第6話 前世は勇者

そして僕は久田さんの部屋にお邪魔することになった。


「おじゃましまーす」


ドアを開けるとそこは通路もなく部屋が広がっていた。


中は質素なものだった。六畳ほどの和室に必要最低限の家具だけがあり、あとは布団。


 小型キッチンもついてはいるが料理は苦手と言ってた通り全然使ってないとみえ。引っ越してきてから一度も使用してないのかほこりが若干かぶっていた。


 女子高生の一人暮らしにしてはシンプルな部屋だ、と思った。


久田さんは急須にポットのお湯をそそいで二人分のお茶を出した。

「で、話って何?」


僕はさっそく本題に入ることにした。


「ねえ、君はどんな秘密を知ったとしても誰にも言わないかい?」

「うん」

「そうだな、実際にこの前あんな能力を見られたのに学校で噂になってないところをみると君はどうやら本当に誰にも言わないようだな」


 あの日、熊に襲われて彼女は謎の能力を発揮した。

 そのことについてやはり気になっていはいたのだが僕は誰にも言わなかった。


「君には教えても大丈夫か……あの能力も見られてるし」

 何か深刻な話が始まる空気を感じた。


「これから君に話すことはすべて信じられないなら信じなくてもいい。ただの私の戯言だと思ってくれてもかまわない。なんなら聞き終わった後すべて忘れてくれてもいい」

 それほど重大なことなのか、と僕は身構えた。


「私は今は普通の日本人だが実は……」


 久田さんは一度ためらったようにフーと息を吸いこみ、気持ちを落ちつけてからこう言った

「私の正体はこの世界とは違う時空に存在する「メクレンティシア」という世界の勇者・フィノだ」


 その告白に一瞬僕は理解が追い付かなかった

「めくれ……なにそれ?この世界とは違う世界って?」


 何を言い出すのかと思えば突然この世界とは違う世界だのと言いだした。


 最近アニメやライトノベルとかで流行りの「異世界」というものでもあるのだろうか?


 なんだかまるでゲームのようなアニメやファンタジー小説のような説明にわからなかった。


「いきなりこんなことを言われてもやっぱり理解できないか」


 僕は脳が追い付かなかったが、何とか話をまとめた。

 勇者とはよくRPGなどで聞く主人公の職業にありがりなものである。


「いや、勇者といってもこの世界に生まれる前の…前世の話だだから今の話ではないけど。勇者として血族にのっとった生き方をするのもいいと思っていたんだ」


 そして久田さんの口からメクレンティシアの説明が始まった。

 メクレンティシアといわれるその世界はたった一つの空中に浮遊する大地だけの世界だった。

 まさに空中に浮かぶ浮遊大地で大きさはアフリカ大陸ほどの面積な世界だ。

 1つの王都が中央にあり、その周囲は森や草原に覆われていてあとは集落が転々と存在する島国程度の規模の世界。

 世界の端は空中になっていて落ちるから地図より端の大地はないと言われていた。

メクレンティシアは「ヒュゴドル」というこの世界でいう普通の人間と「魔獣」そしてその世界では異端者といわれる「モゴット」という所属のの3つの種族から成り立つ空中に浮かぶ世界だ。


 この世界は魔法が進歩しており、魔法文明が進んでいて大人はみんな魔法が使える。

 しかし生まれながらにして魔法が使えるわけではない。

 魔法が使えるようになるのは十五歳の誕生日と決められている。


ヒュゴドルはは十五歳の誕生日の際に受ける成人の儀式で初めて神にご加護をもらい魔法が使えるようになることを成人とする。


そしてその日からは一人一人になんの魔法の才能があるのかを神に見極められその才能にあった魔法能力を与えられる。


 その世界でいう魔力は神の力「ゴッドル」と言われていた。


 ゴッドルはその世界の生活必需品、地球でいう電気と同じエネルギーでそれにより文明が進んで家事や乗り物、医療に様々なエネルギーとして使われている。

 そして産まれながらにして魔法が使える者は神の御加護を受けていない「モゴット」といい神のご加護を受けずに産まれた悪魔として忌み嫌われる。


 モゴットは秘められた才能でその才能を開花させれば世界を滅ぼすほどの力があるといわれているから人間からは差別されて生きていた。


王国ではヒュゴドルが占領してほぼそれらの者のみの国家が作られていて、その王都の周囲は森や川が広がっていて魔獣の巣窟になっていて。

 モゴッドはその魔獣の巣窟と化している自然の中に集落を作ってひっそりと暮らしていた。


 そんな関係をメクレンティシアの創造期からずっと続けてきた。

「そして私はそのメクレンティシアの中でも代々王都を守るといわれていた「勇者」の家系の中で生まれた」


 勇者とはRPGの主人公のように誰でもがなれるものではなくどうやらメクレンティシアという世界では決められた血筋の家系の生まれの者のみが勇者という称号と役目を与えられるらしい。


「勇者として生を受けた私は幼い頃から「あなたは世界を救う勇者なのよ」と教育された。子供の頃から剣術や様々な知識を勉強させられ十五歳の成人の儀式ではすさまじい戦闘の魔力を秘めているとその日からすさまじく戦闘能力の高い魔法が使えて魔法で剣を作る「ソードオブナイト」の特性を与えられた。それが君に見せた何もない場所から剣や武器を出して戦えるというものだ。なぜかこの世界でもその能力を受け継いだまま私は生まれてしまった」

 なんとも信じがたい話だがあの能力を実際に見たらそれは本当だろうと思うしかなかった。

「それであの時、その能力で戦ってたのか……」

 しかし不思議なものだ。なぜそんな異世界での能力がこの世界でもその能力を引き継いだまま生を受けたのだろうか?この世界には魔法も何もないので意味がないのに、というと。


「それがあの世界の神のいたずら心さ。メクレンティシアの神は気まぐれでね」と言った。


 メクレンティシア勇者・フィノ生まれた世代になると空気が汚染され土に栄養がないのか食料である麦や野菜の育ちが悪くなり、雨が降らない水不足や干ばつなど自然の姿が変わり始めた。

 そこへたたみかけるように魔獣が暴走するようになり威力をふるい建てて王都に侵入してきたり脅威が激しくなっていった。

 自然環境の変化、魔獣をおとなしくする方法、そして再びメクレンティシアが創成期のような姿に戻すために政策を立てなければならなくなり王都の外に力あるものを出して原因を調べさせるべきだ、という話が持ち上がった。

 そこへ白羽の矢が立ったのが勇者であるフィノだった。

「そして十七歳の時にメクレンティシアを救う旅に出されたんだ。自然環境を蘇生させて魔獣を倒し、再び世界をありのままに戻すための方法を探す旅だ。旅には仲間達もいた。みな戦士としての血統の家系に生まれた由緒正しき戦士のエリートとして育てられた者だった」


 話しているうちに彼女の表情は暗くなった


「だけど、それも旅の途中で私が犯した罪によってすべて台無しさ。そうして私は王都の裏切者の烙印を押され、王都に囚われて裁かれて処刑されたのだから」


突然の告白。

普通に生きてる人間が過去には処刑されたというのだ。


「罪……って?」

「私は大罪人だよ。あの世界のやり方に背いて反勇者的行動をとったんだ。それで捕らえられて処刑された」


『大罪人』という言葉に僕は驚いた。

しかも処刑された?そちらの世界で処刑されるほどのそんな大きな罪を犯したのか?


 確かに熊ですら仕留めるほどの強力な力を持っている人なら処刑されるほどの罪を犯すくらい簡単かもしれない。


 あの能力を使えば人を殺めることもできるかもしれない。


 でもそんな悪いことをするような人がこうして現代の世の中で普通の女子高生をしてるとは思えない。


 そもそもそんな人が転校してきたばかりで大して仲良くもないクラスメイトで他人の僕を助けてくれるはずない。

何かの間違いだ、と僕は信じたかった。


「そしてこの世界・地球で生まれたんだ。前世の記憶と能力を引き継いだまま」


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