警察の来店
「だーかーらー、本物の警察手帳だって言ってんでしょ!」
「店の前でギャーギャー喚くな。そんなに喉元をカッ開かれたいのか?」
「こわっ!俺は悪い警察じゃなーいー!お前らに用があって来たの!というか終に!」
寝ぼけ眼の夜嵐さんは表でギャーギャー騒ぐ警察と何やら揉めているアサを見て、ふぁぁとあくびをする。
警察の後ろにいる刀を持ったお姉さんは、今にも抜刀しそうでボクはヒヤヒヤしていた。
というか警察だからって銃はともかく刀も持ち歩いていいの?という疑問が浮かぶ。
夜嵐さんが起きて来たのをアサが確認すれば、ずんずんとこちらに向かって歩いて来て、チラッと後ろの警察官二人組を見ながら詰め寄った。
「あれはどういうことだ。お前の知り合いか?」
「はぁ?……ったく、朝から突然くすぐられて起こされて何事かと思えば、
「やっと起きたかこのねぼすけ!!」
「ねぼすけも何もまだ8時にもなってないだろ。」
「俺は7時には出勤してるんですー!というか今はそれどころじゃないんだけど……」
それどころじゃないとはどういうことだろうか、と首を傾げる。
どうやらあの警察は夜嵐さんの知り合いらしく、「朝霞、桜雅くんに敵意はない。」と言ってアサの警戒心を少し緩めさせた。
裏社会を生きていると警察官には少し敏感になってしまうのだろうか、とティーカップにお茶を注いでカフェの中まで入ってきた4人の席にお茶を置く。
「で、桜雅くんは何の用でここに?」
「よくぞ聞いてくれた!そこの女が俺が警察だって聞いて締め出そうとするから参ったよ…」
「それはこっちのセリフだ。ウチはグレーよりのグレーだが、警察と関わりを持つほど馬鹿じゃない。」
「そこをなんとか助けてほしいんだって!特異能力関係のことはここ以外もう他に頼れるところがなくて!」
必死に頼み込む警察を見て、アサと夜嵐さんはチラッとお互いを横目に見て目を合わせる。
ボクは、特異能力と聞いてここは警察までもが頼れる場所なのかと少し驚いた。
とはいえ夜嵐さんの知り合いだから、というだけかもしれないけど。
「話だけ聞こう、要件を言え。」
「ハイハイ、じゃあ簡潔に言うね。……3日前から、うちの課の大半の同僚が一度眠りについてから目を覚さないんだ。」
「んぇっ、3日前からってさすがに寝過ぎじゃ……」
しかも課の大半が目を覚さないなんて、明らかにおかしい。
これも特異能力に関係することなのだろうか?と夜嵐さんを見れば、何やら深く考えているようだった。
ふいに警察の人からじっとこちらを見られていることに気づいて、なんて反応をすればいいのか分からずぎこちなくへこへこと頭を下げれば、目を擦る警察の人。
「おかしいな、人間の頭に犬の耳が生えてるように見える……俺も疲れてるのか……?」
「安心してください、先輩。私の目にも少年の頭に犬の耳と尻尾がついているのを確認できます。」
「んぇええ……ど、どどど、どうしようっ!?」
人前に出る時は昨日アサにもらった帽子を被っておけって昨日言われたばっかりなのに!と冷や汗をだらだらに流せば、隣に座っていた夜嵐さんに肩をポンと叩かれる。
「安心しろ、帽子を忘れたくらいどうということもない。俺なんかまだパジャマのままだぞ。」
「いや終はさっさと着替えてきなさい!」
「というか、桜雅くんのいる課じゃ全然こういうの見慣れてるだろ。」
「いや、流石にケモ耳はいないよ?動物みたいに耳が良かったり、嗅覚が優れていたりするやつはいるとしても、それが身体に現れるほどの強い能力者は見たことがない。」
「んぇっ、じゃあボクの能力って結構強かったりするんですか…?」
恐る恐る聞いてみれば、「さぁ?どうだろうね。」なんて、どこか夜嵐さんと話していた時よりもボクの言葉を軽く聞き流される。
まるで、そんなにボクに犬の耳が生えていることを気にしていないような言い方だった。
というよりも、ボクのことが眼中にあるようでないような、明るそうな性格の反面そんな少しの違和感に、ボクは内心首を傾げる。
「耳が生えたからと言って能力が強い訳じゃない。もしかしたらただ耳が生えただけで、犬のように聴覚が優れている訳でもないかもしれないし。」
「あ、ボク昔から聴覚と嗅覚だけはいいです……あと走るのも!」
「ふーん?というか、この子誰?」
「この子は昨日クラブに入った新人アルバイター、
「へぇ、そう。俺は
「ボクは君たちに依頼をしにきたの!」そう言って脱線していた話を戻して、3日前から眠り続けているという同僚たちについて事細かく教えてくれる。
カバンからある資料を出した彼は、いくつかの写真を取り出して何らかの紋様が描かれてあるものを見せた。
「なんだこれ、サキュバスの紋様か?」
「そうでしょ!終もそう思うよね!?」
「サキュバス……つまり夢食い魔か?眠っているのは男も女も構わずってなると、結構見境なしだな。しかも狙い場所が狙い場所だ。」
「私たちの課は公安部対特異課特殊特異能力犯制圧隊、つまり特異能力に特化した警察官。その大半をサキュバスが眠らせたとなると、早くしなければ取り返しのつかないことになります。」
「んえっ、サキュバスなんて本当にいるんですか?」
ボクが突然サキュバスの話になって困惑していれば、みんながみんなサキュバスがいるみたいな方向で進めてしまって、唐突に疑問を問いかける。
特異能力ですらこの耳が生える前は半信半疑だったというのに、サキュバスなんて本当にいるのだろうか?
しかしみんなの考えることは多種多様で、警察の烏羽さんは苦々しい顔をして「そこが問題なんだ。」と言う。
「サキュバス含め、異人生命体は100年以上前に既に絶滅したと考えられていたんだよね。」
「異人生命体?」
「簡単に言うと妖精とか、日本で言うと鬼とか、妖怪とか。その中でも人型をした高い思考能力を持つ、人とは異なる種族のこと。」
「わぁ、すごいファンタジー。」
「いや犬耳の生えた君の言えることじゃないけどね!」
ハッ!それはたしかに……と自分の犬耳を触りながら苦笑いをする。
それにしても、じゃあ何故絶滅したはずのサキュバスが今更現れたのだろう。
しかも、わざわざ特異能力に特化した警察を狙った理由とは?
疑問に疑問が重ねられて、ボクは頭を悩ませる。
「ともかく、原因が何であれこのままだと彼らはサキュバスに夢の中で精気を取られてしまい、伝承によると活力を失った人間は植物状態になるとまで言われています。」
「植物状態か……どれくらいの時間眠っているとそうなるんだ?」
「多分、持ってあと1日……これはある同僚の写真なのですが、みるみるうちに身体に活力がなくなっています。」
「ふーん…」
見せてもらった写真と元の写真を比較してみると、明らかに顔がげっそりしていて、いったい夢でどんなことをされたらそんな顔になるのだろうかと疑問に思う。
そんな中で突然立ち上がった夜嵐さんは、急足で地下室へと行った。
みんなで過去を見合わせていれば、十数秒後に帰ってきた彼はある香水を持ってきたという。
「で、何を持ってきた?」
「夢魔は夢を食べるんだろ。じゃあ眠っている彼らが夢を見ないようにすればいい。」
「??えっと、つまり……」
「持ってけドロボー。これは俺が作った寝ている時に夢を見ないようにする香水。使用者が匂いを嗅げるように首筋辺りに擦るのが効果的だ。」
そう言って香水の瓶を烏羽さんに投げた彼は、ふぁぁあとまたあくびをする。
「それじゃ、一仕事したし俺はもう一度寝る。必要なら朝霞と狗谷でも連れてけ。」
「あ、待って!……いつもありがとね、終。」
優しく微笑んだ烏羽さんのその言葉に、無言で左手を振って地下室へと戻る彼を誰も止めることはせず、これからどうするかを決めることにした。
俗に言うツンデレというやつだろうか。
夜嵐さんの意外な一面をまた新たに知れた。
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