第3話3日間の運命

「え〜〜〜〜!!」

マンション中に響き渡るほどの大声を上げ、ララはその場に座り込んだ。大粒の涙を流しながら、「どうして…どうして…」と繰り返す。


「え?まだ死んでないのに、何で泣いてるの?」

運命の女神は首を傾げ、疑問そうにララを見つめる。しくしくと泣き続けるララに対し、笑顔を浮かべつつも冷静に問いかけた。

「死ぬのを止めるために試練を与えているって言ってるのに、始める前に諦めるんですか?」


「でも!どうしたらいいの?私、何もできないのに!」

ララは涙をためた目で、興奮気味に女神に言い返す。


「試練の内容は先程伝えた通り、くるみさんの心を癒して元に戻すだけです。あなたがくるみさんを本気で助けたいと思っているなら、試練を受けなさい。」

女神は淡々と言い放った。


鼻をヒクヒクさせ、えぐっ、えぐっと小さく嗚咽を漏らすララ。しばらく沈黙が続いたが、突然ララは何かを決意したかのように右手で涙を拭い、女神を睨むように見つめた。


「私、やります!」

その言葉に対し、女神はやっと決意したかと冷淡な態度とトーンで答えた。

「そう……じゃあ試練は今から3日間ね。頑張って。」


「頑張ります!」

ララは力強く返事をしたが、泣き疲れたのかそのまま横になり、すぐに眠りについた。


「まだ説明終わってないんだけどな……」

女神はボソッと呟くと、少し笑みを浮かべた。

「試練はもう始まってるのに、バカな子……まあ、どうでもいいけど。」

そう言うと、女神も静かに座り、目を閉じた。


---


どれだけの時間が経過したのだろうか。外はすっかり明るくなったが、曇り空がどこかどんよりとした雰囲気を漂わせている。ララは少し目を開け、眠たい目を擦りながら、くるみのことを思い出していた。


「おはよう、今日もいい天気だけど、少し寒いね」とか、「今日も可愛いね」と言いながら撫でてくれるくるみの姿が頭に浮かぶ。

「全部夢だったらいいのにな……」

そう願いながら、ララはしっかりと目を開けた。しかし、目の前には運命の女神と、横たわったままのくるみさんの姿が。

「やっぱり現実なんだ……」

ララは再び泣きそうになったが、「泣いてる場合じゃない」と自分を奮い立たせるように勢いよく立ち上がった。


その音を感じた女神は、静かに目を開きつつ立ち上がる。ララはそそくさとキッチンへ向かい、手掴みでカリカリを食べるが、

「カリカリ全然美味しくない……なんで? お腹は空いてるのに……」

まずい物を食べたときの顔をしながら、水を一気に流し込んだ。


その一連の動きを見ていた女神は、心の中で「もう人の体に適応しつつあるのか」と冷静な目でララを見つめていた。


---


「まあ、これからはカリカリじゃなくて、くるみさんと同じ物を食べなさいね。」

女神は静かに言った。そして続けて、

「あと、あなたの行動パターンでわかるけど、トイレはちゃんと人のトイレに行きなさい。決して砂でしてはいけませんよ。」

釘を刺すように言い聞かせた。


「え〜?なんでわかったんですか?毎回、ご飯の後はトイレに行くことにしてるのに!」

驚いた顔をするララ。女神に言われた通り、しぶしぶトイレに行って用を済ませると、ドアから少し顔を覗かせ、恥ずかしそうに尋ねた。

「あの…どうすれば隠せますか…?」

下を向きながら言うララに、女神は少し呆れた様子で、

「スイッチとか引っ張るものとか、何かないかと思っているのでしょう?ここ、この青いボタンを押すと流れますよ。」

と、トイレの中を指差しながら教えた。


「え〜と、あの……」

ララがオロオロしていると、女神はやれやれとため息をつき、トイレに入ってきた。

「あ!女神様もトイレに行くんですか?」

と、あっけらかんと話すララに、女神は少しムッとした顔で答えた。

「しません!ここの青いボタンを押すと流れるんです。」

そう言って教えた後、そそくさと出て行った。


ジャーっと水が流れる音がした後、ララが笑顔で出てきた。

「無事に隠せました。ありがとうございます。」

嬉しそうに言うララに、女神は少し睨むようにしながら言った。

「私にトイレのことを言ってきたのは、あなたが初めてですよ。」

そしてすぐに表情を笑顔に戻し、

「それより、ララさん、試練はもう始まっていますよ。のんびりしていてもいいんですか?」

と問うた。


「でも、何をしたらいいかわからないし、私には何もできません……」

少し感情的に言い返すララに対し、女神は冷静に話を続けた。

「まだ試練には続きがあって、何もできずにただただ期限が迫るのは見ていて面白……もとい、気の毒に思うので、あなたに試練を突破しやすくするためのプレゼントをあげます。」


「え?面白い?それよりプレゼントですか?何がもらえるんですか?」

ララは耳をピクピクさせ、尻尾をふりふりしながら目を輝かせた。


「プレゼントと言っても、物ではありません。それに、もうすでに身につけています。」

少し引いた感じで答える女神。


「え?この尻尾ですか?」

ララは尻尾を手に持ち、首を傾げる。

「それは生まれた時からあるでしょ。」

女神はため息をつきながら言った。

「あなたには能力を与えました。一つは心を読む能力、もう一つは癒しの力です。」


「それって、どういうこと?」

ララは首を傾げた。


「心を読みたい者に対して神経を集中させると、その相手の心が読めます。」

そう説明されたララは、さっそく女神の心を読もうとするが、

「あれ?何も見えません……」

と、がっかりした様子で言った。


「当たり前です。私は女神ですから。」

少し威張った調子で言うと、続けて説明を始めた。

「癒しの力は簡単に言えば、『痛いの痛いの飛んでいけ』みたいなものです。」

女神が笑顔で言うも、ララはキョトンと固まってしまった。

「今の説明じゃ、わかりませんか?」

女神は少し焦った様子で、今度はゆっくり話し始めた。

「例えば、体に傷ができたり出血があったときに、癒しの力を使うと回復します。上手く使えば、心も癒せるかもしれませんね。」

そう言った後、女神はしまったという表情をし、コホンっと小さく咳払いをした。

「これらの能力を駆使して、頑張ってくださいね。ヒントとかは一切与えませんので、あしからず。」

そう伝えると、女神はリビングに座り、瞑想を始めたのだった。

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