第5話 秘密って何?

翌日久田さんは学校を休んだ。どうやら体調不良とのことだった。

昨日のこともあってあの後そのまま早退したこともあり気がかりだった。

翌日体調が悪くなるほど昨日の件が大きかったのかそれとも別のことなのか。


その夜、僕は放課後の町を歩いていた。

すると人込みの中で今日学校を休んだはずの久田さんの姿が見えた。

なんだか殺意を芽生えたような表情でフラフラとしていたか。

どこに行くのだろうか?

声をかけようとも思ったがなんだかそれどころじゃない表情に思わず声はかけられず、こっそりと後をつけることにした。

こんなことストーカーみたいで本当はやりたくないけど。


後を追いかけると久田さんは山の方へと入っていった。

そこは「おしろぎ山」といわれるこの町の象徴に山だった。

その入口から歩いていくと道なき道を進んでいく姿を追った。

(どこへ行くんだ?)

声をかけられる雰囲気でもないのでこっそり木々に隠れて後をつける。

入ったのは立ち入り禁止地区の鉄塔の中だった。

久田さんはその有刺鉄線を軽々とした身のこなしで乗り越えていった。

僕はさすがにこんな場所を乗り越えることができず、立ち入り禁止地区なので入るのはまずいと思ったからこれ以上先には進めなかった


なんだ?どこに行くんだ?


しばらくして暗かった鉄塔の奥が光りだした

 この前久田さんが戦った時のあの光と同じものだ!

激しく何かがぶつかる音がする。まるで何かと戦ってるような音だった

「まさかこの先でまた獣とでも戦っているのか?」

彼女一人でなんでこんな危険な場所で、誰かを呼ばなければならないのじゃないかと心配した。

それから十分ほどが経過した。久田さんが出てきた。

彼女の体の衣装はボロボロになっていて何かと激しい戦いをした後のようだった

 彼女はふらふらと歩きながらこう言った。

「ねえ、いつまでそこで見てるんだい?」

僕の方を見てぎくり、として僕は姿を出すことにした。

「気が付いてたの……?」

「当たり前だよ、町の中から私を追いかけてただろう。河野くんはすでに私の能力を見てるからいいと思って振り切ることはしなかったけど。どこまでついてくるのかと思ったらこんな場所にまでついてくるなんてね」

「ごめん。ストーカーとかそんなつもりじゃなかったんだ」

見抜かれたことに僕は後をつけていた理由を正直に話すことにした。

「今日久田さん学校休んだじゃん。担任からは体調不良って聞いて。それなのに調子悪そうな体で外で歩いてるからなんなのかなって思って。もしも本当に体調悪いのに出歩いてるなら急に倒れることだって考えられるし」

「そこまでバカじゃないさ。今日だって目的があって、学校は休んだけどこの用事はどうしても外せなかったからだ」

そう言ってはいるが久田さんの姿はすでにボロボロでその言い分には説得力がなかった。

「ねえ、なんでそんな無茶ばっかりするの?さっきあそこで何やってたの?」

「すまない、理由は聞かないでくれ」

「そればっかりだなあ。この前言ったじゃん。何か困ったことがあったら言ってって」

「……君には関係ないことだ」

 つい世話を焼いてしまったが誰にでも他人に踏み入れられたくない領域はある

僕はこれ以上話すのをやめた。

「わかったよ。それならもうこれ以上つっこまない」

これ以上話していてもどうせ久田さんは話すことはないだろう。ならもう他人の領域に踏み込まないことを優先した方がいい。

「だけど無理するのだけはやめてほしい。前に言ったけど久田さん、僕の妹と似てるからなんだか放っておけないんだ」

「……」

久田さんは無言になった。

「このままここから帰るのも女の子一人じゃ危ないよ。家はどこ?よかったら送るから」

「いい、そんなことまでしなくても……」

「こんな時に何言ってるんだよ。今日学校休むほど体調悪かったんでしょ?そんな人をそのままにして自分だけ帰ることできるわけないじゃん。なんかボロボロだし」

もちろん体調が悪くても用事を優先するほどの体力があるなら久田さんは一人でも大丈夫だろうとは思う。

けれどこのままほっておくのはクラスメイトとして見過ごせないのだ。

「ほら、立てないほどなら肩かしてあげるよ、なんならおんぶでもいいよ」

「そ、そんなこと高校生にもなってできるか!」

「大丈夫。僕体力だけはあるから女の子一人担ぐくらいなんてこともないよ」

さすがにこの年で赤子のように背中にだかられるは嫌なようだ。

僕は全然気にしないがやはりそこは気になるのだ

「じゃ、じゃあ肩を貸して」

熊に襲われた僕を助ける立場だった時とは反対だと思った

前は猛獣を目の前にしてこちらが助けてもらう側だったのが今はこうしてこちらが世話を焼いているのだ。

「すまない」

僕は久田さんを背負うように歩き出すと女の子とこんなに近づくのも久しぶりだ、と思った。昔は妹によくやっていたけど。



「ここだ」

久田さんの家は山沿いにある古い木造アパートだった。

女子高生の一人暮らしにしては質素すぎないか。もっと防犯のあるマンションにした方がいいのではないかと思った。

「じゃあここまで来たらもう大丈夫だね。そろそろ僕はおいとまするよ」

 見た目は古いアパートとはいえ女性の一人暮らしだ、そんなところへ男子である僕が入るのもよくない気がしてアパートまで着いたら僕は退散するつもりだった。

久田さんを肩からおろし、帰る用意をしようとしていたところ

「まってくれ」と彼女が言った

「せっかくここまで来たんだし、中に入ってお茶でも飲んでいってくれないか?送ってくれたお礼がいいたい」

まるでここに一人置いてかれるのを寂しがる猫のような表情で、なんだか緊迫感が伝わってきてここで帰ってはいけない、という気がした。

しかし夜遅い時間なこともあり、これ以上異性のクラスメイトの元に自分がいるのも悪いような気もして遠慮しようとした。

「いいよ。別にもう夜も遅いし」

「頼む、君に話しておきたいことがあるんだ……」

その表情は真剣で、やはりここで帰ってはいけないという念に押され、家に上がることにした。


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