こぼれ話③リゼラの魔獣討伐講座


「あの魔獣───ルガレド様が弓矢で射殺したやつにそっくりですね」


 視線の先にいる魔獣を見ながら、ジグが呟いた。少し離れたところで観察しているため、魔獣は私たちの存在に気づいてはいない。


 今日は、ジグとレナスを連れて、魔物・魔獣討伐の訓練に来ている。レド様はラムルを伴って、ロウェルダ公爵邸だ。


 確かに、レド様が弓を使って討伐した魔獣にそっくりだ。


 巨大化したオークで、4m近い体長と、オークにしては俊敏な動き。内包する魔力量も大体同じくらいで、魔力で皮膚を強化しているのも同じ。


 それに、発達した牙のせいで口を閉じられずに、涎に塗れた舌が開いた口の端から垂れ下がっているところまで、同じだ。


「あのときのレド様は────凄かったですけれど…、非常識でしたよね」


 魔力で皮膚を強化しているから、眼を狙って、眼から脳を貫くようアドバイスはしたが────まさか、一本の矢だけで倒してしまうとは思わなかった。


「…リゼラ様も、同じことをできそうですが」

「まさか。それは、無理ですよ。皮膚よりは柔らかいとはいえ、それなりに硬いですから、私では一本だけで貫くことは無理です」


 まあ、【身体強化フィジカル・ブースト】を使って、レド様に弓矢を借りれば、同じことをできるかもしれないけど────現状では無理だ。


 レナスの言葉に、私はすぐに否定をする。この二人も私を買い被っている節があるので、ちゃんと否定しておかなければ。


「『一本だけでは無理』ということは、何本か使えば、リゼラ様も矢だけで倒せるということですか?」

「何本も使うなら、それは倒せますよ」

「「…………」」


 何故か、ジグもレナスも無言になった。あれ、もしかして疑ってる?


「それなら────ちょっと、やってみせましょうか」


 私は、【遠隔リモート・管理コントロール】で弓を取り寄せた。弓を構えると、すかさず矢が現れる。


 魔獣の眼を狙って、矢羽根と弦を放った。間を置かずに、もう一射放つ。そして、続けざま───もう二射放った。


 まず二本の矢が並んで、魔獣の眼に吸い込まれるように突き刺さったが───矢の半分ほどまで埋まって、そこで止まる。

 後で放った二射が飛来し、止まってしまった二本の矢の矢筈を正確に叩いた。


 魔獣の眼に突き刺さっている二本の矢が、後から届いた矢に押されて、深く押し込まれる。脳を射られた魔獣は、その場に崩れ落ちた。


「ほらね?一本では無理だったでしょう?」

「いや、『ほらね』じゃないですよ」

「何ですか、今の。下手したら、ルガレド様より酷いですよ」


 ええっ、何処が?




「ところで────リゼラ様」

「何ですか、レナス」

「ずっと疑問に思っていたんですが────ほら、四足型…、鹿に似た魔獣を倒したことがあったじゃないですか」

「ええ、ありましたね」


 レナスと初めて、狩りに行ったときのことだよね。


「あのとき、リゼラ様は『能力と魔術を使ったから、普通に戦うよりも手間も時間も短縮できた』と言っていましたよね?ということは────能力も魔術も使わなくても、討伐できるということですよね?その場合、どうやって討伐するんです?」


「え、魔法を使うだけですよ?」


 いくら何でも、双剣だけでは無理だしね。


「……魔法でどうやって?」

「そうですね。まず気づかれないよう近づいて───魔獣の足元の土を、魔法で一気に深く陥没させます。魔獣が嵌って身動きとれなくなったら、穴に落ちて低くなった魔獣の眼に双剣を突き立てます。それで、終わりです」

「……………」

「レナス?」


 黙ってしまったレナスに首を傾げていると────ジグが口を開いた。


「リゼラ様───貴女に、ルガレド様を非常識と言う資格はありません」


 え、何で?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る