第5話 入部

「南中から来ました吉野です。ポジションはゴールキーパー。好きな女優はガッキーです。よろしくお願いします!」


 先輩たちの苦笑いと少ない拍手に包まれた。次に自己紹介した同級生が「本田圭佑が言いそうで言わないモノマネ」をして爆笑をかっさらったため、僕の印象なんて誰にも残らなかった。


 サッカー部には約六十人もの新入部員が入部した。毎年このくらい集まり、最初の一ヶ月で半分ほどになるらしい。どんな厳しい練習が待っているのか。楽しみと不安の気持ちが半々くらいだった。


 新入部員で僕と同じポジションのゴールキーパーは五人。中学のときは同じ学年にゴールキーパーは僕一人だったことを考えると、大きな変化だった。この五人で三年間切磋琢磨していくのだろう、そう思っていた。


「一年は生駒だけこっちや。あとは田原に任してるからそっち行ってこい」


「はい!」とできるだけ大きな声で返事をしてキーパーコーチの指示に従う。このチームには監督の他に、フィジカルコーチとケアスタッフ、そしてキーパーコーチがいた。


 僕らの指導には主にキーパーコーチがあたり、ゴールキーパー以外の選手とは完全に練習が分けられていた。サッカー部というよりゴールキーパー部のようだった。キーパーコーチは主力選手たちのトレーニングを指導するため、僕ら新米のトレーニングは二年の田原先輩が付いてくれることになった。


 ただ同じ一年でも生駒だけは違った。生駒はプロの下部組織出身で冠山高校への入学が決まった春休みから練習に参加していたらしい。僕が入部した日にはすでにトップチームの練習に参加していた。


 生駒は間違いなく強力なライバルで、スタートの時点ですでにリードされている。でも僕だって負けるつもりはない。ここから這い上がって生駒より先にレギュラーの座を掴んでやる。僕はかなり燃えていた。

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