穴を掘る少年

にゃーQ

第1話 少年の穴と大人の心

 俺は人生に絶望していた。二十代無職、多額の借金を抱え、すでに人生は詰んでいる。いつからこんなことになったのだろうか。どこで道を踏み外したのかさえ思い出せない。昔の知り合いは皆、成功している。アスリートとして輝いている奴もいれば、経営者として大成した奴もいる。そんな輝かしい人生に比べ、俺は何をしている?まるで人生に置いてけぼりを食らったみたいだ。やはり、人生というものは酷く残酷だ。


 俺は途方に暮れ、近くの公園のブランコに腰を下ろした。まるで漫画やアニメに出てくる脇役のようだ、と自嘲する。すると、何やらザクザクと土を掘る音が耳に届いた。俯いていた俺は、顔を上げて音の出所を探る。公園の片隅で、少年が地面を掘っていたのだ。何をしているんだろうと思い、近寄ってみると、そこには深く掘られた大きな穴があった。


「こんなところで何やってるんだ?誰かに見られたら怪しまれるぞ。」

 つい気になって声をかけた。すると少年は、作業を中断して顔を上げ、俺に話しかけてきた。


「お兄さん、徳川埋蔵金って知ってる?この前聞いたんだけど、日本のどこかに大判小判がいっぱい埋まってる場所があるんだってさ。」


 どうやら、俺は不思議な少年に出会ってしまったらしい。こんな小さな公園に埋蔵金が眠っているわけがない。だが、興味を引かれてしまい、思わず言った。


「なぁ、少年。こんな場所に埋蔵金なんてないよ。」


 俺の言葉に、少年は意外にも真剣な顔で反論した。


「なんで?埋められた場所なんて誰も知らないんだよ。だから、ここに埋まってるかもしれないじゃん。公園だったらみんなが遊びに来るから、わざとここに埋める人だっているかもしれないよ!」


 ガキの夢物語か。公園なんか、工事の段階で全部掘り返して整備されてるんだよ。埋蔵金があるはずもないと説明するのも、バカバカしくなった。


「まあ、好きにしろよ。俺は帰るから、あとは自分で埋めとけ。」

 そう言い残し、俺は家路についた。


---


 家に帰ると、部屋は段ボール箱や郵便物が散乱していた。机の上には未開封の封筒や使いかけの紐が無造作に置かれている。俺は床に散らばった物を踏み越えてカーテンを閉め、そのままベッドにゴロリと横になった。暗い天井を見つめながら、俺は未来の不安に押しつぶされそうになっていた。


 ふと、先ほどの少年のことを思い出した。埋蔵金か。もしそんなものが本当にあったら、俺の人生は変わるのだろうか?だが、それは現実離れした夢だ。噂が広まっている時点で、すでに誰かが見つけているだろうし、そんな金が本当に埋められていたかどうかも怪しい。考えれば考えるほど虚しさだけが募る。


 そんな時、ふと昔の記憶が蘇った。子どもの頃に、近所の女の子とタイムカプセルを埋めた公園のことだ。埋めた場所はぼんやりと覚えているが、何を埋めたのかは忘れてしまった。その女の子は病気で亡くなってしまい、もう会うことはできない。タイムカプセルは、それ以来一度も掘り返していない。


 今、その公園に行って掘り返したとして、果たしてタイムカプセルは残っているのだろうか。錆びてボロボロになっているかもしれないし、誰かに持ち去られているかもしれない。だが、少年が埋蔵金を掘っていた姿が頭から離れない。彼はただ夢中になって穴を掘り続けていた。それはまるで、宝探しの冒険家のようだった。


 俺にはあの少年のような好奇心があるだろうか。そんな問いが胸に浮かんだ瞬間、俺は決意した。明日、あのタイムカプセルを掘り起こしてみよう。見つかるかどうかは分からないが、何かを探す行為そのものが、今の俺には必要なのかもしれない。

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