第14話試練開始

目が覚めると、ララとルリは軽い食事を済ませ、試練のための準備を整えていた。二人の目的は、くるみの心を取り戻すことであり、協力して試練をクリアしようと決意していた。しかし、ルリの心の中には問題があった。


「ララを消すなんて、できない…。」ルリは頭を抱えた。どうすればいいのか、何度考えても良い答えが浮かばなかった。1ヶ月もの間、悩み続けたというのに、結論は出ない。むしろ、しばらく会わなかったことが、ララに対する情を消すどころか、逆にもっと一緒にいたいという思いを強めてしまった。


「まあ、ララの試練が終わったら考えよう。」と、気持ちを切り替えたルリは、ララと並んでくるみのマンションに向かう道中を歩いていた。


道を歩きながら、周囲の景色に目をやると、静かな住宅街が広がっていた。穏やかな日差しが降り注ぎ、風に乗って花の香りが漂ってくる。公園では子どもたちの笑い声が聞こえ、心地よい午後のひとときが流れていた。


「そういえば、このマンションの前でララが上から降ってきたんだっけ…?」ルリはつい最近の出来事を思い出し、懐かしさを感じていた。あの頃のララは無邪気で天然な感じだったのに、今ではしっかり者に成長している。


「ルリさん、着きましたよ。」と、ララが声をかけた。


「わかってるわよ!」ルリは笑いながら、くるみのマンションに向かって歩いた。「いつもこの時間は家にいますから。」と、ララは意を決してチャイムを鳴らした。


周囲の街は静かで、試練の重みを感じさせる緊張感が漂っていた。二人の心は、それぞれの思惑と決意で満ちていた。くるみは「はーい」と明るい声でドアを開けた。警戒心も見せない様子に、ルリは内心「好都合だな」と思った。


「え?また貴方ですか?最近よくこの辺をうろついていますよね!?」くるみは興奮した様子で言ったが、ララは動じず、静かに癒しの波動を使おうとした。


その間にルリは集中し、ララに関する記憶の上にある鎖のついた別の記憶を見つけ出した。彼女はピンポイントで鎖を壊し、上書きされた記憶も消し去る。その瞬間、くるみは気を失った。


ララは慌てず、くるみの心に集中して、壊れている本当の記憶を元に戻そうとした。再び、ルリに捨てられたときのシーンが再生された。


「もう同じミスはしない…!」と気合いを入れ、ララはくるみの心全体を癒しの波動で包み込み、過去のトラウマを消していった。すると、くるみの中のもやもやは消え、清々しい気持ちで目を覚ました。


「隣には猫の姿のララが…」一瞬見えたその姿が消えると、ララは人間の姿に戻っていた。同様に、ルリの姿も一瞬子猫に見えたが、すぐに人間に戻った。全てを悟ったくるみは、感情が溢れ出して言った。「今まで寂しい思いをさせたね、ごめんね。」


「ルリちゃん、あの時は何も出来なくてごめんなさい…」と、くるみは涙を流しながら謝った。


「それより、ずっと覚えててくれて良かった。嬉しい!」ルリは感極まり、くるみに抱きついた。


ララもその空いている反対側に行き、喉をゴロゴロと鳴らしながら頭を擦り付ける。泣いているくるみの姿に、心が温かくなるのを感じた。


その時、ララの癒しの波動が三人を包み込み、皆が抱き合っていると、ルリの携帯がブルっと震えた。見ないようにしようと思ったが、一応確認すると、女神から「あなたはまだ終わってないでしょ?」というメッセージが来ていた。


思わず「もう無理です」と返信してしまったルリは、怒られるのではないかと咄嗟に思ったが、意外にも返信は「そう…残念ね…」だけだった。しばらく抱き合った後、くるみは提案した。「二人とも、狭いけどここに住む?」


「あなたが良ければ!」と、ララとルリは笑顔で答えた。


くるみは笑いながら、「もちろんいいよ。二人とも大事な家族だもん。」と言った。その言葉に、また泣きそうになったが、涙を拭い「じゃあ、ホテルに置いてる荷物を取りに行ってくるね。」とルリが言い、外に出る準備をした。


「え?荷物と言うと…」とくるみが聞くと、ルリは「大丈夫、そんなにないから。」と笑って応えた。


夜の帳が降り、周囲はすっかり暗くなっていたが、いつもよりも明るく感じた。星々が輝き、月の光が道を照らしている。


「なんだか、もう冬も終わりっていうのに、まだ寒いね。」とルリが言うと、ララは「でも今日は暖かいです♪」と元気に返した。


「調子がいいな〜。」とルリは笑う。本当によく通る公園だな、と思いながら、「ホテルへの近道だから仕方ないけど。」と言った。


その時、目の前に見覚えのあるシルエットが浮かび上がった。女神だ!


二人は警戒し、息を呑む。女神はふふふと微笑みながら、「こんばんは」と言った。


「こんばんは」と、ララとルリは顔を見合わせながら返した。


「まず、ララちゃん。試練合格おめでとう。ちょっと意図は分かりづらかったかもしれないけれど、ちゃんと理解してたみたいで良かったわ。」女神は微笑みながら話し始めた。


しかし、その表情はすぐに変わった。「それよりも…」と言いかけ、笑顔から冷たい目に変わって、「あなたは失格よ、ルリさん。」


「まだ時間はあるけど、どうする?」と、最終確認をするが、ルリは震えながらも「それは出来ません」と拒否をした。


「じゃあ、仕方ないわね。」女神は冷淡に言い放った。そしてルリを消そうとしたその瞬間、突然地面が赤く光り、辺り一面が爆発した。その瞬間、ルリとララは大爆発に巻き込まれ、激しいダメージを受けて倒れ、気を失っていた。女神はその様子を見て、静かに言った。


「今のは私じゃないわよ〜。」と周囲を睨みつけるように見渡した。「もし私を狙ったのなら許せないわよ!」と、鋭い声を放つ。


暗闇の中から赤い光が再び現れ、ルリを狙うかのように地面が明るく照らされ、再度大爆発が起こった。しかし、今回は女神が光の障壁を作り出し、ルリとララを守った。


「あ〜ルリちゃんを狙ってるのね。」と、女神は冷静に言った。「姿を見せたらどう?」と、さらに光を当てた。


すると、暗闇の中からぼろぼろの服を着た、目が虚ろな沙樹が現れた。彼女は以前の姿とはまるで違い、まるで別人のようだった。女神はその姿を冷たく見つめ、「あなた、もう人ではないようね。でも、関係ないわ。その力でも、私には勝てないよ。」と言い、無関心な様子で姿を消した。


ルリとララは気を失っていたが、沙樹の姿を感じ取るとゆっくりと目を覚ました。二人は立ち上がり、目の前に立つ沙樹の異様な姿に驚きながらも、彼女が復讐のために現れたことをすぐに悟った。二人はすぐに戦闘態勢を整えた。


長い間沈黙していた沙樹が、重く口を開いた。「もう、あの時の私とは違う…。」両目が赤く光り、彼女の体からは不穏な気配が放たれていた。沙樹は再び構えを取り、戦闘の準備をしていた。

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