第6話 追伸

 追伸

 人魚さんから手紙が届く。外見に反してヤマネコが筆を執ったような悪筆である。


 拝啓笹木様。

 私はお腹の子供を産むことにしました。

 トウキョウで授かった(いえ、授かってしまった)子ですが長らく一緒に暮らすうちに情がわいたのでしょうか。どうもおろす気にならぬのです。

 ここは世界の終わりなので、笹木さんはハンタイなさるかもしれませんけど、産みたいものは産みたいのです。

 この子にとって、世界は終わることすらできません。それはどうも可哀そうです。


 ですので、よろしくお願いします。



 同じ町に住み、毎日釣りばかりして顔を会わせる仲ながら手紙とはなにゆえ。と思わぬでもない。

 それにまさか私がハンタイなどするわけがないではないか。

 加うるに、なにを「よろしくお願いします」なのか。


 でも私は不思議と笑ってしまった。


 釣り針を準備して、あの桟橋を目指す。

 世界の終わりにて、釣りに向かうのである。

 今度は私が人魚さんにマンボウ釣りを勧める番だ。それに他にも色々と、せねばならぬことがあるからなあ。


 無論ここは“こと”の先、世界の終わりであり。

 一つ。ここは世界の始まりでもあった。


                                   (了)

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世界の終わりのシィラかんす 宮原知大 @ailish0410

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