第4話 異世界の勇者!?

月に一回ある調理実習の日がやってきた。

僕は久田さんと同じ班になった。

転校生の久田さんは勉強もよくできてスポーツも得意、きっと料理も得意なんだろうなあと思っていた。


調理実習の時間、それは変わった。

「では今日の料理は鮭のムニエル、ネギと大根の味噌汁です。みなさんそれぞれ火に気を付けて実習をしましょう」


調理実習でそこは僕の得意な教科だった。

親が家を空けることが多いうちとしては僕は自然と家事が身に着いたし、その中でも料理をすることは得意だった。

だからこの時間は僕が唯一自慢の腕を披露できる時だ。

何をすればいいかわからない様子の久田さんに僕は話しかけた

「じゃあ、久田さんは味噌汁を作る出汁を作ってくれないかな」

「だ、だし?って何?」

なんとも初歩的なことを聞いてくるのだろうか。

料理をしたことがないかのような発言である。

「そこの鰹節と昆布からとるんだよ」

鍋に水を張りガスコンロを付けたその時だった

「ひ……火……!?」

途端に久田さんの表情が真っ青になり、顔は汗ばんでいた

「どうしたの?」

同じ班の女子生徒が久田さんに話しかける

「火……やだ……熱い……熱い!」

そういうと彼女はまるで何かにおびえるようにその場にしゃがみこんだ。

自分の手で肩を抱き、ガクガクとおびえる。

その様子はただごとじゃなかったので僕は料理を中断した。

「大変! 顔が真っ青だよ!」

「先生!久田さんが調子悪みたいです!」

すぐに家庭科の先生がやってきた。

「どうしたの?久田さん?火傷でもした?」

先生が話しかけるが久田さんはしゃべることもできずただおびえていた。

「先生、僕保健委員なので久田さんを保健室につれていきます」

そう言って僕は彼女をその場から離れさせるために二人で廊下に出た。


授業中の校内は生徒が廊下におらず静まっている。皆教室で授業を受けているのだ

保健室へ行くために通る通路でヨタヨタとしながら久田さんとしゃべっていた。

「すまない。私は火が苦手なんだ……」

その火が苦手、という度合もただ事じゃなかった。

「ごめんね、そのこと知らなくて久田さんにコンロの役目頼んじゃって。本当にごめん」

 僕は申し訳なくなって謝った

「いいんだ。悪いのはこちらの方だ」

「そんなことないよ!久田さんが火が苦手って知らなかった僕が悪かったから」

「……」

 しばし久田さんは無言になった。

「河野くんは料理が得意なのか?」

「うん、うち母さんいないし、父さんは仕事で忙しくてね。だから普段は僕が料理してて、家のことまかされてるし一通りの家事はでくるよ。まあっていっても家事をするようになったのはここ数年だから結構最近のことだしそれほど得意分野ってわけじゃないけど。でも僕がやらなかったら家に料理や家事する人いないから仕方なくやってるうちに覚えたていうか」

僕は正直に料理が得意な理由を話した。

「でも火が苦手か、困ったなあ。この学校、家庭科の調理実習は毎月必ず1回はあるからなあ。」

「そ、そうなのか!?どうしよう……」

「久田さん、火が怖いなら今度から僕に言ってよ。僕が今度から火をつける役やるし、班のみんなにも言っておくよ。久田さんに火の仕事まわさないように」

「すまない、こんな高校生にもなって火が苦手なんて」

彼女の火が苦手とは過去のトラウマ系かもしれない、と思った僕は特に理由は聞かないことにした。

子供の頃に火事に遭ったとかなにか火に関するトラウマがあるのならさっきの様子からしてただごとじゃないと思えたからだ

「なんか意外だなあ。久田さんって勉強もスポーツもできるし、この前はあんな姿まで見ちゃったから怖いものなしだと思ってた。けど誰にだって苦手なものはあるし、しょうがないよ」

ちょっとだけ彼女の意外な面を見た気がして久田さんも僕と違う世界の完璧な人間ではないのだと思った

久田さんも得意なものがある反面苦手なものもある女の子だ。

「そんな様子だと久田さん、家では料理とかどうしてるの?たまに自分が作ったりとかお手伝いすることないの?」

「私は今両親の元を離れて一人で日本に来たから一人暮らしでいつも外でお弁当とかを買ってきて食べるのが通なんだ」

「へえ!?高校生で一人暮らし!?すごいなあ」

久田さんは何かと大人びてるとは思ったが、一人暮らしをしてるとはそこまですでに精神的にも高校生ながら自立しているということだろうか?

それにしてもなぜ海外に住んでいたのにその両親の元を離れてまで一人で日本に来たのだろうか?

未成年ならまだ保護者の元にいるべきではないのだろうか?

それを押し通してまで日本に一人ででも来たかったのだろうか。

とはいえそれは他人の家の事情だ。他人の家の事情に詮索すべきではないと思ったのでその部分にはあえて触れないことにした。

きっと久田さんにも何かやりたいことがあって日本へ来たのだろう。

「それじゃあ家事もできる方なんじゃない?」

「いや、そんなこともない。洗濯とか掃除とか必要最低限のことはするけど本当に火がダメで調理だけはできないんだ。その年で家事だけじゃなくて料理がちゃんとできる河野くんもすごいよ。私は家事を適当にしてるんだ」

何か事情があって両親と暮らしていないだなのだろうか?何の事情があってこの町にわざわざ引っ越してきて一人暮らしなのかも気になるところだった。

「じゃあさ、料理だって調理実習で覚えたもの家で作ってみたら?きっとご飯食べるのも楽しくなるよ」

「だがどうにも火が苦手で……」

「それなら最近はガスコンロじゃなくてもIHとかクッキングヒーターとか電気加熱の調理器具とかもあるし、それとか使ってみるのも手だよ」

「うん、考えてみる」

保健室に着くと、僕は養護教諭に先ほどのいきさつを話をして久田さんがゆっくり休めるようにした。

ベッドに横になる久田さんは先ほどより少しだけ表所がよかった

「色々と……ありがとう。君はすごいな、面倒見もよくて、この前の時も動き方が素人じゃなかったように見える。すごく運動神経がいいんじゃないかな?何かスポーツとかやってるの?」

「うん、昔はバスケ部でエースとかもしてたよ。途中でやめちゃったけど」

「やめたのか……。あれだけの動きならもっといろんな特技に生かせそうだけど」

「ううん、僕もうそういうのいいかな……って思って全部やめちゃった」

「そう……」

しんみりした空気になってしまったのでこの話をいちいちここですべきじゃないと思ったので僕は戻ることにした。

「じゃあ僕はそろそろ調理実習室に戻るから。また調子よくなったら授業に戻るといいよ」

「うん。ここまで来てくれてありがとう」

僕が保健室を出て行こうとする時。久田さんはちょっとだけ寂しそうな表情をしていた。

その表情に僕はかつての家族の面影を重ねていた。

その表情を見ておもわず僕はこう言った。

「久田さん、これからも何か困ったこととかあったら僕に言って。僕でよかったら相談にのるから」

その言葉に久田さんは一瞬目を丸くした。

「君はなんで転校してきたばかりの私に優しくしてくれるんだ?」

「ほら、久野さん前に僕のこと助けてくれたでしょ。それに……」

僕は思っていたことを素直に言った

「妹に似てるんだ。久田さん僕の妹にそっくりだから顔とか見た目とか

正義感あるところもそれで苦手なものもあるとか。だからなんだか他人のような気がしなくて放っておけなくてね」

「ふうん、その妹さんはいつか見てみたいものだ」

久田さんのその言葉に僕はどこか寂しい気分を感じた。

「もう、できないんだけどね」

「え?」

「ごめん、こっちの話。じゃあね久野さん」


僕は調理実習室に戻ることにした。

「やっぱり似てるなあ……」

僕はなんだか久田さんのことが気になってしょうがなかった。

その後、調理実習が終わって久田さんの分をタッパーに入れて保健室に戻ったが久田さんの姿がなかった。養護教諭に聞いたら早退することにしてもう担任教師にも伝えたとのことだった

それでその日の午後は久田さんを見ることはなかった。



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