第三話 弟が授かった神託

「父上……あの……」

「なんだ。ライカ」


 冷たい視線で僕を見下ろす父上は、まだ怒っているのだろう。あれだけ大勢の前で大恥をかいてしまったのだから。申し訳ない気持ちがいっぱいになる。


「昨日は、ごめんなさい。うまく魔法剣ができなくて……」

「いや、私も、機嫌をわるくして、すまなかった。お前なら、ちゃんと六つ星のユニークスキルを使いこなせるようになるだろう。精進しなさい」


 前代未聞のユニークスキルだ、習得するのに時間がかかるのだろう。

 僕は、ずっとそう思っていた。


 この頃、僕はずっと、進歩がなく、ダウジングが一体何なのかもわからず、毎日を退屈に過ごしていた。


 あれだけ、僕に期待していた父上も、進歩がない僕に、興味を失いかけていたのかもしれない。


「今日は、オマール海老の白ワイン煮がメインでございます」

「……」


 少し前まで、僕のお披露目会までは、話題に絶えない楽しい食事だったこの時間も、無言の、居心地の悪い時間へと変わっていた。


「あと半年で、フィンの神託だな」

「はい、兄上のように六つ星を授かりたいです」

「ふん、剣がヨチヨチ歩きするだけの宴会芸のようなスキルをか?」

「あはは。まさか、あれならば平民のように一つ星の方がマシです」


 本当に、居心地が悪い。こんな美味しい料理なのに……。


「ごちそうさまです」


 僕は、居づらさに耐えることができず、席を立つ。

 父上の贔屓は、フィンに移り、フィンも僕を馬鹿にし始めていた。

 

 それからも、僕は修練場の端っこで魔法剣の修練をする。


「キィィィィィィィン」


 眩く輝く光を纏った剣は、浮かび上がり、次の瞬間には、地面をヨチヨチと歩き出す。


 ――なにが六つ星のユニークスキルだ!


「あははは。本当に、『ユニーク過ぎる』だよ……僕のスキルは」


 ――こんなことなら、四つ星でも、いや、三つ星でもよかった。ユニークスキルなんていらなかった。


 僕は、父上に褒めてもらいたかっただけなんだ……。


 僕は、一人でテーブルに突っ伏して落ち込んでいると、そっとオムライスが置かれた。


「あ、料理長さん」

「ライカ坊っちゃん、お悩みする前には、まず腹ごしらえですよ」

「ありがとう……」


 久しぶりに、人の優しい笑顔を向けられた気がする。僕はオムライスを食べながら、涙を堪えていた。


「さて、昔話しでもしましょうか。私はですね」


 一つ星の火属性の神託を授かった料理長さんは、幼い頃からの戦士になる夢を諦めたそうだ。貧しい家だったので、色々な職を転々としたのだが、安賃金だったため、薪が買えないくらい困窮こんきゅうしてた。


 冬、家の中は、ただでさえ寒いのに、硬いパンと冷たいミルクの食事。

 両親や、兄弟は震えながら食事をしていたんだって。


「そのときです! 火属性の魔法を剣ではなくて、フライパンに付与してみたんです。」

「それでどうなったの?」

「フライパンは熱を持ち、薪がなくても料理が作れることに気がついたんです」

「わぁ、凄い! だから料理長さんの肉の火入れは完璧なんだね」

「ふふふ。要は『自分に適したものを見つける』ということです」


 僕の中で、なにか掴めそうな、そんな気がした。

 

 「それを坊っちゃんにお伝えしたくて。さ、オムライスが冷めないうちに食べて前のような、明るく溌剌はつらつとした、ライカ坊っちゃんに戻ってください」


 ◇◇◇


 それから半年、僕は未だ『ダウジング』の正体がわからず、剣をヨチヨチと歩かせていた。


 今日は、フィンが神託を授かるために、父上と王都に出かける。


「フィン、良い神託を授かるように、祈ってるよ! 行ってらっしゃい」

「祈るなんて、やめてよ兄上。『ユニーク過ぎる』を授かったらどうするんだよ」

「あ……うん。ごめん」


 馬車に乗る、父上は僕と目すら合わさない。


 三日後、フィンは四つ星の『絶対零度』のレアスキルの神託を授かり、戻ってきた。


 上機嫌な父上は、早速、フィンのお披露目会の準備に取り掛かる。


 ◇◇◇


「皆様、今夜は我が息子、フィン・ホワイトスのお披露目会に足を運んでくれて感謝する。」


 来賓たちが、一斉に、父上に注目する。


「この度は、我が息子の四つ星レアスキル。私の氷の魔法剣の上位互換の属性の神託『絶対零度』をお見せしよう」

 

「おお! レアスキルか」

「去年のご長男のときのようではあるまいな」

「ははは、あれは傑作でしたな」


 修練場に移動し、皆がフィンを見つめる。

 自信満々の顔で、剣に魔法を付与するフィン。


「キィィィィィン」


 フィンの持つ剣に、冷気がまとい始める。

 『絶対零度』の魔法剣を振り下ろすと、凄まじい速さで氷の刃が飛び出し、的として用意された分厚い鋼鉄の鎧をズタズタに貫いた。


 フィンが放った氷刃の軌跡の地面は凍りついている。


 ――凄い……父上の氷の魔法剣の比じゃない。


「なんだ! この威力は」

「戦場の英雄と言われたホワイトス公爵の魔法剣より凄いではないか」


 満面の笑みを浮かべる父上。冷たく笑いながら僕に視線を送るフィン。


 ◇◇◇


「さて、揃ったな」


 食事の時間、父上が僕とフィンに向かって口を開く。


「先ほど、お前たちの母とも話して決めたんだがな。このホワイトス公爵家の次期当主はフィンにすることにした」


 ――ああ、そりゃそうだよな。わかってるさ。


「で、ライカ。お前のような者がいると、フィンの足を引っ張ってしまうからな。――勘当だ」


 ――え? か、勘当?


「我が領地の辺境にある、別荘がある。そこをお前に与えるから、近日中にこの屋敷を出ていけ」

「な、父上」

「父上は優しいなぁ。兄上なら別荘なんてなくても大丈夫さ。六つ星のユニークスキルなのですから」

「ははは。せめてもの温情だ。さて、話しは以上だ。ライカよ、なるべく早く出ていくのだぞ」

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