### 第三話: 「初めての温もり」

それからというもの、大河は仕事の合間を見つ


けて、何度もパン屋に足を運ぶようになった。


もちろん、自分でもその理由が分かっていたわ


けではない。茉莉花と何か特別な話をするわけ


でもなく、ただ店内でパンを買って出ていく。


それだけの関係だった。



しかし、茉莉花の笑顔とその店の温かさが、彼


にとって次第に欠かせない存在となっていっ


た。まるで、長い間忘れていた「何か」を取り


戻すかのように。



ある日、大河はいつものように店に足を運んだ


が、店内には茉莉花の姿が見当たらなかった。


代わりに、彼女の同僚が店を仕切っていた。


「すみません、茉莉花さんは……」


大河は思わず尋ねた。その瞬間、自分がなぜそ


んなことを聞いたのか理解できず、少し狼狽え


た。しかし、同僚はにっこりと笑いながら答え


た。


「茉莉花さんはちょっと風邪を引いてお休みな


んですよ。明日には戻ってくると思いますけ


ど。」


風邪。それを聞いた大河の胸に、不安と焦りが


込み上げてきた。なぜ彼がこんなに心配してい


るのか、自分でも理解できなかったが、彼はそ


のまま黙って店を後にした。



その夜、家に戻った大河はベッドに横たわりな


がら、茉莉花の笑顔を思い出していた。なぜ彼


女にこんなにも惹かれるのか、自分でもはっき


りとは分からない。ただ、その笑顔には、彼が


長い間求めていた何かが詰まっていることだけ


は確かだった。

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御曹司の孤独とヒロインの微笑み 牡蠣 @pinchmaru

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