帰り道

あれからなんやかんやあって、テロ騒動のどさくさに紛れて商品を持たずにスーパーを出た。


ただありがたいことにカゴに入っていたさっきのアイスの当たり棒を見た店員さんが、お金を持ってないボクを哀れんだのか「このアイスだけでも持って行って!」と言ってくれたので、厚意に甘えて帰路へとついたのだが。



「……キミ、なんでボクの後ろをついてくるの?」


「行き先が同じだから?」

「んぇ、アサの知り合い?」


「わからない。」



わからないとはどういうことだろう、と首を捻る。


ボクよりも少し年下だろう少女は、レジに並んでいた列でボクたちの一つ前で一人で会計を済ませていた子だった。

会計が終わったのと同時にあの黒マスクたちが入って来たため、アサがボコした後の混乱では唯一そのまま帰れるようだったらしい。


それにしたってまだ中学生くらいの少女もたくさんの食材を買って買い出しに来ているなんて、最近の子は感心する。



「えっと、でもこんなにたくさんの荷物なら先に家に帰った方がいいんじゃないかな……」


「?これ、あなたのための荷物。私、未来見えるから。」

「んんんえぇ??ボクのための荷物?未来って…よく分からないけどそれならボクが荷物持つよ、重いでしょ。」


「持ってくれる?助かる。」


「あ、じゃあ代わりにこのアイスいる?本当はアサのなんだけどボクのこと置いて行っちゃったし…」

「アイス?……食べる。」



どこかロボットじみた喋り方をする少女に、ボクはどう対応すればいいのか分からず、その後はしばし沈黙が空気をこだまする。

しかし僅かながらも頬を緩めて美味しそうにアイスを食べる少女を見て、これはこれで良かったのかもしれないと微笑んだ。


それから数分歩いてアンティークな店の看板が見えて来たら、外にはアサが仁王立ちで待っていて、ボクと少女が見えたら少し眉を顰めた。


そうしてズンズンと少女の元へと近付けば、じーっと彼女を見つめるアサ。



「お前……操り人形のヒナか。」


「…うん。今度、あなたに依頼をするための前払い金でこれ。」



「あ、操り人形?」と首を傾げるも、買い物袋を指指した少女の袋の中身をチラッと見てみれば、さっきアサが買い物かごに入れていたものばかりで驚いた。


これが未来を見えるってことなのだろうか?

というか未来が見えるのは特異能力関連の力なのだろうか。そもそも特異能力とはそんなことも出来るのだろうか。


ボクはその辺について何も知らないため、うーんと頭を悩ませる。


考えを整理すると、このヒナと呼ばれた少女は、あのスーパーに黒マスクたちが来る未来を知って、そのせいでアサが買い物を出来なくなるのを知っていたからボクについていき、アサへの依頼の前払い金としてこの荷物を届けるため、黒マスクたちが来るよりも先に会計が終わるようにしていたのか。


それにしては会計が結構ギリギリだったけど、ということにはツッコまない。

これに関してはレジに並ぶ人が多かったのだから仕方ないだろう。



「お前は未来視の特異体質を持っていたんだったか……いいだろう、前払い金は受け取った。今夜はハンバーグだが、一緒に食べるか?」


「!ハンバーグ…!食べる…!」



瞳をキラキラと輝かせてハンバーグを楽しみにする少女に、思わずキョトンとした顔をしてしまったが、彼女も年相応な表情が出来ることを知って、微笑ましく思った。



「あとアイ、お前は一旦地下に行ってこい。検査の結果と話の続きをしたいんだと。」


「話の続き……?」

「この世界で生きていくための必要最低限の知識を入れておきたいとか言ってたな。まあ確かに、今みたいに一見普通の少女に見える裏組織の幹部補佐だったり、それこそシャチなんかも案外ちらほらいるもんだしな。」


「んええぇっ!?この子、そんなすごい……子だったの……?」


「未来視の特異体質は希少だから。お兄ちゃんも監視役として重宝されてるけど、私の未来視は確定された未来を見ている訳じゃない。幹部補佐なんて名ばかりだよ。」



さっきより流暢に話すヒナちゃんは、幹部補佐でも名ばかりらしい。

何か複雑な事情がありそうだと思いつつも、この歳で裏組織の幹部補佐なんだから複雑な事情がなかったらなかったで不自然だろうとも思った。


そしてだからこそ、裏社会の何でも屋であるクラブ・ヘレシーに前払い金を渡してまで依頼したい理由があったのではないか。


とまで考えて、頭をぶんぶん横に振った。

暗い考えに陥るのはボクの悪い癖だ。



「とりあえずボクは地下室に行けばいいの?料理とか手伝わなくても大丈夫な感じ?」


「いやお前、料理なんて出来るのか?」

「んえ、簡単なものなら出来るけど……まあ元々親が仕事でいなかった時は自分で作ってた時もあったしね。」


「そうか。だが今日はさっさと地下に行け、ハンバーグなら私の得意料理だから気にしなくていい。」


「わ、わかった……じゃあちょっと行ってくる!」



そう言って駆け足で地下室へと向かえば、後ろからは「いってら〜。」とアサの軽い声が聞こえてきて、それを真似してヒナちゃんも「イッテラー。」カタコトな言葉を使う。

この歳の子供は真似することが好きなのだろうか、と思ったが、チラッと後ろを見てみればアサがヒナちゃんの頬を掴むところが見えて、単純に揶揄っただけなのかもしれないと苦笑した。

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