第3話 弱小サッカー部
中学に入学すると、僕は念願のサッカー部に入った。サッカーが毎日できることも嬉しかったが、一緒にプレーする仲間がいることが何より幸せだった。僕は入部してすぐにやりたいポジションを聞かれ、ゴールキーパーを希望した。
意外に思われるかもしれないが、ゴールキーパーがずっと憧れのポジションだった。強豪国から日本のゴールに襲いかかる数多なシュートを身体張って守る姿。ここぞの場面で飛び出すビックセーブ。文字通りチームを救うことができるこのポジションに強く惹かれていた。
サッカー漬けの毎日を過ごしていたが、チームは中々勝つことができなかった。僕も含めて、中学から始めたサッカー初心者がほとんどのチームだったから仕方はない。それでもたまに勝ったときなんかはチームメイト全員でお祭り騒ぎだった。
「やっば!俺ら県大会優勝できるんちゃう」
「絶対いけんで。この勢いで全国や」
「よっしゃ。今日は全員でラーメン食べて祝勝会や」
練習試合で一勝しただけでこの調子だった。弱かったけど、みんなサッカーが好きでたまらない。そんなチームだった。
試合には中々勝てなかったが、僕は自分がみるみる上達していくのを感じていた。それは僕の才能というより、ポジションが大きく影響していたのだと思う。弱いチームにはたくさんのシュートが飛んでくる。そのためゴールキーパーは大忙しだ。
ひと試合に何十本と打たれるのは当たり前で、十点くらい決められたこともあった。ほとんどの試合が相手チームのシュート練習のようになっていた。でも僕はそんな状況が嫌いじゃなかったし、なんなら楽しんでいて、「もっとこい全部止めてやる」くらいに思っていた。
このように半ば強制的に上達していった僕だったが、あることをきっかけによりサッカーが上手くなりたいと思い、さらにサッカーに打ち込むようになった。それはある大会の帰りにチームメイトから言われた一言が原因だった。
その日の試合は0―1で負けはしたが、僕は相手のシュートをひと試合で二十本ほど止めることができた試合だった。この試合はいつになく調子がよく、面白いくらいにボールの軌道が見えた。試合後には相手の監督から「君がこの試合のMVPだ」と褒められ握手までされた。その試合後に全員でダウンをしているときのことだった。
「お前さ、なんでそんなに止めれんの?」
「なんやその質問」
「意味分からんくらい止めるやん。なんでなん?」
「だからなんやねん。質問の方が意味分からんて」
「いいから答えろや」
「調子いいときは考えるより先に身体が勝手に動くねん。しかもスローモーションで。そうなったときは俺天才ちゃうって思うな」
「なんやそれ。意味分からんな」
「お前が言うなや」
チームメイトは鼻でフンっと笑った後、次のように続けた。
「お前やったらプロになれるかもな」
衝撃だった。この言葉に内心かなり高揚した。もちろん軽い気持ちで言われたのはわかっている。お世辞だという
ことも十分わかっている。それでもこの言葉は僕の心に深く突き刺さった。
「なれるわけないやん」とすぐさま返したが、「プロ」という単語がしばらく脳裏から離れなかった。
このやりとりがきっかけで僕はさらにサッカーに打ち込むことになる。単純な性格なんだと思う。プロなんてかなりおぼろげでどのくらい距離が離れているかも想像付かなかったけど、追いかけていいと言われた気がして嬉しかった。
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