第7話 ゴールキーパー八番手
毎日のようにダイビングだけをする日々が続いた。何も楽しくないただただしんどいだけの練習。ひたすらシュートを浴びるのもしんどいけど、まだやりがいがある。
痛いし、辛いし、これで上手くなるとも思えなかった。田原からは一度もアドバイスを受けなかった。なんなら僕らのことなんて放っておいて先輩たちと談笑しているだけだった。
最終的にそんな日々は五月になるまで続いた。しかしある日唐突に終わりを向かえた。
実は田原は僕らのことを観察していて、一ヶ月の練習の末、理想的なダイビングが習得できたと認められた、なんてことは一ミリもない。単純に僕以外の一年キーパーが全員辞めたのが理由だった。
「田原めっちゃウザいし、練習もおもんないから辞めるわ。それにどうせ三年間生駒の控えやろ。それならはよ辞めた方がいいやん」
そう言って、最後の一人が辞めていった。彼がサッカー部で唯一輝いていた瞬間は自己紹介で本田圭佑モノマネをしたときだろう。
五月になると田原は練習に復帰した。それと同時に一年の別練習組で一人になった僕は田原と一緒に全体のゴールキーパー練習に加わることになった。なんであれ先輩たちの練習に参加できる。
燃えない理由はなかった。これでようやくポジション争いのスタートラインに立てる気がしたし、何よりダイビング地獄から抜け出せるのが嬉しかった。
僕に与えられたポジションはゴールキーパーの八番手だった。ちなみにチームにはゴールキーパーが三年三人、二年三人、そして一年が僕と生駒の二人で合計八人いた。つまり序列は最下位だった。
またゴールキーパーは他のポジションと違って、試合中に交代することはほぼない。交代するといったら、スタメンのゴールキーパーが怪我をしたときくらいである。二番手の選手でも試合に出る確率はほぼゼロに近い。それが僕は八番手である。状況は絶望的だった。
しかし、厳しい戦いになるのは元々わかっていた。むしろこの厳しさを求めて選んだ高校だった。ここから僕の下剋上がはじまる。死ぬほど練習し、どんどん成長していく自分を想像してにやついた。ここから何が何でも這い上がってやる。僕は情熱に溢れていた。
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