　僕らの目標は中学最後の県大会で優勝することだった。無名の僕らが優勝すればかなりのインパクトだし、もしかしたら強豪校から推薦が貰えるかもしれない。そうなればプロへの道も開けるだろう。気合い十分で最後の大会に挑んだ。

　結果は一回戦敗退。まあそんなに甘くはない。やはり僕らはどうしようもないくらい弱かった。

　引退後、僕はチームで唯一サッカーを続けていた。県の選抜チームに選ばれたからだった。弱小サッカー部にいた僕が選ばれるなんて、異例中の異例で僕もかなり驚いた。

　たまたまその年の県選抜の監督が練習試合のとき僕に「ＭＶＰだ」と言ってくれた監督で僕を推薦してくれたらしい。周りは県内でも有数な強豪校の選手ばかりで、県大会一回戦負けなんて僕ぐらいだった。

　それでも臆することなくプレーし、県選抜でもレギュラーになることができた。僕にとってこの選抜での活動は大きな自信となった。今まで負けてばかりで自分の実力を疑うこともあったが、県のトップクラスでも通用すると確信することができた。

　またチームメイトからたくさん刺激も受けた。レベルの高いチームは要求のレベルも高くなる。どんどん自分のレベルが引き上げられていくのを感じた。監督やチームメイトの厳しい要求が心地よくてプレーするのが楽しかった。それと同時にこんなレベルの高い環境で毎日プレーできたら最高だろうなと思うようになった。

　県選抜の活動が終わると高校入試が待っていた。選抜での活動をきっかけにサッカー強豪校から推薦が貰えるかもといったかすかな期待を持っていたが、やはりそんなに甘くない。

　中学三年間ろくに勉強してこなかった僕もさすがに机に向かった。ただモチベーションはあった。サッカーの強豪校に進学したい。この思いが選抜を通してよりいっそう強くなっていた。強豪校でレギュラーになって、全国大会に出場して、プロになる。おぼろげだったプロというものが、この頃には目標になっていた。僕は高校入試をなんとか乗り切り、無事に第一志望の高校に合格することができた。

　冠山高校。この高校は県内屈指のサッカー強豪校で毎年のように全国出場している高校だった。これから僕のプロへと続く華やかな高校生活がはじまる。大きな期待を胸に入学したが、僕はすぐに厳しい現実を突きつけられることになる。