言霊魂
外様 称
第1話
明日から夏休みが始まる。
高校生活最後の夏休み。
振り返ってみれば平凡な高校生活だったなと窓の外を見る。
両親が他界してからというもの、中学生の頃までは何かと不便なことが多かったが、
高校生になってから困ることは特になかった。
自立していくというのは、きっとこういうことなのだろう。
そんな感慨にふけりながら自分の教室に入ると親友の
「
「すまんすまん、ヤノセンの話なげーのな」
「たしかに、いつも面談すげー勢いで喋ってくるよな」
ケタケタと嵐が笑う。出会った頃から変わらないこいつの笑い方にいつも安心させられる。
「あ、そういや、ヤノセンから伝言。
狛犬はやめとけ、だって。」
神道特殊部隊は奈良時代から日本が組織している部隊で、八百万の神の信仰のもとにある組織だ。神社などに置かれる狛犬は神仏の守護をしておりその様と神道特殊部隊が重ねられ“狛犬”と呼ばれている。
「はーっ?またそれかよ!!」
嵐は進路の紙にいつも 『狛犬』 とだけ書き、提出している。
しかも一年の頃から。
「てか、宿世も狛犬志望だろ??注意されねーの?」
「俺は就職って書いてんだよ。二年からな。」
「は?そうだったのかよ。裏切り者。」
恨めしそうな顔でこちらを睨んでくる。
そう、そういう俺も一年生の頃は『狛犬』で提出していたのだ。
「なんでそんなに皆反対してくんだろうな」
「世間の大半が狛犬に良い印象もってないんだから仕方ないだろ。」
神道特殊部隊はその名の通り神に従事している組織のため、国が運営していくにあたり政教分離の観点や予算に関することで非難を浴びることが多くなった。
一方で伝統的な組織として保護するような声も上がっているのだが、
この時代、人々の中で伝統の優先順位は下がっているということがSNSで
狛犬と調べると散見される。
「もう注意され慣れてどうでも良くなってきたわ」
あっけらかんとして嵐が言う。
「じゃあ次から『就職』って書くのか?」
「それはごめんだね!!」
嵐はそう言うとウインクをしてみせ、
「んじゃ、帰ろうぜー」
と言い荷物をまとめ始める。
明日から夏休み。
今年もこいつとくだらない話をしたり、海に行ったり、徹夜でゲームをして
思い出の1ページを増やしていくのだ。
と、この頃の俺はなんの疑いもなくそう思っていた。
言霊魂 外様 称 @tonth_tzm
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。言霊魂の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます