第2話

~南の島、ほこの里~

その日の夕方、長老は里の広場に里の若者5人を残した。

5人の若者、 クノン、ワイル、フマ、ペニー、カンアは訳も分からず話を聞く。


「お前たちだ」

長老の一言ですべてを理解した4人。

ペニーとカンアは驚きと不安感に押しつぶされ、クノンはあたかも初めからすべてを知っていたかのように冷静に沈黙を保つ。

ワイルは、彼がずっと望んでいた航海を目の前にし、興奮を抑えられない。

「俺、遂に海に出れるぞ!!!」

5人の中で、まだ幼いフマは訳が分からずワイルの楽しそうな姿に乗せられはしゃぎだすが、すぐにクノンに止められる。


「俺たちは大陸で何をすればいいのですか?」

クノンが聞くと、長老は後ろの台に置かれた小さな箱を開け、彼らに4つの宝石を見せた。

「これらは契約の石だ」


「契約の石…?」

クノンは長老に見せられた4色の美しい石に目を奪われる。


「契約の石はそれぞれ、大陸の四血族によって作られたのだ。」

「赤の石はルビー、 ワイルと同じ血を持つ 赤人せきじんの石」

「青の石はダイアモンド、 フマと同じ血を持つ 川岩人せんがんじんの石」

「白の石はパール、 ペニーと同じ 氷千人ひょうせんじんの石」


クノンが赤の石に触れると、石がかすかに赤く光る。


「対応する血族の物が触れると光るのだ。 純潔なら強く、混血なら弱く」

突然光りだした石に驚いたクノンの横で、長老は落ち着いて話した。


「この黒の石は何ですか?」

彩の石の中で一つ、暗く濁った石が置かれている。


「これは黒曜石。 オーエム人の石だ」

「じゃあ、俺と同じ…」

カンアが答える。


カンアが石を手に取ると、黒い石であれどかすかな光を発する。


長老が言う

「お前たちは、石をもっとも光らせることが出来る、晶血しょうけつの継承者なのだ」



人神山ひとがみやま、白金城~


人神山の軍は、侵略してきたドール帝国に対し、苦戦を強いられていた。

山の戦いであれど、戦に優れた将軍の存在は無敵である。


「全軍突撃じゃぁ!!!」

山のふもとで馬に乗る気高き男が高らかに叫ぶと、軍が動く。


「山に引きこもる 氷千人共を皆殺しにせぇい!!!」


そのころ、王宮では女王が自身も戦へ参戦する身支度を行っていた。

すると、側近のイムが入る

「お嬢様。わが軍には勝ち目がありません。あなた様だけでもお逃げください」

イムが部屋に設置された隠し扉を開ける。


「ダメに決まっているでしょ! 我々の民が戦っているの。 女王としてこの場に残らなければ…」

彼女は焦りと共に支度を続ける。


すると、

「我々の王は マルコ王!!! あなたではありません!」

叫ぶイムに彼女は驚く。


しかし、驚く彼女を見たイムはすぐさま

「も…申し訳ありません お嬢様!!! ですが、この地を守る役目はあなたではなく、あなたの御父上にある物。あなたの犠牲など、御父上は望んでおりません」

イムの言葉に、彼女の心が揺らぐ。


「私… 弱いのよ。 女王としてなんの役目も果たしていない。 お父様の代わりになんかなれやしない… この国も… 私たちの民も…」

彼女の目から涙がこぼれる。

イムは彼女を支え、いう

わたくしは今まで、17年という長いようで短い間、あなたを見守ってきました。 私には、あなたが今何を考えているか分かるのです。突如御父上の代わりを務めることとなり、重大な責任感で押しつぶされている。ですがあなたはここで命を落とすには勿体のないお方。逃げてください。」


イムの言葉に彼女は何も答えられない。 城の外では無数の氷千人の血が流れ、川の流れのようにドールの軍が攻め入る。


イムは彼女を立ち上がらせ、通路の扉まで連れて行く。

「この通路は、東側のふもとまで繋がっています。そのまま東へ歩くとオークランドが見えるので、そこを目指してください。 彼らは移民に寛容な民族です。御父上も見つかるかもしれません。」

隠された床のドアを開けると、その奥には長く狭いトンネルが広がっている。イムは彼女を先に通路におろす。


「あなたは行かないの!?」

彼女は涙で赤くなった目をイムに向け静かに叫ぶ。


「そのような目で私を見ないで下さいお嬢様。 私が残らなくて、誰がこの部屋を守るというのですか?」

イムは笑顔で彼女を見送るが、その奥底にはとてつもない悲しみが存在する。


「イム…私はあなたまで失いたくない!!!」

一度止まった彼女の涙がまた流れる。


「あなたが願えば、また会えますよ、お嬢様。」

ドール軍の兵士は既に城の門を突破し、城内まで入り込んでいる。

「ほら、もう時間がありません! 行ってください!!!」

イムは少ない荷物を彼女に渡し、通路の扉を閉める。


「待って!!! 」

彼女が叫ぶ。


最後に… 最後に、 必ず会えると約束して!!!

"約束です"



ドール軍の足音と共に、部屋のドアが開く。

そこには女王の姿はなく、一人男が立っているだけだった。





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