第8話激突
どうしてルリさんがいるの?突然現れたルリに対し、ララは戸惑いの表情を見せた。
「なぜって、あたしも依頼があってね。仕方ないじゃない」
ルリが現れる少し前の話。彼女は再びマンションの前に立っていた。
「また来ちゃった。でも、もう一度心を壊す必要はないと思うけど、念のために侵入してみるか」
そう呟き、3階の廊下まで飛んで行こうとした時、携帯にメールが届いた。
「あと少しで心が治る。急行せよ」
「心が治る?まさか…ララが?」ルリは顔を曇らせた。
「急がなきゃ…」
急いで2階、3階と飛んで行き、廊下に着くとドアをピッキングしようとした瞬間、ガチャっとドアが開いた。中から出てきたのは女神だった。
「あら、ルリさんじゃないの。遅かったわね〜」
女神ののんきな声が響くが、ルリの全身に鳥肌が立つほどの冷たい恐怖が伝わってきた。
「ど、どうして…女神様が…?」と、ルリは一瞬言葉に詰まりながらも、口を噤んだ。そして、恐る恐る聞く。
「ララの試練が終わりそう…なんですか?」
今、何か下手なことを言えば、何が起きるかわからないという直感が働いていた。
「私がわざわざあなたに連絡をしたのに、今頃ノコノコ来るなんてね〜」
女神は微笑んでいたが、その言葉には鋭い棘が潜んでいた。
「依頼って、そんなにいい加減なものなの?」
笑顔の裏に潜む怒りが、冷たく響いていた。
「す、すみません…」ルリは深く頭を下げる。
「女神様からの依頼とは知らず…一度心を壊しておいたので、もう大丈夫だと思っていました…」
ルリの謝罪に対して、女神の怒りは収まらない。
「聞いて?今、癒しの力であなたが壊した心を元に戻して、しかも過去の出来事を良い記憶に塗り替えようとしてるのよ。このままでは、試練がクリアされてしまうわ」
女神の言葉は冷静だったが、その裏には怒りが満ちていた。
「待ってください!もともとこの試練ってクリア不可能なはずじゃ…どうしてクリア寸前に?」
ルリは驚きのあまり口にしてしまった。
すると、その瞬間、女神の目が光り、脇腹に鋭い痛みが走った。
「ぐっ!」ルリはその場で膝をつく。
「あなた、何かしたんじゃないの?」
女神の言葉に、ルリは痛みに耐えながら言葉を紡ぐ。
「わ、私…自身で…止めてみせます…!」
そう言って立ち上がると、くるみの元へ向かい、心の中に精神を集中させた。くるみの心の中に入り込むため、意識を移していく。ルリ「悪いけど、あたしの任務の邪魔をしないでくれる?痛い目に遭わせたくないし。」
ルリは穏やかに見える言葉を口にしながら、手は既にナイフにかかり、じりじりと距離を詰めていた。ララの返答次第では、すぐにでも攻撃を開始する準備は整っている。
ララ「私も試練を突破して、くるみさんを助けたいだけです!それにルリさんが来なければ、試練は突破できていました!」
ルリ「甘いわね……」
その瞬間、ルリはナイフを振り上げ、ララに襲いかかる。ララは反射的に後退し、辛うじて一撃を避けたが、ルリの攻撃は続く。鋭い連撃が、容赦なくララを追い詰めていく。
ルリ「女神はそんなに甘い存在じゃない! この試練も、善意でやっているわけじゃないんだよ!」
ルリの言葉に合わせるように、ナイフが次々と閃く。ララは必死に身をかわしながら、息を切らせて反論する。
ララ「それでも……くるみさんが助かるなら、善意じゃなくてもいい!」
ルリの攻撃はさらに速度を増し、ララを追い詰め続けた。しかし、ララの動きに合わせて、ルリはふと一瞬動きを止め、距離を取った。
ルリ「……埒が明かないわね。」
そう呟くと、ルリは鋭い目つきでララを見つめ、集中を始めた。ララの動きを読もうとしている――次の動きを予測し、確実に仕留めるために心を読んでいるのだ。
ララ「えっ……? どうして……?」
その瞬間、ララは感じた。ルリが自分の心の中を覗いていることを――彼女が次にどう動こうとしているのかを完全に見抜いていることを。
ララ「左に……避けよう!」
だが、次の瞬間、ルリはララの腹部にナイフを深く突き刺した。ララが左に動こうとする一瞬前、まるでそれを読んでいたかのようにナイフがララの動きに合わせて突き出されていたのだ。
ララ「うっ……!」
ララの体はその場に崩れ落ち、鋭い痛みが全身を駆け巡った。勝ち誇った表情のルリが冷たく言い放つ。
ルリ「もう、これからは避けるのも無理よ。」
だが、ララは苦しみながらも癒しの力を発動させた。緑の光が傷口を包み込み、瞬く間に傷が癒えていく。ララは再び立ち上がり、静かに言った。
ララ「今のは……本当に死ぬかと思いました。」
ルリ「厄介な能力ね……やっぱり、一撃で仕留めないとダメってことか。」
ルリはナイフを握りしめ、再び攻撃の準備を整えた。ララの癒しの力を目の当たりにし、さらに気を高めるルリ。だが、ララも負けてはいない。立ち上がったララの目には、以前よりも強い意志が宿っていた。ララは心が読めるなら試してみようと構えを取る。ルリも興奮しているのか、気合を入れて集中し、一気に距離を詰めようとしていた。そして、投げナイフを3本投げてララの動きを牽制した後、一気に距離を詰めて切り裂こうとする。
「右に避ける!」と心を読んだルリは、右側にナイフを突き立てる。今度は心臓付近を狙っていた。しかし、ララは左に避けていた。
「えっ?」ルリは驚愕する。
その瞬間、ララは街を歩いた時のことを思い出していた。
「そこを右よ、なんで左に行くの?左右もわからないの?」
その時、少し涙が出そうになったが、そもそもさっきは左に避けてちゃんと避けた。今のは計られた…!
気づくと、ララは背後に立っていた。
「もう終わりだ…」ルリはそう観念した。しかし、ララは何もしない。しばらく無言の時間が続く。
「もしかして攻撃の仕方を知らないの!?」思わず前のようにツッコむルリ。
「え?知りませんよ」あっさりと言い放つララ。
その瞬間、ルリはいろいろと思うところがあったが、ナイフを当たらない程度に振り、ララが怯んだところで一気に距離を取った。
「はぁ…はぁ…女神様、どうしても仕留めないといけませんか…?」ララの純粋さに躊躇いを感じているルリ。だが、女神が監視している以上、手を抜くわけにはいかない。手を抜けば、消されるのはわかっている。「…でもあたしがやらなきゃ、女神が直接手を下すだろうな…」
そう自分に言い聞かせながら、ルリはナイフを持つ手を強く握りしめた。だが、その瞬間、ララの穏やかな声が耳に届いた。
「ルリさん、戦いたくないなら無理しなくていいんです。私はただ、くるみさんを助けたいだけで…」
ララの瞳には恐れや敵意はなく、ただ真っ直ぐにくるみを救うことだけを考えているようだった。ルリは心の中で強い衝動に駆られる。戦う意味があるのか、このまま続けて何になるのかと自問自答し始めた。
「…くっ、やっぱりあんた、なんでそんなに…」
ルリは言葉を詰まらせると、手に持っていたナイフを投げ捨てた。ララとルリにはもう戦う意志はなかった。お互いゆっくりと一歩ずつ歩み寄っていく。しかし、その時、ルリの心の中に女神の声が響き渡った。
「せめてララの心を壊しなさい……」
その声は無機質で感情が一切なかった。女神が本気で怒っている時の声だった。ルリは体が震えるのを抑えながら、ララに向かって意識を集中し、心を握り潰すように心を壊そうと試みる。
しかし、ララは無意識に癒しの力で自らの心を守っていたため、ルリの攻撃は全く効果がなかった。
「くっ……! 口では綺麗事を言ってても、あたしのこと全然信用してなかったじゃないか……!」
ルリの表情が歪んだ瞬間、彼女は笑みを浮かべながら告げた。
「ララ、お前の飼い主の心を壊したのは、あたしだ! そして、お前の心も壊そうとした……もう、仲良くしようなんて無理なんだよ!」
その言葉を聞いて、ララはショックを受けたが、ルリがくるみの心の中に現れた時点で、少し疑っていた。それでも、街を一緒に歩いた思い出があるため、「そうであってほしくない」と心のどこかで願っていた。
しかし、ルリの言葉が真実だと知った瞬間、ララの中で何かが音を立てて崩れた。
「なぜ? なぜ私から大切な人を奪おうとするの……?」
「そいつはあたしを捨てたんだ! くるみの心の中だ? 知らないね、そんな綺麗な景色は! お前こそ、邪魔をするなら本気で殺す……聞こえてるのか、ララ!」
「……許せない……!」
その瞬間、ララの体が震え、全身の毛が一気に逆立った。
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