第7話 前世での迫害
「私はずっとこの世界の両親が日本人だけど海外で仕事をしてる人だからいくつかの国を転々としてたんだ。けれど去年一度両親の里帰りで日本に行ってみてからなぜか日本に何かあちらの世界でのゴッドルを感じた。その違和感は日々日々大きくなって、私は日本に行ってみなくては、と思った。それで今回無理して一人だけ日本に来た。そして調査したところこの町に何かがあると思った。激しくゴッドルを感じる。私のこの前世の記憶と能力に関する何かここにあると。だからこの町に来たんだ」
なぜ海外に住んでいた女の子が一人転校して日本に来たのか。
両親と離れて一人暮らしをしてまでこの町に来たのか、その理由がわかった。
「やっぱりこんなことを聞いたら引くかい?私の正体がこの世界でいう死刑になった凶悪犯みたいなものだしな」
「引くっていうか……びっくりだよ。でもなんでまた」
「私は本来こちらの世界では久田富美として生まれ変わるはずだった。だけど神のお告げで前世の罪を償う為に記憶と能力を引き継いだままこちらの世界では一般人として生まれ変わったのだ。でも…私の秘密でこんなことを聞いて引いたかい?」
どこか寂しそうな表情をしながら言う久田さんに「ううん」と僕は首を横に振った。
「そんなことない、だって久田さんそんなことするような人に見えないもん。あの夜も僕を助けてくれたじゃん」
「そうかな。人は見かけによらないっていうけどね」
「まさか、火が苦手とか言ってたのもそこが関係するの?」
「ああ。私は罪を犯して囚われた後に裁判の結果、国民の前で火あぶりで処刑されることになったんだ」
火あぶり、と聞いて肩がすくむ。
かつての時代には公開処刑の一つとして火あぶりというものがあったという。かの歴史上の人物ではジャンヌ・ダルク等がそういった処刑方法で死んだと聞く。
現在の文明では考えられないことだが、そのメクレンティシアという世界ではどうやら大罪人はそういう裁きを受けるようだ。
「あの処刑の日の記憶が鮮明によみがえるんだ……。私はすでに自分の運命を受け入れ、処刑されるのもまた定めだと思っていた。けれど処刑台に立たされて火をつけられた時、充満する煙で体が熱くなり、この身が焼ける恐怖を今でも覚えている」
それはそうだろう。
ただでさえ死ぬのは恐ろしいのにじわじわと体を焼くように殺されるとはどれほど辛いことだろうか。
「本来は自分を慕っていたはずの大勢の国民は私に冷たい目線を投げかけ、裏切り者とか早く死ねと石を投げられた。あれほどみんな私に「この世界を守って」と信頼をむけてみなが私を頼りにしていたのに手のひらを反す時はあっさりと見捨てた。お前は勇者なんかじゃない、国の名誉を捨てた反逆者だと」
どんな罪だったかはわからないが罪を犯せばそれまで自分を信頼してきた人間も冷たくなる、それが世の中というものだ、とはいうがあまりにも残酷だと僕は思った。
「そして処刑台に立たされた時、火はつけられた。炎は足元の発火物を次々と燃やし、火がこちらに来て、熱がじわじわとこもりこの身が焼けるということを感じた。煙でいぶされていくうちに肺が煙を吸い込み、呼吸が苦しくなっていった。苦しい最期だった」
その瞬間を想像するだけでも恐ろしいことだった。
火で体が焼ける時はかなり熱くて苦しいと聞く。そんな苦しみながら死ぬなんて地獄でしかない。
「体に火が燃え移る前に私は煙を吸って意識を失った。それであの世界の勇者フィノは死亡したのさ」
転生しても自分の前世においての最期を覚えているなんて一生トラウマを引きずるようなものだ。
そんな苦しみを今もなお続けて味わっている。
「だから今でも火が怖い。死ぬ直前のあの熱さを思い出すし、火を見るだけでその時の恐怖が蘇るんだ。じりじりと熱い炎が燃えるのを」
「そんな理由だったのか。ごめん。僕久田さんが火を怖がる理由ってたんに女の子らしくて苦手なもものあるのかな、くらいに思ってた。そんなことがあったんだ」
「普通は前世の死ぬ直前のことが記憶にある人間なんていないからね」
すべてを話し終えるとお茶を飲んで、一服した。
「こんなこと今まで人に話したことなかったんだ。私は前世の記憶を持ってこの世界に生まれてきたから幼い頃は変わった子だといわれていた。幼い時期から前世の記憶を持っているので知識があったし、すぐになんでもできた。言葉を話すことも、計算も、物覚えも」
それは生まれつきすごいことができたということでいいことではないだろうか?と思えた。
「小さい時はそれも天才だとかすごい子とか評価されたけど、小学校高学年くらいからだんだんと私は他の女の子とは違うんだ、と感じたから。私は前世の記憶を持っていて普通の女の子としては生きていけないから」
生まれながらにして前世の記憶があり最初から高校生並みの頭脳を持ってるというのはすごそうだが、やはり普通の子とは違う、というなんらかの平凡ではないという悩みもあるようだ。
「せめてこの世界での両親と友達には普通の人と思われたい。だからなるべくどうすれば人と仲良くなれるかを研究して女子の流行を常にキャッチして普通の女子としてふるまってる。だけど本当はどこか私は違う世界の人間なんだなあとこの年になっても感じるよ」
前世の記憶を持ってこの世に生を受けてしまうというのはこれはこれで面倒なんだなと感じた。
「でも、なんで死んで生まれ変わる際にまた記憶と能力を引き継いだまま生まれたんだろう?それじゃ新しい人生なんて始められないよね……。まるで違う世界で生まれ変わってもそのまま苦しみを味わい続けるようなものだし……」
僕は「生まれ変わり」や「転生」については一度死んだら体が別人として生まれる以上前世の記憶は全て消すことで一から始められるようなものだと思っていた。
まさか前世の記憶を持ったまま生まれる人がいるなんて、と。
「それで私はこっちの世界に転生する際にメクレンティシアの神ホールシに言われたんだ。
『新たなる地で前世の記憶を継いだまま新しい人生を始めこの「地球」という世界を守ることがあなたへの罪の償いです。と』
その世界で勇者としての役目を終えた(正確には強制的に終わらさせられた)のならば記憶もすべて消して新しい人生として生まれ変わらせてくれればいいのに、なんて勝手な神だろうか、と思った。
「こんな話、信じるかい?前世だとか別の世界だとかバカげた話」
「あの時、あの能力を見ちゃったからなあ。久田さんの言ってることは事実だと思うよ」
あの日、謎の光や敵を消滅させる魔法を見てしまったから。あれは本当になんらかの特首能力だと思っていたからあれを見せられたからには本当だと思うしかない。
「やっぱりこんな大罪人なんて怖いと思うだろう?普通の女の子じゃないし」
「それはもう前世の話でしょ?この世界のことでじゃないじゃん。一度生まれ変わって別人になってるし、それにもう住んでる世界だって違うんだから。君はどう見ても普通の女の子だよ」
「意外ときっぱりと割り切るものなんだな。君にとっては私は何者かわからない存在だったというのに」
僕が久田さんのあの能力を見た日からやたら気にかけていて何者かと疑っていたことを見透かされたようでギクリとした。.
「なんかやたら私に気を遣ったりしてくれてるし、私が何者なのかと気になっていたようだけど図星だったようだね」
見事に見透かされていたことに僕は反論する。
「そ、そりゃあんな能力見せられたらやっぱり気になるよ。あんなテレビでも見たことない、アニメとかの世界みたいな出来事があったら君が何者か気になるのも当たり前だろう?」
「なら今日はその疑問が解決できてよかった。いつまでも不審がられるのは私としてもちょっと困るからな」
ふーと久田さんは息を吐いた。
シン……と静まり返った部屋の中は時計の針だけが音を出していた。
時刻はもう夜8時を回っている。
「なんでそんな前世の秘密とか重大なことを僕に話してくれたの?」
「君はあの能力を見たにも関わらず誰にも話さなかった。それにこの前なんでも言って、と言ってくれた。この町での出来事を解決するにはこの町に住んでいる協力者が必要だと思ったから。だけどこんなこと仲良くなった女の子にさせるわけにもいかない。力仕事をまかすには男子がいいかと思った。だけど私はどうにも男性と仲良くするのが難しい。そこで君になら話していいかと思ったんだ」
彼女も色々悩んでいたのだと思った。
「今まで誰にも言えなくて、家族に言ったところで信じてもらえないしこんなこと学校の友人にもたかがゲームのやりすぎだとか中二病だとか馬鹿にされると思っていたから……」
「でも僕に話してももし僕が信じなかったら?」
「君の性格でそれはないなと思った。もし信じないなら信じないでもいい。それにあの能力を見られていたらいつかは誰かに話さないといけないと思ったんだ」
「そっか。話してくれてありがとう。僕でよかったらできることがあるなら協力するよ。この町を守るためだもんね」
なんだかこの話を聞いて僕からの久田さんへのイメージは何者かわからない道生命体のような触り方から一人のクラスメイトとしてようやく見れた
「なんか、イメージ変わったよ。君はなんだか女子には親しくしてても男子には冷たいって噂されてたから」
「普通の女の子として生きる反面、次第に男性とは距離を置くようになっていたからね。今までなるべく男性には近寄らないようにしてたんだ。もしも私の本性を知った時、女性ならただの妄想だとかですませてくれるかもしれないけど男性だとどういわれるかわからない。私自身子供の頃は前世の記憶を引きずってる分小さい頃は生まれながら持っていた前世の記憶からの知識で周囲に変な子とか思われること多かったからね」
久田さんが男性と親しくならないようにしていた理由が少しだけわかった。
学校の男子の告白をすべて断っているのもこのためだったのだ。
前世の記憶とやらを持ったままこの世に生を受けるとそれはそれで面倒なことがいろいろあるんだな、と思った。
「もしも男性と深い関係になって私の本性をを知った時、その人が私を恐れてよからぬ噂を立てたりすることが怖かったから。だから男性とは親しくなれないと思っていた」
「ねえ、僕も協力するから一緒にこの町を救う方法を考えようよ。ここまで知っちゃったらもうとことん付き合うよ。仲間は多い方がいいでしょ?僕だってこの町に来たのは数年前だけど。君よりは長くいるからちょっとは詳しいし」
誰かの面倒を見たりするのは久しぶりだ、と思った。
「ねえ、じゃあこれからは色々とお世話になるからもっと親し気に君の事呼びたいな。『柊太』とでも呼んでいいかな。君も私のことを名前で呼び捨てにしてくれてもかまわない」
「ええ、女の子を呼び捨てにするなんて恥ずかしいなあ」
「そういわないでくれ。これも私と君がこれから協力していくための一環だと思ってくれ」
「じゃあ、富美?」
「そう、それでいい。柊太」
そして僕らはこれからどうするかを話し合った。
この町で獣が狂暴化している原因、富美の言うゴッドルの出る場所を捜査することに協力すること。僕もこの町について調べること。
これからやるべきことについて色々決めてからこの日は解散した。
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