知らない人
僕は2週間に1度、図書室に足を運ぶ。図書室は人がいる気配が少ないため、この場所が好きだ。
僕が図書室に訪れる理由は2つある。1つは落ち着きたいため。人の気配がないと、一番心が落ち着く。1人で考え事をしたり、別の世界に行くことができるのだ。2つ目は本があるから。うちの学校は、幸いなことに小説がたくさんある。古い文庫本だけでなく、最新刊や、受賞作まで。僕が知っている本屋よりも品ぞろいが豊富なのだ。入手困難だった本も、ここの図書館ではすぐに貸し出しができるようになっており、あの時は驚いた。
とにかく、この図書館は僕が好きな場所なのだ。
さて、ガラスでできた自動ドアが開くと、今月おすすめの本コーナーが目に入る。文庫本、ハードカバー、そして新書たちが律儀に立っていた。
それらを通り過ぎると、左に司書さんが見える。ふかふかそうな椅子に背を預けて座っている。司書さんが使っているテーブルは、いつも木目調だ。僕が知る限りの図書館は、すべてのテーブルが木目調。気のせいなのだろうかとつくづく思う。踊っている指先の舞台は、最新型コンピューターだ。うちの学校、どれだけ図書室に金をつぎ込んでんだ。
それにしても、ここに生徒が来ることは普段ない。そもそも本を借りに来る人が少ないのだ。
本のミルフィーユの合間を縫って、僕はいつもの席に向かう。僕が普段使う席は一人掛けだ。前は壁になっていて、両端には仕切りがつけられている。一人の世界に入るには、ぴったりな場所だ。
席を取っておくために、とりあえず国語のノートを置いておく。誰も使わないだろうけれど。
それから文庫本コーナーに向かう。上から下まで、すべてが文庫本で埋め尽くされている棚が、あと何十個かある。ここから取り出す本は自由に読めるが、中には倉庫に行かないと読めない本もあるので、自動貸出機で借りるしかない。
まだ読んでいない文庫本を受け取り、自動貸出機で予約した本を手に取った。改めて、なぜここにお金をつぎ込んでいるのかが不思議だ。
二冊の本を抱えて元の席に戻る。すると、僕の席の周りに誰かがいた。
肩までかかっており、うねり一つない黒髪。スラッとした姿勢で、何かを読んでいる。
十メートルほど距離を取って見ていても、何も起こりはしない。
いつものように席の元まで来て、気づいた。冷や汗が出て、その場で硬直してしまう。なぜなら、僕の国語のノートが読まれていたのだ。
人の気配に気づいたのか、その人が振り向いた。僕の脳も、処理が追いつかない。
「あ、ごめんなさい」
僕と視線が合ったのは、見たことのない生徒だった。
上履きの色からして、同じ学年のことはわかる。こんな人、いたっけ。
「あの」
ハッと我に返ると、その子は僕のノートを差し出した。慌てて乱暴に受け取ってしまう。
何か返事をしないかと思い、必死に文字を形成する。こういう時、なんていえばいいのか、わからない。
「なっ、なんで、しゅか」
やってしまった―!早速僕の第一印象が形成されしまう。『なんですか』の5文字すら、初対面の人に言えないなんて、非常にまずい。
相手の眉毛が少しうねった。
余計に焦ってしまい、視線を合わせられない。
この出会いが、長い関係を築くタネなると、この時は考えられただろうか。
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