっくりと傾けた。


「邪魔、というのは正しい。君たちが保険を広めれば広めるほど、裏の取引は厳しくなる。君の言う『信頼』が、この世界を変えつつあることは認めよう。だが、裏社会にも生き方がある。君がそれを脅かしているんだよ」


アルベルトはそう言いながら、田中をじっと見つめた。彼の目には、決して恐怖や敵意だけではなく、何かもっと複雑な感情が込められているように見えた。


「俺たちは、お互いに必要なことをしているだけだ。裏社会の存在を否定するつもりはない。だが、俺たちのビジネスは、もっと広く、もっと多くの人々の未来を守るために必要なんだ」


田中は強い口調でそう言い切った。彼はアルベルトと対等に向き合い、対話の糸口を探そうとしていた。


「君の理想は立派だ。しかし、理想だけではこの世界は回らない。それは君も分かっているだろう?」


アルベルトの冷静な声に、田中は一瞬考え込んだ。確かに、理想だけでは解決できない問題がある。だが、田中は信念を持って進んでいく覚悟があった。


「俺たちは、共存できるはずだ。君たちのやり方を尊重する代わりに、俺たちのやり方も認めてもらいたい。共存の道を模索することで、無駄な争いを避けられるんじゃないか?」


その提案に、アルベルトはしばらく黙り込んだ。そして、ゆっくりと口を開いた。


「君の提案は興味深い。だが、共存が可能かどうかは、私だけでは決められない」


彼の言葉には、何かを試すような含みがあった。田中はそれを感じ取りながらも、彼との対話を続ける意思を固めた。


「それでも、俺は話し合いを続けるつもりだ。信頼を築き、共にこの世界を良くしていくために」


アルベルトは微笑んでワインを一口飲んだ。


「君の言う信頼がどれほどの力を持つか、見せてもらおうじゃないか。共存の道があるなら、それを示してみせてくれ」


田中はアルベルト・ロッサとの対話を終え、ミリアと共にレストランを後にした。闇の勢力との対話はまだ始まったばかりだが、田中には手応えを感じていた。彼が目指すのは、戦いではなく共存。信頼の力で、裏社会との新しい関係を築くことができるはずだと信じていた。


「これからが本当の勝負だな」


田中は静かに呟き、夜の街を歩き始めた。彼の心には、新たな希望と覚悟が芽生えていた。


田中竜星は、アルベルト・ロッサとの初めての会談を終えた後、深い思索にふけっていた。彼の言葉には裏社会の冷酷さと、それを超えた何かが感じられた。それは、彼らもただ力で支配するだけではなく、生き延びるための道を模索しているということ。田中はその隙間に自分の「信頼」を介在させ、共存の道を開けるのではないかと感じていた。


しかし、彼の前にはいまだ多くの課題が山積していた。裏社会と手を組むことは、冒険者やクライアントたちにとっては信用を損ねるリスクにもなる。だが、闇と光の境界線を探りながら歩むことが、今後の成功には必要だと彼は考えていた。


「竜星、本当にアルベルトと共存できると信じているのか?」


ミリア・オルステッドが、田中の横に立ち、問いかけた。彼女の目には不安が浮かんでいた。ミリアにとって、裏社会は敵以外の何物でもなく、共存という言葉にはまだ懐疑的だった。


「分からない。でも、俺たちがこれまで築き上げてきた信頼があれば、できるはずだ。彼らにとっても利益になる道を提示できれば、無駄な争いを避けられる」


田中はそう言って微笑んだが、その表情は慎重さを帯びていた。今の段階では楽観視することはできない。裏社会は狡猾であり、一度の交渉が全てを解決するわけではない。しかし、彼にはこの挑戦を乗り越える強い意志があった。


「次は、どうするつもりだ?」


ミリアはまだ警戒を解かないまま尋ねた。


「アルベルトの言葉には、俺たちが提供できる何かを待っているような響きがあった。次は、具体的にどう共存できるかを示す必要がある」


田中はそう言って、オフィスにあるホワイトボードに向かい、構想を練り始めた。彼の考えはシンプルだが、それを実現するためには精緻な計画が必要だった。


その数日後、田中はアルベルトとの再会談の場を設けるため、彼に連絡を取った。田中は今回の会談で、自分たちのビジネスモデルをベースにした「共存案」を提示するつもりだった。それは、裏社会と表の社会がどちらも利益を享受できる新しい取引の仕組みだ。


再び指定された場所は、前回と同じレストランだった。田中とミリアはその夜、再び店内に足を踏み入れ、緊張感の中でアルベルトを待った。彼らが到着すると、アルベルトはすでに席についており、静かにワインを楽しんでいた。


「また会えて嬉しいよ、田中竜星」


アルベルトは微笑みながら田中たちを迎え入れた。その余裕ある態度には、何かを見透かしたような感覚があった。


「こちらこそ、また話ができて嬉しい。今日は、少し具体的な話を持ってきた」


田中は席に着くと同時に切り出し、持参してきた資料をアルベルトの前に広げた。そこには、裏社会と表の社会を結びつけるための新たなビジネス提案が書かれていた。


「私たちは、裏社会が表の社会と共存する方法を見つけるために、信頼をベースにした取引の仕組みを提案する。例えば、裏社会で活動する商人や冒険者にも、私たちの保険制度を利用してもらうことで、彼らのリスクを軽減できる。さらに、彼らが必要とするサービスを、私たちが表向きに提供できるようにする。これにより、表社会の規制を回避しながらも、両者に利益をもたらすことができるはずだ」


田中の説明を聞き、アルベルトは興味深そうに資料に目を通した。その間、ミリアはじっとアルベルトを見つめていたが、田中の提案が実現可能かどうかを懸念していた。


「君の提案は面白い。表と裏の境界をうまく利用し、双方にとって利益を生む仕組みだ。しかし、私が本当に求めているのは、ただの利益ではない。裏社会は、自由であることを最も重要視している。君たちのビジネスは、その自由をどこまで尊重できるのか?」


アルベルトはそう言って、田中を鋭く見つめた。その視線には試されるような強さがあった。


「もちろん、自由を奪うつもりはない。むしろ、俺たちは裏社会の人々がより安全に活動できるようにサポートする。リスクを最小限に抑えることで、彼らの自由を尊重しながらも、彼らがもっと効率的に活動できる環境を提供するつもりだ」


田中は自信を持って答えた。彼はただの取引ではなく、裏社会との信頼を築くことを目指していた。


アルベルトはしばらく沈黙していたが、やがて微笑んだ。


「君は、思ったよりも真剣にこの問題に向き合っているようだ。だが、私一人で決めることはできない。この世界には、私以外にも多くの影の存在がいる。君が提案する共存の道を、彼らが受け入れるかどうか……それを確かめなければならない」


アルベルトの言葉に、田中は驚きながらもすぐに状況を理解した。裏社会は一枚岩ではなく、さまざまな勢力が存在する。彼ら全員を納得させるためには、さらに多くの交渉と調整が必要になるだろう。


「そうか……分かった。俺たちはその覚悟でこの道を進んでいる。君が他の勢力と話し合い、彼らと会う機会を作ってくれるなら、俺たちはいつでも準備ができている」


田中の決意に、アルベルトは静かに頷いた。


「分かった。君の提案を検討する。そして、必要があれば君たちを他の勢力に紹介しよう。だが、その際は気をつけることだ。裏社会には、君たちの理想とは全く異なる考え方を持つ者も多い」


アルベルトの警告は、田中にとっては当然のリスクだった。だが、それでも彼は一歩も引くつもりはなかった。


「ありがとう、アルベルト。共にこの世界を変えられる日が来ることを願っている」


田中は深く頭を下げ、アルベルトと握手を交わした。その手の温もりには、まだ完全な信頼は感じられなかったが、それでも交渉の第一歩としては十分だった。


オフィスに戻った田中は、すぐにミリアに次の戦略を共有した。


「アルベルトは、俺たちの提案に興味を示している。だが、これで終わりじゃない。裏社会全体を巻き込むためには、まだ多くの壁がある」


田中はホワイトボードに新たなプランを書き込みながら続けた。


「次のステップは、裏社会の他の勢力とも交渉し、彼らに共存のメリットを理解してもらうことだ。そのために、彼らが何を求めているのかをもっと詳しく知る必要がある」


「でも、それは危険すぎるんじゃないか? 他の勢力はアルベルトほど話の分かる相手とは限らない」


ミリアの心配はもっともだった。裏社会には、力と恐怖で支配する者たちも多い。だが、田中はそのリスクを承知の上で挑む覚悟を持っていた。


「リスクは大きいが、俺たちには信頼という武器がある。どんな相手でも、心を開かせることができるはずだ」


田中の言葉に、ミリアはしばらく考え込んだ後、深く息をついて頷いた。


「分かった。あんたについていくよ、竜星」


---


「これが最後のチャンスだろうな」


田中竜星は、背後にいるミリア・オルステッドを一瞥し、静かにそう呟いた。彼らがこれまでの交渉を経て、たどり着いたのは裏社会のさらに深い場所――「影の評議会」と呼ばれる組織の本拠地だった。


「影の評議会」は、裏社会全体を裏から操る最高機関であり、その支配者たちは誰もが一度会うだけで二度と忘れられない存在だと言われている。アルベルト・ロッサとの交渉は順調に進んだが、この評議会を納得させなければ、田中の描く「共存」の道は絶たれる。そして、最悪の場合、勇者株式会社が完全に潰される可能性すらあった。


「竜星、気を引き締めろ。相手はただの裏社会のボスじゃない。彼らは、何十年もこの世界を裏から支配してきた者たちだ」


ミリアは声を潜め、いつもの冷静な表情のまま忠告した。彼女も内心では、この場が緊張感に満ちていることを感じ取っている。


「わかってるさ。でも、ここで引き下がるわけにはいかない」


田中はしっかりと自分を奮い立たせ、決意を新たにした。これまでに培ってきた信頼と、何よりも彼自身が信じる未来のために、今日この場で決着をつけなければならない。


評議会の本拠地は、異世界の地下に広がる古い城塞だった。そこに集まる者たちは、どれも一癖も二癖もある存在感を放っていた。部屋に入った瞬間、田中とミリアは全ての視線を一身に浴びた。評議会のメンバーはそれぞれ豪華な椅子に座り、田中たちの動向をじっと見守っていた。


「勇者株式会社の田中竜星か……噂には聞いていたが、まさかここまでやって来るとはな」


評議会の中央に座っていた初老の男が、田中に向かって低い声で話しかけた。その男――カイン・バルティウスは、評議会の実質的なリーダーであり、裏社会の中でも特に影響力を持つ人物だった。


「君が提案する『共存』という言葉がどれほどの意味を持つのか、私たちも興味がある。しかし、裏社会にとっては、共存というのはあまりにもリスクが大きい話だ」


カインの言葉には、ただの警戒心だけでなく、確かな懐疑が込められていた。裏社会のリーダーたちは、これまで表社会からの圧力や、内部分裂にさらされながらも生き延びてきた。彼らにとって、田中のような「信頼」を前提とするビジネスは、理想論に過ぎないのかもしれない。


田中はその言葉に対し、冷静に返答した。


「確かに、共存はリスクを伴います。しかし、そのリスクを避けるために今まで通り戦い続けることは、結局、無益な消耗戦を続けるだけです。私たちは共に利益を得ることができる――それが、今日提案する内容です」


田中はそう言って、懐から資料を取り出し、評議会のメンバーたちに向けて広げた。彼の提案は具体的だった。裏社会にとっても利益を生み出し、表の社会との取引が安全かつ効率的に行えるようにするためのビジネスモデルだ。


「たとえば、裏社会で活動する商人や冒険者たちが合法的に表の市場に参入できるようにするための新しい制度を提案します。私たちは、彼らが抱えるリスクを軽減し、より安定した取引を提供するために、保険や金融サポートを提供することができます」


評議会のメンバーたちは、田中の説明にじっと耳を傾けていた。だが、彼らの顔には未だ疑念が残っているようだった。カインが再び口を開いた。


「その理論は理解できる。だが、君が私たちに提供するメリットは、それだけでは不十分だ。裏社会の根本的な信条は『自由』だ。表社会の規制に縛られることで、その自由が失われるリスクを、君はどう捉えている?」


カインの質問は核心を突いていた。裏社会の人々にとって、自由は何よりも重要な価値だ。表のルールに従うことは、彼らにとって致命的な束縛になる可能性がある。田中はその質問を受け、しばし沈黙した。


しかし、彼はすぐに言葉を返した。


「自由を奪うつもりはありません。むしろ、私たちはその自由を守るために共存の道を提案しています。規制や束縛ではなく、お互いに信頼できるパートナーシップを築くことで、双方がより大きな自由を手に入れることができると信じています」


田中は真剣な眼差しでカインを見つめ、続けた。


「もちろん、規制のない完全な自由を求めるなら、私たちと組む必要はないでしょう。しかし、戦いを続けることで生まれる損失や不安定な状況を放置していては、いずれ裏社会も自滅することになる。その前に、私たちは新たな道を探すべきだと提案しています」


田中の言葉に、評議会の中で低いざわめきが起こった。彼の提案は理にかなっているが、長年続けてきた方法を捨てることには強い抵抗がある。裏社会は常に危機感と共に存在してきた。彼らにとって、信頼を前提にする世界は未知の領域だ。


その時、アルベルト・ロッサがゆっくりと立ち上がった。彼は一歩前に進み、評議会のメンバーに向かって静かに語り始めた。


「私は、田中竜星の提案を支持する。彼は、表の社会で多くの人々の信頼を勝ち取ってきた。そして、私たちが彼と共に歩むことで得られる利益は、決して小さくないはずだ」


アルベルトの言葉は評議会に新たな波を呼び起こした。彼は裏社会の一部を代表する人物であり、彼の支持は大きな意味を持つ。カインをはじめとするメンバーたちも、少しずつ田中の提案に耳を傾けるようになっていた。


「なるほど……アルベルトがそこまで言うのなら、我々も真剣に検討する必要があるかもしれないな」


カインは一度目を閉じ、深い呼吸をした。そして再び田中に目を向け、低く静かな声で言った。


「よし、田中竜星。我々は君の提案を受け入れることを前提に、今後の詳細な協議を始める準備をする。ただし、条件がある」


「条件?」


「裏社会の中には、君の理想に賛同しない者もいるだろう。その者たちを納得させるために、私たちが信頼できるパートナーであることを、実際の行動で示してもらう必要がある。まずは小さな成功を示し、我々にそれを見せてもらおう」


カインの言葉には、まだ完全な信頼は感じられなかったが、それでも交渉の大きな一歩を踏み出したことには違いなかった。田中はしっかりとその提案を受け止め、深く頷いた。


「分かりました。私たちは必ず結果を出してみせます」


その言葉に、評議会のメンバーたちは静かに頷いた。そして、田中たちは再び歩き出した。表と裏の共存に向けた新たな道を切り開くために。

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異世界勇者株式会社 〜最低ランクからの上場物語〜 湊 マチ @minatomachi

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