Ⅵ
§11
巨大な洞窟に足を踏み入れたローズは、ダンジョンがもたらす超常現象に心を躍らせていた。それは光源にあたるものが一切見当たらないのに、見渡す限りほんのり明るかったからだ。どういう仕組みで自らの視界が確保されているのか、まるで見当がつかない。ローズはこのことを二人に
「少し先にモンスターがいるね。まずは私とイリーナで━━━」
「あのさ、あいつらが持ってるものは、何でも奪っていいんだよね?」
「ああ、モンスターの素材は狩った当人のものだから、それで間違いないよ」
「了解」
「あ、 ちょっと待ちなさい!」
イリーナの制止を振り切り、ローズは獲物のもとへ駆け出した。音もなく、気配もなく、それでいて大胆に。そして、獲物の目前まで近づいたローズはポケットからあるものを取り出す。
その得物はバリソンと呼ばれ、ある古代語で「壊れた角」を意味する。特筆すべき点は持ち手の部分が二股に分かれ、そこに刃先を収納できる特殊な組成を持っていることだ。また、訓練を積めば刃先が収納された状態から瞬時に刃先をむき出しにした状態に切り替えることができる。その特異な構造と、戦闘以外にも資材の加工、調理等に使える取り回しの良さから━━━
スラムの住人に、好まれた。
§12
ローズはモンスターを見つけるや否や私の制止を振り切って戦闘を開始し、その場にいるモンスターを
私が最も嫌悪する悪そのものだった。
「あ! 今の見た!? モンスターの死体が消えたよ!」
「モンスターはダンジョンの一部とされているからね。生命活動を終えるとダンジョンに吸収される。そして、これに引っかからずに残ったものを我々は持ち帰るんだ。今回は、この牙がそれにあたるね」
「はぁ~! そんな仕組みだったんだ!」
そしてその諸悪の根源が師匠と対等に会話しているという矛盾。舌が乾き、胃酸がじわじわと這い上がってくる。額の上を何滴も汗が通り過ぎ、不気味な寒気が全身を覆った。まさか早退した時の発言が、嘘から出た
その後の記憶は曖昧で、師匠が魔術を行使してナイト、タンク役のゴーレムを召喚し、私がマジシャン兼ヒーラー。師匠がレンジャー兼ナイト、タンクの指揮をしながらローズにパーティーとしての基本的な立ち回り方を教えていた、気がする。ただ一つ確かなのはあの日、あの時、あの場所で。例え刺し違える結果になろうとも、自らの力でローズを罰するべきだった。
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