第10話初めましての再会
ララが目を覚ましたのは、夕方に差し掛かった頃だった。昼前には精神世界に入っていたはずだが、気づけばかなり時間が経過していた。辺りを見回すと、女神が立っており、穏やかな声で話しかけてきた。
「やっと目覚めましたね」
「そんなに寝てました?」ララは驚いたが、女神は微笑みながら首を横に振った。
「いえ、本能に目覚めたって意味です。試練は合格よ、おめでとう」そう言うと、女神はララの頭を撫でた。「もうすぐ、くるみさんも目覚めるわ。そこで、あなたに選択肢をあげます。ひとつは猫に戻ること。もうひとつは人間のまま暮らすこと。そして、もうひとつは人間と猫の姿を、時間制限はあるけど変身できるようにすることよ」
「時間制限って?」ララは少し戸惑いながら尋ねた。
「あら、猫か人間という選択肢はないのね?」女神は不敵な笑みを浮かべる。「だいたいみんな、そう選択肢を与えても、どっちもなりたいとか欲深いのが多いの」
「いえ…完全に猫に戻ったら、くるみさんを守れなくなるし…でも、人のままでいるのも疲れそうで…」
「あなた、時間制限付きって言ってるんだから、猫の間はどっちにしても守れないんじゃないの?」女神の言葉に、ララはハッと気づき、焦って言い直した。
「じゃあ、人のままでいさせてください」
「ええ、いいわよ。その代わり条件があります」
「え…ご褒美じゃないんですか?」
「ご褒美?何を勘違いしてるの。結果的に誰も死ななかったのがご褒美じゃない?」女神の微笑みの裏に、ララは不気味な恐怖を感じた。
「時間もないし、条件だけ言うわ。今後も定期的に試練を受けてもらいます。試練というよりも、任務ね。あなたの能力で達成できる依頼を、こなしてもらうの」
「もし、達成できなかったらどうなるんですか?」ララが恐る恐る尋ねると、女神は微笑みながら答えた。
「死にます!っていうのは冗談。ただ、人間ではなくなるだけよ。くるみさんに関しては、元々はなかった命だから、消えてもらうかもしれないけど……まあ、そういうことなので、せいぜい能力を鍛えて頑張ってね。次の任務は1ヶ月後。では、さようなら」と微笑むと、女神は眩い光の中に姿を消した。もう少し感情の流れをスムーズにするために、少し修正案を加えたバージョンを提案するよ。
女神が去ってしばらくすると、くるみが目を覚ました。
「あれ…?まだ夜?」
くるみが目をこすりながらぼんやりと周囲を見渡すと、ララは思わず抱きしめた。
「良かったです! やっと目が覚めました!」
「え? あ、あのっ!どちら様ですか?急に寝込みを襲うし…部屋を間違えてませんか?」
くるみの言葉に、ララは驚いて一瞬息を呑んだ。戸惑いながらも、必死に気持ちを伝える。
「信じてもらえないかもしれないけど、私、ララです。」
くるみはしばらく考えるが、その言葉が理解できない様子だった。
「…ララなんて子、知りませんけど…」
ララは動揺しながらも、さらに必死に続けた。
「猫のララです!一緒に暮らしてた、猫のララ!」
涙を堪えきれず、声が震えていた。しかし、くるみの表情は変わらない。
「うちには、ララという猫なんていません。昔はルリって名前の猫がいましたけど、それ以降はペットを飼ってませんし…」
くるみの言葉がララの心をさらに深く傷つけた。そして、追い討ちをかけるように言った。
「それに、あなたは人間でしょ?どう見ても不審者です。すぐに出ていってください!」
ララは必死に自分がララであることを証明しようと、リビングに駆け込んだ。しかし、そこにある写真立てには、自分の姿はどこにもなく、別の人とくるみが写っている写真ばかり。カリカリも食器も、すべて消えていた。
「どうして…?何でこんなことに…?」
くるみは追いかけてきて、不安そうに言った。
「お願いです、今なら警察にも言いませんから、早く出ていってください。」
ララは涙を堪えきれず、「本当に何も覚えてないんですか…?」と声を震わせたが、くるみの答えは冷たかった。
「すみませんが、人違いです。さようなら。」
そう言われ、ララは呆然としたまま、部屋を後にした。
「なんで…なんでこんなことに…」
涙を流しながら、エレベーターで一階まで降りる。何度も振り返り、くるみの部屋を見上げながら、歩き始めた。ルリと一緒に歩いたあの道を、ただ一人で進んでいく。すると、ララの涙に同調するかのように、雨が降り始めた。
その様子を、黒猫がじっと見ていた。そして、遠くの空の向こうで、その光景を楽しむ者がいた。
「本当に馬鹿な子ね、あなたは選択肢をいくつも間違えた。」
その声は冷酷で無慈悲だった。
「癒しの能力で心を治すべきだったのに、記憶を改ざんする選択をした。人として生きる道を選んだことも失敗だったわね。私はいつも選択肢をいくつも与えるけど、それが良い結果になるとは限らないのよ?」
その笑い声は、冷たい風のように響く。
「でも心配しないで、あなたにとっておきのプレゼントをあげたのよ。記憶を変えた通り、くるみは新しい人生を歩んでいる。そして、あなたの存在は綺麗さっぱり忘れさせたわ。これからは一人で頑張ってね、ララちゃん♪」一方、ルリもまた思い悩んでいた。大雨が降る中、ネオン街を俯き加減で歩く。繁華街の賑わいは相変わらずで、煌めくネオンやショップの明かりが、降りしきる雨粒に反射してきらきらと輝いていた。車のクラクションが鳴り響き、行き交う人々は傘を差しながら、誰もが楽しそうに騒いでいる。「今日は飲みに行くか!」、「次のデートはどこに行こうか?」といった軽やかな声が、冷たい雨音に混じり響く中、ルリは一人、物思いにふけっていた。
「1ヶ月はララもくるみも泳がせておいて… くるみはララを受け入れるのか? だって、今やララは人間だぞ…。本能が発動したら誰も止められないのに、女神は何も教えやしない…。あたしの次の任務は、どうせくるみの心を消せだろう。それはいい。問題はララが邪魔をすることだ。」
ルリは冷たい雨に打たれながら、心の中でひたすら次の動きを計算していた。「今日はいつも以上に冷えるな。…あのカフェ、まだやってるか?」
暗い路地に差しかかった時、ルリは少し顔を上げ、いつものカフェに向かって足を速めた。だが、その歩みを止める者が現れた。
「お待ちなさい!」
鋭い声が背後から響き、ルリはゆっくりと振り向いた。そこに立っていたのは、銀髪のロングヘアーに白と黒の剣士のような衣装、青いミニスカートを纏い、肩にはマントを羽織った長身の女性だった。冷たい雨にもかかわらず、その姿は一分の隙もなく、剣を携えたその構えは無駄のない、洗練されたものだった。
「あなたは黒羽ルリさんですね?」
鋭い眼差しがルリを捉えた。女性の声は低く、冷たさと共に決意が込められていた。
「私の名は藤堂沙樹。あなたはこれまで相当数の犯罪行為を犯してきた。それゆえ、私があなたを狩ります…!」
「はぁ?」とルリはため息をつきながら、冷たく光る瞳で沙樹を一瞥した。「悪いけど、今日はそういう気分じゃないの。さようなら。」
背を向け、歩き出したルリだったが、すぐに鋭い金属音が背後から響いた。瞬間的に飛び上がり、体を一回転させると、自分がいた場所に剣が振り下ろされ、地面が真っ二つに裂けていたのを目にした。
「よくかわしましたね。でも次は、あなたを斬ります。」
冷静にそう告げる沙樹の目は、確実にルリを狩る決意に満ちていた。振り返ったルリは、少し顔をしかめ、内心で「これはまずい」と思いながらも、ナイフではなく、滅多に使わない銃に手を掛けた。
「次は、あたしの番ね…。」
重い雨粒が打ちつける中、二人の間に凍りついた緊張感が走る。ルリの目が鋭く光り、銃を構えたその姿は、まるで獲物を狙う猛獣のようだった。ネオンの光が二人を淡く照らし出し、静かに戦いの幕が上がろうとしていた。
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