第五話 白虎現る

 ――このバカでかい、白い虎はどこから現れたんだ……?


「グルルルル。久しぶりにこの姿に戻れたわ」

「え……え……」

「おい、人間。マタタビ石をもっとよこせ」

「ま、まって、そんなことより魔獣が……」


 一匹目の魔獣より、大きく、更に立派な赤いたてがみを蓄えた魔獣は、こちらを威嚇しながら、襲いかかってくる。


「あ? 魔獣だと?」


 白虎は魔獣に視線を向けると同時に、前足を振り切る。

 その前足は僕の頭上すれすれを通り抜け、僕を吹き飛ばしそうなほどの風圧が巻き起こった。


「ふん、小さな毛玉ごときが、我の食事調達の話しの腰を折るなぞ……実に不快だ」


 魔獣を見ると、白虎の爪により細切こまぎれの肉塊になった魔獣だったものが、地面に転がっている。

 

「さあ、小うるさい毛玉はいなくなったぞ。おい、人間。我にマタタビ石をもっとよこすのだ」

「マタタビ石って、さっきの緑の石みたいな?」

「そうだ! まだあるのだろう。早く我によこせ。さもなくば細切れにするぞ」

「いや、もう無いんだよ。ごめんな」

「なんだと! 嘘をつくとお前も、肉塊に変えるぞ」


 白虎は、僕に向かって鋭い爪を振り下ろす。それは、屋敷に飾られた白虎の絵画に酷似していた。

 その、迫力と、覇気に僕は身動きが取れない。


 ポフッ


「へ? ポフッ?」


 僕の頭に、柔らかい肉球の感触が伝わった。

 眼の前には、もふもふとした虎柄の白猫がいる。


「わぁぁ、折角、本来のニャレの姿を取り戻したはずニャのに、また猫の姿に」

「お前、ふわふわしてて、可愛いな」

「おい、人間風情が、ニャレのことを可愛いだと!?切り裂いてやるニャ」


 両前足の爪で僕を引っ掻こうとするが、僕に首根っこを掴まれ、その爪は空をきるのだった。


「ふぅ。もういい。ニャレは疲れたニャ」

「おまえ、一体、何なんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。聞いて驚くニャ! 三〇〇〇年前より、この地を守護している、白虎様とはニャレのことニャ」

 

 やっぱり、白虎か。あのでかい姿、ホワイトス家が守り神と崇める四神獣、白虎そのものだったもんな。


「で、なんで猫になったんだ?」

「マタタビ石が少ないからニャ。この一〇〇〇年めっきりダウジングの……」

「お前、ダウジングの事を知っているのか!」

「ウニャ。さっき、お前が使ってたあれニャ。久しぶりに出会ったぞ」


 僕のスキル『ダウジング』を知っているなんて、三〇〇〇年生きているというのは、確かなのかもしれない。

 

「ふむ。 すごいな。お前、六つ星か」

「え? わかるの?」

「当たり前ニャ。ニャレは神に等しき存在ニャぞ」

「ダウジングのこと、教えてくれないか?」


 白虎と名乗る猫は、あぐらをかき、僕を目の前に座らせるように手招きをする。


「さて、色々教えてやるかニャ」

「お願いします。小白虎こびゃっこ先生!」

「誰が小白虎ニャ! よし。まずはどこから話すかニャぁ」


 猫曰く、この世界には四聖獣と呼ばれる四柱が存在していて、それら束ねる神が、人々の繁栄のために、神託を授けるらしい。


 四聖獣が力を保つには、マタタビ石のような聖石が必要で、神は定期的にそれを見つけ出すことが出来るダウジングのスキルを神託で授けていたのだとか。


 そして、一〇〇〇年前より、四聖獣と神が敵対するようになった。

 神は、四聖獣を弱体化させるために、神託の際、人間にダウジングのスキルを授けないようになった。


「だから、ニャレたちは力を失い、猫などという姿でしかいられなくなったのニャ」

「へぇ、では、なぜ僕はダウジングを授かったのかな?」

「そんニャのは知らん。神の気まぐれか、はたまたボケてしまって間違えたのか」


 とにかく、僕のユニークスキル『ダウジング』の正体はわかった。

 探し求める方向を示す、コンパスみたいなものだろう。


「ちなみにニャ。お前、剣で『ダウジング』をするなんて効率がわるいニャぞ」

「え? そうなの?」

「あんな重い物を動かすなんて、六つ星だからできる芸当だニャ」

「剣じゃないなら、どんな得物えものがいいのかな」

「それはニャ……追々おしえてやるニャ」


 ――追々って、まさか、コイツ僕についてくる気なのか?


「さて、マタタビ石も探さないと行けないしニャ。人間、そろそろ行こうニャ」

「やっぱり、ついてくる気かよ」

「当たり前ニャ。お前、名前は?」

「僕は、ライカ。ライカ・ホワイトス」

「ホワイトス……ウニャ。あのガキの子孫だったのニャな」

「小白虎は、僕のご先祖様をしっているの?」

「誰が小白虎ニャーー!」


 こうして、僕と小白虎の旅は始まったのだ。

 取り敢えず、目指すは別荘だが、今日は野営になりそうだな。

 僕たちは、拓けた平ら場所に火を焚き、料理長さんが作ってくれたお弁当を広げた。

 

「おい、小白虎。たまごサンド食べる?」

「ふん、そんなもの、このニャレが食うはずなかろう。マタタビ石ニャ、マタタビ石を取って参れ」

「やだよ、もう疲れたし……」

「ニャらもう、ションベンして寝るニャ」


 小白虎は木陰に行き、用を足すと、前足で器用に土を掛ける。


「お前、本当に白虎か? おしっこの仕方、ただの猫だぞ」

「うるさいニャ! これは、どうしてもやってしまう習性なのニャ」


「あはははは」

「笑うニャ! ひき肉にしてしまうぞ」





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