幼馴染が天使でした
体の節々の痛みに耐えながら薄暗い部屋で目を覚まし体を起こす。
「......ごほっごほっ!」
喉は枯れて身体を動かすと体から悲鳴が上がるぐらいにボロボロな体で壁に寄りかかり、投げ捨てられているかのように置かれているパンをちびちびと食べはじめるその姿は痛々しいものだった。
「..............かたい」
監禁されているこの部屋は地下にあり何もなくただ石で出来ていてただただ何もない場所のため、震えるぐらいに寒いところだ、その石の壁をみつめているその目に光はなく抜け殻のように座っている。
だが今の若菜にとっては何もない事が何より救いであった、目を覚ましてぼーっと壁を見つめ、眠くなったら目を閉じる、この何もない事こそが幸せである、そんな幸せな時間が終わりを告げる扉を開く音がした。
「あら、起きてたのね」
そう言いながらリーゼの手には水が満タンになっているバケツを持っており、それを持ちながら若菜の元へ歩いてくると頭の上でひっくり返した。
「喉渇いてるのかなーって思って、どう?」
「.......あり....がどう.....ございばす......」
「いい子ね、聞き分けのいいペットは好きよ」
自分の服が濡れる事など気にする事なくびしょびしょの若菜に抱きついて頭を撫でられている。
すると上の階が突如として揺れはじめ次々と破壊音がなり始めた。
「なによ...これからだったのに...はぁ、待ってなさい、すぐ片付けてくるから」
リーゼは急足でこの部屋を出て行った...鍵を閉めずに、若菜にとってはこの混乱に生じて逃れる絶好のチャンスではあったが、そこから動かずに漏れている光をただ見つめているとバックを背負ったリリが若菜の元へ走ってきた。
「若菜、大丈夫!?行くよ、ここから出るの」
腕を掴み「一緒に行こう」と言われたが若菜はその場から動こうとしない。
「どうしたの!?早く行かないとお姉様がきちゃうでしょ!」
「......もう....いい.....やめてよ.....」
「やめないわ!あたし決めたの!あなたと一生一緒にいるって!」
肩を掴みまるでプロポーズのようにリリに言われたが若菜にとってここの世界の住人の言葉などほぼ信用出来なかった。
「....どうせ....ひどいこと....するんでしょ....」
「しないわよ、あたしと一緒に逃げて...誰も知らない辺境の地で2人で暮らしましょう?」
「....ほん.....と....?」
「ホント!さ、あたしの手を取って!」
若菜の目から涙が溢れた、そしてリリの手を取ったて立とうとしたが足の筋力が落ちてしまっていたのな前に転びそうになるのをリリが支えてお姫様抱っこをして抱き抱えた、そして寒くないように上から毛布でくるんであげるのも忘れずに。
「....おもく....ない....?」
「全然、むしろ軽すぎるぐらい...まあ無理もないわね」
リリの方が若菜より小さいがそんなことも気にせず階段を駆け上がって行くと聞き慣れた3人の声が聞こえた。
「獣人如きが私の若菜様を奴隷扱いするなんて許されるわけないですよね?」
「貴様のではない、余の若菜じゃ!」
「なんなのよ、急に乗り込んできてっ...あの子はあたしが買ったの、だからあたしのものなのよ!」
3人は若菜の事で争いあっている、これをチャンスと見たリリは今のうちと言わんばかりに走って屋敷を飛び出た。
「あの2人に助けを求めて世界だったわ、お姉様を止められるのはあの2人ぐらいだし...若菜?」
抱き上げている所から多少の熱を感じたリリは毛布をめくり若菜を見ると、妙に顔が赤く体を震わせている。
「なに...これ...ちょっと若菜、大丈夫!?」
この世界には風邪というモノが存在しておらず、獣人にとっては無縁のもののためリリはわからず焦りはじめたが、なんとか看病をした方がいいと結論を出した、だが重要な問題があった。
「ど、どうしましょう!とりあえず安静させないと...ここから屋敷戻る?いやそれじゃ意味ないわ...かといっていきなりこんな所で看病も違うものね...それに薬とかいるのかしら?」
どうしたものかとその場で立ちすくんでいると、後ろの方から足跡が聞こえ近くの茂みに身を隠し警戒する。
「うーん、ここら辺から若菜様の匂いがするんですが...それと恩を仇で返すような獣人の匂いも」
「ほんとうじゃな...さっさと出てこぬか」
「リリ、今なら許してあげる、早く出てきなさい!」
なんと3人が所々傷があるものの探しはじめていた、リリは若菜を茂みに隠したまま皆の前に出ようとすると服を掴まれている感覚があり視線を下に向けた。
「......リ...リ.....」
弱々しくリリの名前を呼ぶ若菜の手を包み込むと可愛らしい笑顔で手の甲にキスをしてあげた。
「あなたの事はあたしが守るって言ったでしょ、だから待ってて」
そう言い残し、観念したかの様に3人の前に出た
(今の若菜じゃ歩くことすらおろか逃げる事は無理、ここはダメ元で賭けるしかないわ)
なんとか若菜がここにいないとダメ元ではあるが認識させようとする、もしそれがダメだった時は力づくでいくことも頭に入れて。
「ようやく出てきてくれましたね、さ、若菜様を渡してください、そうすればあなたを傷つけないと約束します」
「そうじゃなぁ...余に渡せば貴様を特別にお世話係として雇ってやらんこともないぞ」
「リリ、あたしが独り占めして悪かったわ、これからは2人でペットで遊びましょ?だから...わかってるわね?」
三者三様の凄まじい圧が襲いかかってきた。
「どうして、あなた達は若菜に酷い事するの!?」
「そんな事わからないのですか?まだまだ子供ですね」
「愛してるからに決まっておろう?」
「り、理由になってないわ!」
「いいからどきなさい!」
リーゼの手によって取り押さえられ2人は若菜が隠れているであろう茂みに向かい見つけるとゆっくりと抱き上げた。
「まあひどい熱」
「これは早急に医者の元に連れて行かねばな」
「若菜を離しなさい!」
いつの間にか姉の手から抜け出していたリリが2人めがけて殴りかかるがユーの魔法によって鎖で拘束されてしまう。
「安心して下さい、熱が引くまでは流石に手を出しませんよ」
「そうじゃ、それに不服ではあるがここにいる3人で若菜を分けっこしようと話はつけてある」
「あんた達ちゃんと守りなさいよ」
「ど、どいう事...ですか」
何か恐ろしい事が聞こえたリリは困惑しながらも聞いた。
「毎日誰か1人が若菜様と愛し合うんです」
「それを交互に繰り返し誰か1人を選んでもらうのじゃ」
「それならあたし達も納得出来るしね」
「と、言う事なのであなたにはお世話係でもやらせてあげますよ、まあ、そんな暇はありませんけど」
うっとりとした表情で若菜の頬を撫でていると抱えていたはずの彼女の姿は消えて1人の女代わりに若菜を抱えて茂みから現れた。
「あぁ、若菜ちゃんこんなボロボロになっちゃって...でも大丈夫、もうすぐぜーんぶ忘れて楽になれるからね」
そう言うと女は背中から翼を出してその場にいる4人に言い放つ。
「あなた達は見逃して上げる精々しぶとく生きなさい下等生物の皆さん?」
「まっ、待ちなさい!」
「若菜!!」
手を伸ばたが無情にも届かず、哀れな4人が取り残された。
♦︎ ♢ ♦︎
手の温もりを感じて目を覚ました若菜は久しぶりに見た幼馴染の顔を見て目を見開いた。
「は.....るか.....?」
「おはよう、若菜ちゃん」
何が何だかわからなかったが、彼女の目からは涙が溢れ出てきた、その間遥は若菜の手を握り見守っている。
そこから数分後、泣き止んだ若菜は遥に質問をされていた。
「辛いと思うけど、何があったか教えてくれる?」
「.......う....ん」
これまであった事を話していった、ユーとの生活で何があったのか、ルルとの生活はどうだったかとか、リーゼに飼われていた時の事を...そしてリリが助けてくれたこと、話が終わると遥はそっと抱きしめてくれた。
「大変だったよね」
「....そう....いえば...リリは....うっ!」
「まだ治ってないから無理しないで、治ってからまた話そ?」
起きあがろうとするとまだ治っていなかったのかすぐにベットに寝かせられ、差し出された水を飲ませて貰うと、少しずつ睡魔が襲いかかってきた。
「おやすみ、若菜ちゃん」
寝る直前に遥の背中に翼が見えた気がした。
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