### 第二話: 「小さなパン屋の少女」
その翌朝、大河はビルの会議室を出て、何も考
えずに街を歩いていた。ビジネス街の中で、無
数の人が忙しなく行き交う。彼もその一人であ
るべきだが、今日に限って足が勝手に別の方向
へ向かっていた。
*
しばらく歩くと、通りの端に小さなパン屋を見
つけた。都会の喧騒から離れたかのような、ど
こか温かみを感じる店だった。大河は自然とそ
の店に引き寄せられ、ドアを開けた。
「いらっしゃいませ!」
可愛らしい声が店内に響いた。その声の主は、
茉莉花(まりか)という名の店員だった。彼女
は小柄で、笑顔がとても素敵だった。彼女が作
ったパンを手にする客たちも、自然と笑顔にな
っていくのが分かる。大河はそんな光景をぼん
やりと眺めていた。
「どうぞ、お好きなパンをお選びください!」
茉莉花は大河に声をかけた。彼女の明るい笑顔
に、一瞬、彼は戸惑った。彼にとって、こんな
に純粋で明るい笑顔を向けられることは稀だっ
たからだ。大河は無意識に棚に並ぶパンを一つ
手に取った。
「こちらのパン、とても美味しいですよ。私の
お気に入りなんです!」
茉莉花はにこやかに語りかける。大河はそのパ
ンをレジに持っていき、無言で代金を払った。
彼の無愛想な態度に驚くことなく、茉莉花は優
しく微笑んで見送った。
*
店を出た瞬間、大河は胸に何か温かいものを感
じた。彼女の笑顔や言葉が、彼の心に小さな波
紋を広げていた。
「なんだ、この感覚は……」
大河は足を止め、振り返って店の看板を見つめ
た。「Marika's Bakery」― その名前が、彼の心
に深く刻まれるのを感じた。
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