### 第三話: 「初めての温もり」
それからというもの、大河は仕事の合間を見つ
けて、何度もパン屋に足を運ぶようになった。
もちろん、自分でもその理由が分かっていたわ
けではない。茉莉花と何か特別な話をするわけ
でもなく、ただ店内でパンを買って出ていく。
それだけの関係だった。
*
しかし、茉莉花の笑顔とその店の温かさが、彼
にとって次第に欠かせない存在となっていっ
た。まるで、長い間忘れていた「何か」を取り
戻すかのように。
*
ある日、大河はいつものように店に足を運んだ
が、店内には茉莉花の姿が見当たらなかった。
代わりに、彼女の同僚が店を仕切っていた。
「すみません、茉莉花さんは……」
大河は思わず尋ねた。その瞬間、自分がなぜそ
んなことを聞いたのか理解できず、少し狼狽え
た。しかし、同僚はにっこりと笑いながら答え
た。
「茉莉花さんはちょっと風邪を引いてお休みな
んですよ。明日には戻ってくると思いますけ
ど。」
風邪。それを聞いた大河の胸に、不安と焦りが
込み上げてきた。なぜ彼がこんなに心配してい
るのか、自分でも理解できなかったが、彼はそ
のまま黙って店を後にした。
*
その夜、家に戻った大河はベッドに横たわりな
がら、茉莉花の笑顔を思い出していた。なぜ彼
女にこんなにも惹かれるのか、自分でもはっき
りとは分からない。ただ、その笑顔には、彼が
長い間求めていた何かが詰まっていることだけ
は確かだった。
御曹司の孤独とヒロインの微笑み 牡蠣 @pinchmaru
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