御曹司の孤独とヒロインの微笑み

### 第一話: 「孤独な御曹司」

大河（たいが）は東京の高層ビルの一角にあ

る、家業である大手企業のオフィスビルの最上

階に立ち尽くしていた。大きな窓から見える煌

びやかな夜景は、まるで彼の心とは無関係の世

界に存在しているように感じられた。

「今日も無事に取引を終えたんだな」

背後からの声に振り返ると、父親の厳しい顔が

そこにあった。彼の父は冷酷なまでにビジネス

に徹し、一度も大河を「息子」として見ること

はなく、常に「後継者」として扱ってきた。幼

い頃から成績や成果でしか愛情を測られない環

境で育った大河は、いつしか自分の感情を封じ

込めるようになった。

「ええ、予定通りです」

簡潔に答えた大河の声には、熱も情もない。そ

れが彼のビジネスマンとしての「成功」の秘訣

だった。しかし、その裏では、彼は何かを失っ

ていることに気づいていた。彼には心から話せ

る友人もなく、恋愛などというものは、彼の人

生に一度も訪れたことがなかった。富や権力が

周囲に溢れていても、それは大河にとって無味

乾燥なものでしかなかった。

＊

父親はその答えに満足したのか、軽くうなずい

て部屋を去っていった。残されたのは、夜景と

孤独だけ。大河は深いため息をつき、オフィス

の片隅に置かれたソファに沈み込んだ。

「これが俺の人生か……」

彼はふと、自分に問う。仕事に追われる日々。

家族からの期待に応えなければならないという

プレッシャー。そして、誰にも心を開くことな

く過ぎ去る時間。外見は完璧に見えるが、内側

では何かが崩れ始めている感覚があった。そん

な彼の心は、もう限界に近づいていた。