第8話 レベルの違い

 練習が進んでいくと、自分と先輩たちとの技術の差が如実に表れた。パス一本、シュート一本のスピードが中学までとは桁違いだった。こんなの県選抜のときでも経験ないようなレベルだった。


ただのパスもトラップできず、正面のシュートもキャッチできない散々なできだった。


「おい、田原。ちゃんと教えたれよ。こいつのコーチやろ」ニヤニヤしながら三年の先輩が田原に言った。


「いや知らないですって。下手やからさっさと辞めさそうと思ったのに、なぜか残っちゃったんですもん」田原が僕の目の前で吐き捨てるように言った。


「お前、本人の前で言い過ぎやって」三年が少し慌てるように言う。


「大丈夫ですって別に。ホンマのことですもん。なあ?」田原が僕を見る。僕は苦笑いすることしかできなかった。


「お前さ、よくそんなんでうち入ったよな。俺やったら恥ずかしくて入部できひんけどな。えっ、もしかして自信あったん?」田原は止まらない。周りも少し引いていたが田原を咎める者は誰もいなかった。


 それは田原がチームの正ゴールキーパーだったというのが大きかったと思う。田原には先輩ですら偉そうに言えない、そんな空気がチームに漂っていた。


「おいっ、ちゃんと答えろや。聞こえてるやろ」


「え、何を…ですか…?」色々言われすぎて何を答えたらいいのかわからなかった。


「自信あんのかって聞いてるやんけ。下手くそな上に頭も悪いんかい」


「自信はありま……した」


「ふーん。相当レベル低いところでやっててんな」


 散々言われて僕のキーパー練習初日が終わった。練習直後はかなり気落ちしたが、いかんいかんと首を振った。


 まだ始まったばかりじゃないか。こんなことでくじけてはいけない。誰よりも練習して、レギュラーを掴むんだ。


 僕は居残り練習に何人かを誘って、一年の数人にシュート練習を付き合ってもらった。練習後で身体は重かったけど、充実感があった。


 先輩の目を気にせず、思い切りプレーする。サッカーを楽しむという大事なことを高校に入ってから忘れていたのかもしれない。このサッカー部に入って、初めて楽しい時間だった。

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