第58話 許されない事であっても
「ふぅ……」
風呂から上がり、乃愛のベッドで彼女が来るのを待つ。
別々に風呂に入るといつもならお互いに髪を乾かすのだが、今日は自分でやった。
俺も乃愛も髪を乾かして貰う時間より、自分の体を綺麗にする時間が欲しいと思ったからだ。
「ちゃんと準備したし、確認もした。大丈夫だ」
いくら何回か乃愛の体に触れているとはいえ、今日は本番なのだ。どうしても緊張してしまう。
時代錯誤かもしれないが、彼氏として彼女をリードしたい。
何度も深呼吸して心を落ち着かせていると、部屋の扉が開いた。
視線を向ければ、風呂上りで頬をほんのりと朱に染めた乃愛が居る。
それだけならいつも通りだったが、服が違っていた。
「えと、どうでしょうか?」
「……最高だ」
普段のキャミソールもかなり大胆だったが、あれはあくまで普段着だ。
しかし今の乃愛が着ているのは、男を誘惑する方に寄っている。
キャミソール以上に薄い布地が人肌を隠す用途を放棄しているせいで、年齢不相応の物と真っ白なお腹が見えてしまっている。
勿論下半身も隠せておらず、黒の下着が露わになっていた。
それでいてどちらの布にもフリルがたっぷりと付いており、妖艶さと可愛らしさが絶妙に混じり合っている。身も蓋もない言い方をすれば、エロい。
流石に直球過ぎる感想はムードを壊しそうだったので短い感想を告げれば、乃愛がふにゃっと緩く笑った。
「良かったです。瀬凪さんに喜んで貰えるか心配だったので」
「こんな格好してくれたら、喜ぶに決まってるだろ? 因みに、いつ買ったんだ?」
「水着を買う時に別行動したじゃないですか。あの時すぐに移動して、莉緒さんに相談しながら買いました」
「あー、成程。だからかぁ」
杠家から翼達が退散する際、翼だけならまだしも、莉緒も勘付いていた。
似たような立場として予想したのかと思ったが、乃愛に相談を受けていたのなら納得だ。
「取り敢えず、こっちにおいで」
「はい」
何だかんだで乃愛も緊張しているのか、歩き方がぎこちない。
それを指摘せず待っていると、彼女が俺の太腿の上に座った。
普段は俺に背中を向けて太腿の間にすっぽりと収まるのに、今日は面と向かっている。
シャンプーと乃愛特有の甘い香りに、どくりと心臓が跳ねた。
「重くないですか?」
「大丈夫だ。むしろ軽過ぎるくらいだよ」
「良かったです」
俺の膝の上に、無防備な恋人が居る。
今すぐに手を出しても受け入れてくれるだろうが、やるべき事をしてからだ。
暴れ出しそうな欲望を理性で縛り、口を開く。
「何度も言うけど、誕生日おめでとう。今更だけど、ぬいぐるみ以外に誕生日プレゼントがあるんだ」
「ありがとうございます。そういえば、ぬいぐるみ以外の誕生日プレゼントの内容って聞いてなかったですね」
「思わせぶりな発言をしたくらいだったな。乃愛にはバレバレだったけど」
乃愛に完全にバレていたからこそ、お互いに万全の準備をした。
明確な言葉にしていないのにここまでしているのがおかしくて、乃愛と笑い合う。
「ふふ、そうですね。ぬいぐるみも嬉しいですよ、大事にします」
「そうしてくれ。で、ぬいぐるみ以外のプレゼントだけど、俺で、いいか?」
女性の誕生日に男性をプレゼントするのはどうかと思う。
けれど、乃愛は付き合った時から手を出されてもいいと思っていたのだ。ここまで来るのが遅過ぎるくらいだろう。
明確な言葉にすれば、乃愛の顔が甘く蕩けた。
「はい。私にとって最高の誕生日プレゼントです。どちらかというと、私がプレゼントなんですけどね」
「それは言うなよ」
「あう。ふふ、すみません」
茶化した乃愛の額を軽く突くが、乃愛は微笑んだままだ。
そんな彼女の蒼と黄金の瞳を見つめながら、滑らかな頬に触れる。
「本当に、いいんだな? 後悔しないか?」
「私はしませんよ。ずっと、ずっと望んでましたから。瀬凪さんはどうですか?」
「俺も後悔しない。世間からしたら、これからするのが許されない事だとしてもな」
乃愛と付き合った時点で俺は犯罪者だ。世間に知られれば問答無用でお縄が掛かる。
けれど、それで良いと思えた。それでも、乃愛に手を出したいと思えた。きっと、俺と乃愛にとってこれが最善なのだ。
だからこそ迷いなく堂々と告げると、蒼と黄金の瞳を潤ませながら乃愛がはにかむ。
「私は瀬凪さんを誘惑して、犯罪者にした悪い子ですね」
「こんな可愛い悪い子になら、喜んで誘惑されるっての」
「…………じゃあ誘惑された瀬凪さんは、やるべき事がありますよね?」
「ああ」
乃愛が俺の肩に腕を回した。
幼さの中に艶やかさを備えた顔が近付いて行く。
ならばと乃愛の薄い服に手を潜り込ませ、細い腰に触れた。
頬を薔薇色に染めた乃愛が、ぴくりと体を震わせる。
「練習して私の体はそれなりに慣れてると思います。だから、最後までお願いします」
「勿論。今日は痛いだろうけど、辞めないからな」
「はい。絶対に、辞めないで下さい」
お互いの唇が触れると同時に、腰に当てていた手を滑らせる。
乃愛を気遣いつつも、幸せな一時を過ごすのだった。
「はふ……」
俺の胸に頭を乗せた乃愛が、熱を孕んだ息を吐き出した。
彼女を労わるように、汗で湿った黒髪を撫でる。
「お疲れ様。良く頑張ったな」
「いやもう、ホントに頑張りましたよ。瀬凪さん、凶悪過ぎます」
「それはマジですまん」
事前に慣らしたとはいえ、結構大変だった。
成人男性の平均程度の体格の俺と、中学生よりも小柄な体格の乃愛とでは無理があったのだろう。
素直に頭を下げれば、乃愛がくすくすと軽やかに笑った。
「いいですよー。あの圧迫感も、良いものでしたから」
「……分かってたけど、乃愛ってエッチだよな」
「うっ。そうですけど、私に欲情した瀬凪さんに言われたくありません」
ばつが悪そうな顔をした乃愛に、手痛い反撃をされた。
何も否定出来ないので、世間の常識に胸を痛めつつも開き直る。
「そうなるように時間を掛けて慣らされたからな。乃愛専用になったんだ。責任取ってくれよ?」
「いいですよ。私じゃないと満足出来ないようにしてあげます」
「とっくになってるんだよなぁ」
乃愛としている時に感じたのは、恋人と一つになれた幸福感だけじゃない。
色々と、世間的には感じてはならないものもあった。
あれらは麻薬のようなもので、それを与えてくれる乃愛にとっくに溺れてしまっている。
諦めと共に溜息をつけば、乃愛が妖艶に微笑んだ。
「私もですよ。でも、慣れたらもっと気持ち良くなれると思います」
暗闇の中で、乃愛が体を起こす。年齢不相応のものがふるりと震えるのが見えた。
何となく嫌な予感がして、頬が引き
「の、乃愛? まさか――」
「二回戦スタート、です。三回戦目もあるかもですよ?」
「流石にそれは辞めないか? 体が辛いだろ?」
「ちょっと疲れましたが、休憩したら元気になりました。思春期の中学生を舐めないで下さい」
「確かに思春期真っ盛りだけど、単純に乃愛がエッチなのも結構影響してると思うぞ!?」
「そうでしょうね。という訳で、エッチな私が満足するまで付き合って下さいな♪」
乃愛が腰を揺らすと、俺の下半身が反応してしまった。
それをしっかり感じ取り、俺に跨る恋人が唇の端を釣り上げる。
「瀬凪さんも乗り気みたいですし、何も問題ないですよね?」
「……おう。こうなったら明日動けなくなるまでやってやるよ」
「ふふ。じゃあどっちが先にダウンするか、勝負です」
蒼と黄金の瞳に情欲の炎を灯らせ、乃愛が動き始める。
どうやら、俺は乃愛の性欲を甘く見ていたらしい。まだまだ夜は続きそうだ。
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