第8話 それぞれの過去
その日から僕は学校で富美と話す機会が漠然と増えた。
放課後にこの町のどこで異変が起きてるかを探すために放課後を共に過ごすことが多くなったからだ。
もちろんあくまでもこの町の為であって僕らの関係は特に深い意味はない。
今日は放課後どこを調査する、とかたわいのない会話だが富美は自分の携帯電話やパソコンを持っていないのでこれしか連絡を取り合う手段がないからだ。
「なんで携帯とか持たないの?せめて連絡手段用には持ってた方がいいと思うけど」
「私のこの能力についてもしばれたら色々と根ほり葉ほりされるのは嫌だから。携帯やパソコンのメールアドレスとか連絡先を交換するとそうやって取りついた人が色々探りを入れられるのは私は好きじゃないんだ。それに今まで国を転々としてきたからいちいちそういうのを持つと国ごとに機種変更しなりしなきゃいけないくて面倒だったから」と言われた。
なので基本的に富美とは直接のやり取りが主だ。
学校で富美と話す機会が増えてきたらそれについて茶々を入れてくる者もいた。
クラスメイトの男子はこう言った。
「お前最近久田さんと仲良いじゃん?もしかしてお前ら付き合ってんのかよ?」
どうやら僕と富美が学校で話すようになったことに関してそう思う人もいるようだ。
「そんなんじゃないよ」
「あれだけ転校当初は男を全然相手にしなかったあの子がやたら最近男子とも話すようになってきたとか。お前とは特に仲が良いって噂になってるぜ」
「まあ、ちょっとした関係でね」
「抜け駆けはなしだぜ」
今まで男子と親しくなかった変わり者の転校生と話すようになればこう言ってくる。
色々と話すようになった理由を聞かれたり
もしたがそこはうまくあしらうようにした。
富美の正体など人に話したり秘密が漏れたりしたらそれもまたあらぬ状態になり話をややこしくしてしまうだけだと思ったからだ。
そんな日々を過ごした。
僕もなるべく学校内や近所での聞き込みなどこの町の中での地元住民との交流を深めてもっとこの町について知ることにした。
いつ頃からこの町には猛獣が多くなったとか、どこからやってくるとか調べていくうちにそこそこどうやらパターン化していることがわかった。
場所は主におしろぎ山の方面から猛獣が下りてくることが多いようだ。
そしてそれはここ十数年で一気に増えたという。
地道な調査だが解決の糸口の為に僕らは地域の出来事を調べるようにした。
僕らは今日も作戦会議と言いながら富美の部屋に二人であれこれ調査を練っていた。
最初は女の子の部屋に入るのも悪い、と思っていたが今は町の為だ。
「君はよく手伝ってくれてとても助かるよ」
「この町の為だもん。僕にとっても大切なことだよ」
「すまない。こんな面倒な事に巻き込んでしまって」
申し訳なさそうに富美は言った。
僕は学校内や放課後などをこのことに為に自分の時間を使ってやっている。
それは興味ない人間からしたらただの暇人のやることだとか時間の無駄に思えるかもしれないが僕にとってはこの調査を続けていればそのうちこの町をもっと好きになれるかもしれないと思っていたからなのだが富美にとってはそれが協力になりいいことらしい。
「君はやたらこの町を守ることに協力的だけど、なぜそこまでまだ知り合ってそんなに経ってない私のこのわがままに付き合ってくれてるのが不思議だ。手伝ってもらえて非常に嬉しいけど」
富美は前から思っていたのかその疑問を投げかけてきた。
自分の時間を使ってでもなぜここまで他人の調査に協力的なのかと。
「それは……やっぱり前に言っていた理由かな」
僕は答えた。
「私が君の妹さんに似てるっていう?」
「うん」
僕が他人でありまだ知り合ってそんなに経ってない富美にここまで協力するのはやはり富美に妹の面影を見ているのが大きな理由だった。
「そんなに私に似てるという妹さん、気になるな。よかったらどんな子か教えてくれないか?」
富美はその部分を聞いて来た。
今もその表情は妹が僕に質問をする時の表情と似ていた。
「それだと暗い話をすることになっちゃうな」
「暗い……話?」
妹のことを聞いたのにそう返されたことについて不思議そうな表情をした。
「君は去年まで海外にいたなら知らないよね。3年前のこの国で起きた事件」
「すまない。日本に来たばかりでここ数年のニュースは詳しくないんだ」
富美は以前は海外に住んでいたというし、ずっと日本にいたわけではないので日本の出来事を知らないのも無理はないな、と思い僕は話すことにした。
「3年前にこの国で起きた小学校立てこもり事件があったんだ」
「立てこもり?」
「僕、その時事件の現場になってる町に住んでてその事件で妹を亡くしたんだ」
衝撃的な言葉にその事実に驚いていた様子だった
「妹さんって、私に似てるっていう……」
「うん。3年前のその事件で……亡くなったんだ」
その衝撃的な発言によりシン…と静まる空気の中僕の言葉に連なるように外では秋の風が強く吹きカタカタと窓を揺らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます