第2話 埋もれた約束、掘り起こした未来
翌日、俺は昨日の公園に再び足を運んだ。やはり少年はまた別の場所で穴を掘っていた。子どもらしい無邪気さで黙々とシャベルを振るう姿に、俺は思わず笑ってしまった。
「少年、昨日はあんなこと言って悪かったよ。どうだ、埋蔵金は見つかりそうか?」
シャベルを振るう手を止めた少年は、少ししょんぼりした顔で俺を見上げた。
「ううん、全然何も出てこないよ。お兄さんが言った通り、埋蔵金なんてないのかも…」
少年の肩が落ちている姿に、自分を重ねてしまった。俺だって、期待して掘り起こそうとした夢がいくつあっただろう。ふと俺は、あることを思いついた。
「なぁ、実は君に掘って欲しい場所があるんだけど、手伝ってくれないか?」
俺の提案に、少年は興味を示して頷いた。こうして俺たちは、別の公園へ向かうことになった。
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その公園は、俺が子どもの頃によく遊んでいた場所だった。ブランコやジャングルジムは昔のまま残っているが、ペンキは剥がれ、時の流れを感じさせた。錆びた遊具の風景を見つめながら、俺はタイムカプセルを埋めた場所を思い出そうとしていた。
「確か、ブランコと砂場の間のあたりだったはず・・・」
俺がそう言うと、少年はシャベルを手に取り、すぐに掘り始めた。その手際の良さに驚きつつ、俺も少しずつ手伝うことにした。だが、俺の体力は思った以上に衰えていたようで、すぐに息が切れ始めた。
「お兄さん、タイムカプセルには何を入れたの?」
少年はふと手を止めて尋ねてきた。俺は少し考え込んでから答えた。
「多分、手紙とかだと思う。でも、正直覚えていないんだよな・・・。」
掘り進めながら、俺は昔のことをぼんやりと思い出していた。あの頃、俺はよく彼女とこの公園で遊んだ。ブランコを漕ぎ、滑り台を滑り、ジャングルジムに登った。いつも笑顔で、時間を忘れるほど夢中で遊んだ。彼女と過ごしたその日々は、まるで昨日のことのように鮮明だった。
しかし、彼女は病気で先に逝ってしまった。どんな大人になりたかったのか、今となっては知る由もない。
そんな時、少年のシャベルが何かに当たる音がした。俺はすぐに地面をかき分けた。そこには錆びついた四角い缶が見えた。
「これだ・・・!」
俺は感激に震え、少年とともに缶を取り出した。タイムカプセルだ。ついに掘り当てた。
「やったー!お兄さん、これが埋蔵金だね!」
少年はまるで本物の宝物を掘り当てたかのように喜んでいた。俺は笑って、缶の中を開けた。中には二通の手紙が入っていた。一本は俺が書いた手紙、もう一本は彼女のものだった。
まず、俺の手紙を読んだ。
「未来の俺へ。これを開けた頃には、きっともう大人だろう。今の俺は、宿題がいっぱいでいそがしい。でも、大人になれば宿題もテストもないし、毎日楽しく過ごせるにちがいない。だから、大人になっても元気であそんでくれよな。」
子どもらしい無邪気な内容に、俺は思わず苦笑した。次に、彼女の手紙を開いた。
「未来の私へ。元気ですか?私は元気です。大人になった私がどんな風になっているのか、今は全く想像がつかない。でも、大人になったら、きっとステキな人になっていると信じています。だから、これからも元気でね。」
読み終えると、俺は言葉を失った。彼女はもうこの世にいないのに、その文字が生き生きと目の前にある。胸が締め付けられるような痛みを感じた。
ふと、目の前に彼女の姿が浮かび上がったような気がした。大人の姿になった彼女が、俺に何かを語りかけている。声は聞こえなかったが、口元の動きで分かった。
「見つけてくれてありがとう。読んでくれてありがとう。」
彼女はそう言って、微笑み、ゆっくりと姿を消した。
気づけば、俺は涙を流していた。少年が不思議そうに俺の顔を見ていた。
「お兄さん、どうして泣いてるの?」
俺は笑って、少年の頭を撫でた。
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翌日、再び公園へ向かった。少年は今日も同じように穴を掘っていた。俺は彼に近づき、礼を言った。
「昨日はありがとうな。おかげで大事なものを見つけることができたよ。」
少年は元気よく笑って答えた。
「ねぇ、お兄さん、知ってる?どこを掘っても温泉が出てくるって話、ホントかな?」
今度は、俺は夢を壊さないことにした。少年にはまだまだ夢を見る権利がある。俺は思わず微笑んで、こう提案した。
「それなら、植物を植えてみよう。何か良いものが育つかもしれない。」
俺たちは公園の端にどんぐりを一つ埋めた。少年が大人になる頃、その木はきっと大きく成長するだろう。彼が今日のことを覚えていないかもしれないが、どこかでその木を見上げて何かを感じるかもしれない。
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俺は家に帰り、ふと思った。もし、俺が本当に掘り当てたいものがあるとすれば、それは「油田」だ。石油を掘り当て、石油王にでもなってみたいものだ。子どもに負けない立派な夢である。
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