### 第二話: 「小さなパン屋の少女」

その翌朝、大河はビルの会議室を出て、何も考


えずに街を歩いていた。ビジネス街の中で、無


数の人が忙しなく行き交う。彼もその一人であ


るべきだが、今日に限って足が勝手に別の方向


へ向かっていた。



しばらく歩くと、通りの端に小さなパン屋を見


つけた。都会の喧騒から離れたかのような、ど


こか温かみを感じる店だった。大河は自然とそ


の店に引き寄せられ、ドアを開けた。


「いらっしゃいませ!」


可愛らしい声が店内に響いた。その声の主は、


茉莉花(まりか)という名の店員だった。彼女


は小柄で、笑顔がとても素敵だった。彼女が作


ったパンを手にする客たちも、自然と笑顔にな


っていくのが分かる。大河はそんな光景をぼん


やりと眺めていた。


「どうぞ、お好きなパンをお選びください!」


茉莉花は大河に声をかけた。彼女の明るい笑顔


に、一瞬、彼は戸惑った。彼にとって、こんな


に純粋で明るい笑顔を向けられることは稀だっ


たからだ。大河は無意識に棚に並ぶパンを一つ


手に取った。


「こちらのパン、とても美味しいですよ。私の


お気に入りなんです!」


茉莉花はにこやかに語りかける。大河はそのパ


ンをレジに持っていき、無言で代金を払った。


彼の無愛想な態度に驚くことなく、茉莉花は優


しく微笑んで見送った。



店を出た瞬間、大河は胸に何か温かいものを感


じた。彼女の笑顔や言葉が、彼の心に小さな波


紋を広げていた。


「なんだ、この感覚は……」


大河は足を止め、振り返って店の看板を見つめ


た。「Marika's Bakery」― その名前が、彼の心


に深く刻まれるのを感じた。

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