俺の親がアルバムでムカデを潰した

恥目司

 

 今年の4月、家族内のLINEでとんでもない事が起きていた。

 俺の親が俺の高校の卒アルでムカデを潰した。


 家にムカデが現れる事は一年に10回ぐらいはあるし、時期によってはゴキブリはもちろんアシダカグモも出没する。そんな家。

 ヘビも現れるぐらいだし、別に慣れてしまう。(遭遇すれば叫ぶが)


 つまり、そんな事はどうでも良かった。


 肝心の写真には、しっかりクラスの集合写真のページの上にムカデの死骸が載ってあった。


 割とデカいムカデがそこにいた。

 普通にグロテスクなんだが、母親はそういうのを平気で写真に撮る人間なんで、あんま気にしなかった。

 

「卒アルにムカデ載せんのやめーや」

 そう言ったのは、だいぶ間違いだったかもしれない。

 簡潔に言えば、親父がアルバムパタンって閉めて表紙な上に乗って潰した。


 蛮族。

 野蛮すぎる。


 小人たちが冒険する映画とかで巨人に見つからないように逃げる小人が気づかれないまま本に押しつぶされる。

 なんかそういうシーンありそうって言えるぐらいに、野蛮。


 小人が虫に変わっただけ。

 それも節足動物に。


 母は、潰したあとの写真は見せなかった(当たり前)し、俺もこれ以上何も言わなかった。


 アルバムとは、所詮は思い出という体裁の何もない高校生活での一枚を綴ったものでしかない。

 形ばかりの将来像と、堅苦しい言葉、そしてお行儀よく楽しんでるだけの写真しか載らない。


 正直、アルバムなんてのはどうでも良かった。

 思い出は、本じゃなくてみんなの心に残るものだったから。


 高校での3年間の思い出が詰まったアルバムをこうも無下に扱われてそこまで怒れなかったのは、学校が楽しくなかったって事だったんだろ。


 そう言われれば、頷くしかない。


 だって、今でも忘れたいことばかりだ。

 クラスメイトと喧嘩して、学校の備品壊したとか、トイレ我慢して結局漏らしたとか、小説っぽいヤツをノートに書いたら教師に見られて生温かい眼差しで見られたとか。


 でも、良いところはあった。

 いろんなバカやって、いろいろ騒いだ。

 でもそれは、アルバムに載らない思い出だ。

 載らないし、載せられない。


 だから心に刻む。

 帰省して、ふと目についた時にそっと自分のいる写真を眺めればいいだけ。


 ムカデの体液なんて、そんなのコケにも気にしない。

 いや、嘘だ。ムカデをアルバムで踏んづけてるんだ。だいぶ気にする。


 ……やっぱりアルバムは、どうでも良くない。

 

 なんか怒りたくなってきた。


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俺の親がアルバムでムカデを潰した 恥目司 @hajimetsukasa

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