第1話 謎の転校生、来る

十月三日月曜日

 高校2年生の秋。

 二学期も中ごろになり、衣替えの季節となり多くの生徒が夏服から冬服になっていく。

 僕・河野柊太もこの学校の生徒としていつも通りの生活を送っていた。

 朝のホームルームが始まる。

「えー、先週言っていたが今週からこのクラスに転校生が来る」

 そういえば先週末「来週このクラスに転校生が来る」とか先生が言ってたなあとぼんやりと思い出す。転校生は女子と聞いていたが元々クラスの女子ともそこまで親しい仲になるほどではない僕には興味のないことだ、と思えてその話はあんまり関心を抱かなかった。

 別に女子が嫌いというわけではない。ただ過去にあった事件がトラウマで僕はいまいち女子と仲良くしようという気になれなかったのだ。

「では転校生を紹介する」

 転校生とはいえすでにこの学校の冬服制服を着た女子が入ってきた。

「転校生の久田富美子さんだ」

 茶髪でセミロングに制服を着こなし花柄のモチーフ髪飾りをつけた透き通るような白い肌その女子生徒は、どこか日本人離れした外見はクラスの者をざわめかせた

その容姿には僕も一目置いたほどだ。

 しかし何よりもその転校生の顔はかつて僕の大事な家族だった者の顔とよく似ていた。だから驚いたのだ。なんて綺麗な子なんだろう。

「ひょー、美人」

「あの子どこから来たのかな?」

ひそひそ話が聞こえた。

「久田富美です。先月まで海外に住んでました。まだこの町に引っ越してきたばかりで知らないことだらけですがよろしくお願いします」

その美しい声とハキハキとしたしゃべり方に誰もが惹かれた。

「じゃあ久田さんの席は河野の隣だから」と教師は教室の廊下側の端を差していった。

 休日のうちにいつの間にか用意された僕の隣の空き机に転校生が座った

 よりにもよって転校生が隣の席とは、と僕は予想してなかったことにとまどう。

 あんまりじろじろ見たら変に思われる、と思い転校生からはなるべく顔を背けていたのだが

「あの……」

 転校生はいきなり僕に話しかけてきた。

「な、なんですか?」

 僕は初めてしゃべる相手に緊張していた。

「私、まだこの学校で来たばかりで制服しか用意できなくて……教科書とかはまだ届いてなくて……。今日は君の教科書を見せてもらっていいかな?」

そういうことか。

いきなり見知らずなクラスメイトに話しかけてくる用事なんてそんなもんだろうけど。

「うんいいよ。僕、河野柊太。隣の席だからよろしくね」

しかし間近でみるとますますその美しい容姿に惹かれそうだった。

先ほどの黒板の前ではよくわからなかったがよく見ると長い睫毛に透き通るような瞳に先ほど思ったようにやはりどこか僕から見たら懐かしい顔つきだった。


休み時間になると僕の隣の席である久田さんの周りは転校生に興味を抱く生徒でいっぱいになった。

「久田富美だからあだ名はフミちゃんだね!」

「前はどこに住んでたの?」

「その髪型いいねー。なんだかおしゃれって感じ」

 質問攻めにされるもそれに嫌な様子もなく受け答えする久田さんはすぐクラスの女子と仲良くなれたようだ。

 女子たちの間ではちやほやとされている反面、男子たちにも転校生の話題になった。

「なんか見た目はちょっと変わった子だけど可愛いよな」

「だよな。なんか外国のお人形さんみたいな感じだし。どこかのお嬢様かも?」

「な、河野もどう思う?」

「うーん、まあ僕はあんまり興味ないかなあ」

 やはり転校生が来るというのはいつの時代も注目の的らしい。

 クラスメイトの男子による転校生の話題に僕は適当に返す。

「なんだよ、可愛い女子の転校生だぜー」

「引っ越してきたたばかりってことはまだこの町に彼氏とかいないってことだよな。今がねらい目じゃね?」

「だよな、俺告っちゃおうかなー。まだこの学校来たばかりなら人間関係も一からだしな」

そんなクラスメイトの話題に僕はあんまり乗り気ではなかった。

僕にとっては転校生にはそういう異性としての興味はなかったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る