第7話揺れる心


ララと別れた後、あたしは答え合わせをしていた。あのマンションの3階で、元猫で、くるみが飼い主…。やっぱりどこかで見た顔だと思ったら、この猫がララか。そして、試練を受けてるってことは、任務が終わってなかったのはララという邪魔者が現れたから? そうか…。依頼者に一応報告しておこう。**「邪魔者あり、始末予定」**と。これでどういう反応をするか…。さてと、一眠りして、明日侵入するか!


しかし…ララ、どうして? いい友達になれるかと思ったのに…。


その頃、ララはエレベーターを使って3階に上がり、家のドアを開けたところだった。**「ただいま、女神様」**そうボソッと言って中に入る。中からは女神が見ているであろうテレビの音が聞こえてくる。たまに女神の笑い声も混ざっている。


「そんなに面白い? こんな状態じゃないと思うんだけど…」と、心の中でララは思った。あくまでも平常心を保ちながら女神に近づく。今まで気づかなかったけど、ポニーテールの髪は女神の気まぐれで7色に変わるし、スタイルは抜群だけど、素足にスカートもちょっと乱れていて、どこか雑な感じ。本当に女神なの?


「あら〜お帰りなさい。お外はどうだったかしら?」

いつものように満面の笑顔だったが、何だろう? 目が鋭くて冷たい。今までずっと笑ってると思ってたけど、あれは振りなんだ…。ララは内心警戒しつつも、外面では明るく返事をする。

「ただいま〜! 今、戻りました〜! 外はすごく広くてわくわくしました!」

(ちょっとやりすぎたかな…?)


「あら〜それなら良かったわ〜。試練の突破の鍵は見つかった?」

女神は変わらず笑顔を保っているが、その目は笑っていない。ララの嘘を見透かしているように冷たい視線を送ってくる。

「いいえ、全然です〜。何かヒントをください〜!」

ララは焦りを感じながらも、平静を装い、少し頼るような口調でお願いする。


「だめよ、ちゃんと自分で考えないと。それに…ルリちゃんが何か教えてくれたんじゃないの?」

女神の声は軽やかだが、鋭い言葉が突き刺さる。やはり、全てお見通しなんだ…。ずっと見てるってことか…。


「よく知ってますね。ルリさんには、いっぱい色んなことを教えてもらいました!」

そう言いながら、ララは女神の反応をうかがったが、女神はあまり興味なさそうにテレビに目を戻す。

「そう。良かったわね」

テレビの光に照らされた女神の顔は、いつもの満面の笑顔だが、その目はやはり冷たい。


「ずっと冷たい目だったな…。」「あの〜、女神様がよければ、また心を読みたいんですけど?」


「え?さっきも言いましたけど、心にもあなたにも相当負担がかかるから、一日一回よ〜。また明日挑戦してね。」少しニコッとして、今度は瞑想を始めた。


(そう来たか…やっぱり、“試練”という割にはのんびりさせすぎてる。何かがおかしい?)


「じゃあ私、お風呂に入ってきますね〜。女神様は入りました?」


「いえ、私は結構です。」


「そうですか、では行ってきます〜。」


(ララがお風呂?知能はまだ猫のままのはずなのに?何かあった?まあ、ルリに何か言われたのかもしれないし…考えすぎか。あいつの行動でおかしな点はなかったし、そもそもルリと別れてからはめんどくさいし、監視もしてなかったし…。ルリから定時連絡もあったし、様子を見るか。)その姿を見た女神は、「やっぱり猫ね」とつぶやくと、テレビを消し光を放った。「あ〜、この人はもうすぐ死ぬのね、病死じゃしょうがないわ。あ〜、この人はまだまだ生きるのか…何か試練でもあげようかしら?」とぶつぶつ言いながら、あらゆる人々の運命を見て楽しんでいた。


すっかり空は明るくなり、鳥の囀りや学生たちの話し声が聞こえてきた。「もう朝なんだ。少し寝過ぎたかな?」そう言って起きたララは、早速顔を洗い、冷蔵庫を開けてみた。「うーん、トーストあるし、トースト食べよう。それに、あ〜、ココアの粉があるならアイスミルクココアにしよう!」と、ウキウキしながら用意をしていると、女神が姿を見せた。


「あら〜、ララちゃん、おはよう。起きてすぐにご飯の準備なんて、えらいわね〜」と軽やかに言ったが、その顔は笑っていなかった。


「良かったら女神様も食べますか?」とララが聞くも、女神は「いらないわ」と素っ気なく答え、スーッとテレビの方へ向かう。

なぜか女神との距離感を感じたララは、リビングでひとり食事をすることにした。


食事を終え、ララは気合を入れた。「くるみさんの心を治しに行こう!」と決意し、くるみのそばに行き、集中して壊れた心と向き合う。「ここから亀裂があって、この先でバラバラになってる…まずはここを治さないと」そう言いながら、両手から癒しの力を発し、波動でバラバラになった心のワンシーンを修復し始めた。


次第に、ララはくるみの心とリンクしていくのを感じていた。「良かった、これなら徐々に心が修復されていってる。このまま続ければ、きっと大丈夫。」

ララは、くるみの心が少しずつ修復されているのを感じ、癒しの力をさらに強めた。バラバラだった記憶のシーンが元に戻った時、ララの目の前にそのトラウマシーンが再び映し出された。夕暮れ時の公園の片隅、木々に囲まれた場所で、相変わらず音声は聞こえないが、断片的に文字が浮かび上がってくる。「ごめんね」「仕方ないの」とか、「許してね」といった言葉が表示されていた。


「私は癒しの力で、くるみさんを包み込み、自分もその力に纏うことで、そのシーンの中に入ることができた。」

映し出されるのは、幼いくるみが泣きながら「ごめんね、ごめんね」と黒猫に向かって叫んでいる姿。黒猫は「にゃーにゃ〜、置いていかないで」と言っているように見える。その光景を見たララは、黒猫を抱っこして、くるみに伝えた。


「この子は大丈夫。私がちゃんと面倒を見るからね」と、ニコッと微笑んだ。

くるみは涙を拭い、「お姉ちゃん、本当に?」と安心した表情を見せた。

「うん、良かった。※※ちゃんのこと、よろしくね」とくるみは言うも、「え?何ちゃんって?」とララが思う間もなく、くるみの姿がふっと消えた。


「よし、これで試練クリアかな?」とララがほっとしていると、急にくるみの代わりにルリが現れた。

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