第13話新たな試練

女神はいつもの笑顔を浮かべながら、ララたちに声をかけた。だが、ララたちにとって、その笑顔は全く安心できるものではなかった。むしろ、何か問題が起きるのではないかと、二人は内心ヒヤヒヤしていた。


「テレビも見たし、仲良し猫ちゃんたちに用件だけ言ったら帰るとしましょうか?」

女神は軽やかに立ち上がりながら言ったが、その次の言葉が二人の心を締め付けた。


「あなたたちには、1ヶ月後に試練を与えます。」

言葉に続けて、女神は少しだけ笑みを浮かべる。「まあ、試練と言っても定期任務みたいなものよ。」と軽く言ったが、その言い方にはどこか含みがあった。


警戒する二人を見て、女神は冷たく付け加えた。「別に、猫同士が仲良くなってもヤキモチなんか妬かないから、安心しなさい。」

その冷たさに、ララとルリはビクッと反応してしまった。


「それぞれにこの封書を渡しておくわ。相手に見せずに、自分だけで確認すること。」

女神はそれぞれに封書を手渡し、軽く手を振った。「では、お邪魔虫はこれで退散しますね〜。さようなら。」

そう言うと、光と共に姿を消していった。女神が去った後、ララとルリはそれぞれ別々の場所で封書の中身を確認した。


ララの封書には「くるみの心を壊せ」と書かれていた。それを見たララは、しばらく頭を抱え込んでしまった。「くるみさんの心を壊す…?今さらまた接触しろってこと?」心の中で叫びながら、ララは混乱した。「しかも…壊すって何?私の力は癒しなのに…。本当にどうすればいいの?女神様、教えてください…。」


一方、ルリも自分の封書を確認すると、そこには「ララを消せ」と書かれていた。ルリは一瞬目を見開き、その後深いため息をついた。「前ならできたかもしれないけど、今は無理だ…。ララはもう妹のような存在だし、情もある。やっぱり、女神様は私たちが仲良くなったことを妬いてるんじゃないか…。」


二人ともそれぞれの試練に頭を悩ませながら、共通スペースへと戻ってきた。


「どうだった?」

「どうでした?」

二人は同時に声をかけ、少しハモったことに思わず笑ってしまう。しかし、その後すぐに沈黙が訪れた。互いに任務の内容を言わないまま、ルリが口を開く。


「私は…嫌な試練だったよ。ララはどう?」

ララは焦りながらも笑顔を作り、「私は…心を壊すようにって書いてありました。でも、たぶんルリさんと間違えたんじゃないかな?」と無理やり軽く言ったが、内心では混乱が続いていた。ルリは少し考え込みながら、ララに向かって言った。「くるみの心を壊すってことは、今の作られた記憶を壊して元に戻すってことじゃないの?もしかしたら、女神もやりすぎたって思ってるのかもよ?」

ララは目を輝かせながら、「え~、そうなのかな~?」と少し嬉しそうな表情を見せた。(それとも、女神は私たちが一緒にいるのが嫌ってことか…)と、ルリは心の中で考えた。


「ルリさんの試練は何ですか?」と、ララが首を傾げて聞いてくる。ルリは何とか誤魔化そうとしながら、「あんたと同じで、私もターゲットを癒せって書いてたわ。できるわけないのにね。」と少し笑ってみせた。


すると、ララは目をキラキラさせて、「それなら私ができるから、一緒にやろっ!」と言い出した。ルリは少し戸惑いながらも、「じゃあ、私もくるみの心を壊すのを手伝うよ。」と答えた。


ララはすぐに、「じゃあ、明日早速行こう!」と興奮気味に提案したが、ルリは冷静に制止した。「一応、1ヶ月後にやるってなってるから、早めるのはなしよ。それまではターゲットの様子を見に行ったり、能力の強化に当てましょう。」


ララは少しシュンとしながら、「そうですね。前に女神様に言われたんです。癒しの能力が高ければ、上書きせずに修復できたって。だから、癒しの力を高めるために、いろんな人を癒してきます。」と決意を語った。


ルリは微笑んで、「そうなの?頑張ってね。私も偵察しながら、能力の強化をしていくよ。」

「じゃあ、そろそろ寝ようか?」

「はい、おやすみなさい。」と、二人は隣同士のベッドに入った。部屋は一緒だったので、ルリは笑いながら、「そういえば、勝手に寝ればよかったね。」と呟いた。


その夜、何故かララの蹴りがルリの顔に直撃した。「何この子、寝相悪すぎでしょ…。少し距離があるのに、どうやって蹴り入れてくるんだか。それに、蹴った後に回復してくるなんて、確信犯か?」

ルリにとって、長い夜になった。朝になって、ララは目を覚ました。

「おはよう、よく眠れた?」と、ララは笑顔でルリに問いかけた。

しかし、ルリはイライラした様子で、「あんたのせいで寝不足よ」とため息をついた。

「え?なんで?」と、ララは不思議そうに首をかしげる。

「寝相が悪すぎなんだよ…!」とルリはぼやきながら、フロントに連絡していた。


ルームサービスが届き、食事をしながら、ルリは提案した。「それぞれ能力を強化するために、別々に行動しましょう。夜にはここに戻ってきたらいいから。」

ララは頷き、「わかりました。」と返事しながら、何をするか考えているようだった。

ルリは続けた。「あんたの場合は、回復の力をどんどん使っていくのが良いと思うよ。私の方は、そう簡単にはいかないけどね。」


それぞれの修行が始まった。ルリは裏の任務を次々と受け、ナイフなどの武器は使わず、心を読んで壊すことでターゲットを仕留めていった。多くの相手と対峙する時は、素手の攻撃も駆使して戦い抜いた。


一方、ララはまずくるみの様子を見に行き、その後公園などに出かけては「疲れてる人はいませんか〜?」と声をかけていた。次第に心を読んで回復する技術を磨き、いつの間にかララも新たな力を手に入れていった。


ルリとは昼夜逆転の生活を送っていたため、二人が顔を合わせることは少なかったが、お互いに寝顔を見ては、「頑張ろう」と決意を新たにしていた。ララの癒しの活動は次第に話題となり、民間野中ヒーラーのような存在になっていった。そして、少しずつお金も稼ぐようになっていた。ララは、ルリが持っていた様々な格闘技の本を借りて、自分に合った技を学んでいた。ページをめくりながら、返し技や防御の技術に興味を持ち、少しずつ自分のものにしていく。

「力じゃなく、相手の動きを利用する技なら私にもできるかも…」と考えながら、ララは自分の体に合ったスタイルを見つけ出していった。ルリの影響も受けながら、癒しの力だけでなく、格闘技の技術も身につけていくことで、彼女はさらなる成長を遂げようとしていた。ルリは昼間、少しずつ本能を解放する訓練を行っていた。一度に全て解放するとコントロールが効かなくなるため、慎重に体に馴染ませるように進めていた。


そして、試練の前日、久しぶりにララと会話する機会が訪れた。


「起きてる、ララちゃん?久しぶりだね、元気?」

ルリが声をかけると、ララは笑顔で答えた。「ええ、調子はいいです。」


「で、ララは強くなった?」と聞くと、ララは少し考えてから、「強くなったというか、前より色々とスムーズになりました。癒しの波動で盾も作れるようになったんですよ。」と嬉しそうに話した。

「へぇ〜、すごいじゃん。」とルリは感心しながら言った。「私も強くなったんだ。明日の試練、楽しみだね。」


ララは微笑みながら「はい」とだけ返事をして、明日に備えて早めに休むことにした。


一方のルリは、少し物足りなさを感じていた。「話したいこと、もっとあったのにな…。」そう呟くと、ため息をつきながらベッドに入り、そのまま眠りについた。

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