第4話黒猫の影

そして、女神がドアを思いっきり開けた瞬間、吹雪がララと女神に舞い込んできた。吹雪に驚いたララはしばらく硬直してしまう。女神は自分についた雪を払いながら冷たく言う。

「早く行きなさい。」

だが、ララは無言でその場に立ち尽くしたままだ。

「言うことを聞けないの?いいから行きなさい。」

それでも、ララは何も言わず動こうとしない。


女神はイライラを通り越して、逆に笑い出した。その様子に我に返ったララは、冷静に女神を見て言う。

「女神様、見てください……雪ですよ。すごくたくさんの雪。」

淡々と話し出すララに、女神も笑いを堪えながら答えた。

「そうね、雪ね。」


「それに、とっても寒いですし、今日は外に行くのはやめて、部屋でゆっくりしましょう。」

ララがそう提案すると、女神は冷静な声で返す。

「う〜ん、部屋の中でダラダラされても何も面白くないし、アクションが起きないから……さっさと行ってちょうだい。」

そう言うと、女神はララを無理矢理外へ押し出した。


「うわっ!」

ララは小さく声をあげ、廊下の壁に頭をぶつけた。その瞬間、女神はドアをバタンと閉め、続けてガチャっと鍵をかけた。


ララは締め出された猫のように、両手でドアをバタバタ叩きながら叫ぶ。

「女神様〜!寒いです〜!」

しかし、ドアの向こうからは反応がなく、耳を澄ますとテレビの音が聞こえてくるだけだった。


ララは家に戻るのを諦め、初めての外を歩いてみることにした。しかし、辺りを見渡しても下まで降りられる場所がない。廊下の真ん中に大きな謎の箱があり、その横にはドアがあった。ドアを押してみてもびくともせず、叩いても誰も出てこなかった。途方にくれたララは、手すりから下を覗くと、地面が見えた。


「あ〜、なんだ、ここから降りればいいんだ〜。」

なぜかちょっと嬉しくなったララは、ヒョイっと手すりに飛び乗り、勢いよく3階から一気にジャンプしたのだった。


---


「あ〜、今日の任務は簡単すぎたな〜。」

そう呟いたのは、黒いロングヘアーをなびかせた女性だった。目はキリッと鋭く、顔立ちはシャープ。適度な身長でスタイルも抜群だが、冬だというのに黒のタンクトップに黒いミニスカート、そして黒い革ジャンを羽織っている。

彼女が夕暮れ時の繁華街を歩くと、誰もが振り返るほどの美貌を持っていたが、同時に危険な香りを漂わせていたのか、誰も近づこうとはせず、遠巻きに彼女を見守るだけだった。


彼女には猫の耳と尻尾があった。

「今回の依頼主、私のことを知らずにオファーしたのかってくらい簡単だったな……」

ぶつぶつと呟きながら、近くのオープンカフェに入り、慣れた手つきでアイスミルクココアを注文した。待つ間、彼女は今か今かとゆったりとした姿勢で過ごしていた。


「お待たせしました。」

店員の声に、ルリは少しだけ微笑んで、

「ありがとう。」

と呟いた。

「こちらこそ、いつもありがとうございます。」

店員は彼女に頭を下げた。


アイスミルクココアを一口飲むと、ルリは再びぼそぼそと呟き始めた。

「今回の依頼、妙だったな……必ず生かした状態で心だけ壊せって……」

ミルクココアを飲んだ後、ルリの口の周りにココアが付いていたが、彼女は全く気にせず、独り言を続けた。

「心を壊すのは確かにあたしの能力だけど、殺した方が早くないか?」


そう言いながら、ルリは手元の写真を眺める。そこには、女子大生らしき女性と、その隣に一匹の猫が写っていた。


---


翌日、依頼を達成し、ホテルの一室で眠っていたルリの携帯に連絡が入った。

「まだ昼過ぎなのに……少しはゆっくり寝かせてくれないか……」

眠たい目を擦りながら、彼女は外を見た。晴れてはいるものの、どんよりとした雲が空を覆い、風も強くなり始めたのか、窓が激しく揺れている。

「ああ、今日は雪が降るな……吹雪くかもしれない。」

そう呟きながら、昨日の依頼の入金完了メールかと思って少し嬉しそうに携帯を見ると、そこには「まだ依頼は終わってませんよ」というメッセージが表示されていた。


ルリは首を傾げ、昨日の出来事を思い返した。彼女はターゲットが家に帰る前に、スーパーで買い物を済ませたところを声をかけ、心がオープンだったから、さっさと壊したはずだ。殺してもいないし、何かの間違いじゃないかと、少しイライラしながら返信を打った。

「そもそも、こんな恵まれた環境で育ちましたって顔が気に食わないんだよ。」

ルリは写真を睨みつけ、思わず言葉を漏らす。

「あたしなんて、小さい頃から孤児で、生きるのに必死だったのにさ……。いっそ次は仕留めちゃおうかな〜、猫も。」

そう呟きながら、ナイフを懐に忍ばせ、ニヤリと笑う。


「確か、家はここから近かったな。行ってみるか。」

ルリはホテルを出ようとした時、ぱらぱらと降り始めた雪が吹雪に変わり、風もますます強くなってきた。

「やっぱり吹雪いたか……まあいい、この方が痕跡を消せて都合がいい。」

吹雪の中、昨日と同じ格好で、黒のブーツを履いたまま、ルリはターゲットが住むマンションへ向かって歩き出した。


---


「おー、着いた着いた。ここがターゲットのマンションか。」

ルリはマンションを見上げた。

その時、ふと視界に雪とは違う白いものが舞い込んできた。スカートがひらひらと舞い、女性が落ちてくる。ララはまったく気にせず、無邪気にジャンプしているせいで、パンツが丸見えのままだった。


「うわ〜!!?」

驚くルリ。まさか、こんな風に上から降ってくるとは思わなかった。


空中にいるララは、「にゃ〜〜!!?」と叫びながら、勢いよく地面に向かって落ちてきた。

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