珈琲9杯目 (25)「二つ」が好きな(元)夫婦
「葡萄農園への投資は、かなり割のいい投資だった。質草である『火竜の瞳』は、父親が着用する時に一時返却する必要はあるが、それは数年に一度あるかどうかの頻度だ。その数年で十分利益を受け取れる計算だったが……しかし皇太子殿下の婚約披露宴のおかげで目算が狂った。投資後わずか数か月で、『火竜の瞳』を実家に返さなければならなくなったわけだ」
「父親に宝石を返さないと、所有権を奪われる。だからファルが言い当てたとおり、せっかくの投資を引き上げて、質入れしてた『火竜の瞳』を受け出したんだよ!」
ゼルベーラ隊長に向かってうなずかれたクラウ様は、わたくしに賞賛の目を向けられました。
「ファルはちゃんと考えた結果、リヴァッタさんが投資をやめたって気づいたんだ! やっぱりすごいよ、ファル! 大好き!」
わたくしは微笑と会釈をもって、クラウ様の賛辞にお応えいたしました。しかし同時に、リュライア様から強烈な殺気がクラウ様に放たれたのを感じます。
「それで? 結局何故リヴァッタ嬢が本物の『火竜の瞳』を手にしていたのだ?」
不機嫌さを押し殺したお声で、リュライア様がお二人――殺意の視線はクラウ様にのみ注がれておられましたが――に尋ねられました。
問われたお二人は、一度顔を見合わせ、同時にうなずかれてから、リュライア様に向き直られます。先陣を切ったのは、ゼルベーラ隊長でした。
「リヴァッタ嬢は、父親から本物の『火竜の瞳』を受け取ると、まず模造品を作らせた。そして本物を持って、ガリアルス女侯爵を訪ねた……希代の名宝である『火竜の瞳』を質草にして、農園に投資する資金を調達するためにな!」
「そして銀行には、模造品の『火竜の瞳』を預けたんだ。本物と偽ってね」
クラウ様が続けられてから、結論はお二人が同時に口にされました。
「リヴァッタ嬢は、『火竜の瞳』の模造品を、二つ作らせていたんだよ!」
リュライア様は複雑な表情でうなずかれました。もしお顔の半分ずつで別の表情を浮かべられるものでしたら、ゼルベーラ隊長には同意の笑顔を、クラウ様には「いい気になるなよこの小娘が」の笑顔を、それぞれ向けられたことでしょう。
「宝石の模造品を作らせたって聞くと、一つしか作ってないって勝手に思い込んじゃうんだよね。でもさ、デュホイ氏は例の箱を二つ用意してたじゃん? だったら『火竜の瞳』の模造品だって、二つ用意してもいいじゃないかって気づいたんだ!」
得意満面のクラウ様に、ゼルベーラ隊長も同じく得意顔で唱和されます。
「模造品その一は、我々が認識していた偽物――つまり首飾りに加工されて、年末の冬至祭の宴席などで着用された方だ。それは三月末に宿泊先の屋敷の金庫から盗まれている……一方、誰も存在を知らなかった模造品その二は、本物の『火竜の瞳』として、クロストラ銀行の貸金庫に納まった」
隊長はクラウ様と顔を見合わせ、互いにうなずき合われました。
「銀行は保管料さえ払ってくれれば、顧客が何を金庫に納めようが気にしない。当然『火竜の瞳』が本物かどうか確認するようなことはしない。かくしてリヴァッタ嬢は見事に父親や夫の目をかいくぐり、自分の自由になる金を作るための投資生活を始めたわけだが……」
「ところがどっこい、皇太子婚約披露宴が急に開催されることになっちゃったから、『火竜の瞳』を実家に返さないといけなくなった。だから仕方なく投資を断念してお金を払い戻し、質草を受け戻した。こうして本物の『火竜の瞳』が、リヴァッタ嬢の手に戻ったんだよ!」
リュライア様は、
苦虫を噛み潰したとしてもこれほど苦々しくはないだろうという表情で、リュライア様はわたくしに視線を送られます。わたくしは、万事心得ておりますと小さくうなずき返しました。
「ゼルベーラ隊長の関心を惹かれた二つのこと――『火竜の瞳』が無事に運ばれた際のデュホイ氏の驚愕の表情、そしてその夫の顔を見るリヴァッタ殿の冷たい視線。さらに今朝方判明した、夫妻の離婚申請。これらの原因が、すべて
原因は、ある意味では単純至極でございました。
妻のリヴァッタ殿は、模造品を二つ作るという方法を使い、お父君にもご主人にも気づかれることなく『火竜の瞳』を質入れなさいました。そうして得たお金で投資をされておられましたが、皇太子婚約披露宴の開催により計画は破綻。ただちに投資を断念して『火竜の瞳』を取り戻す羽目に陥りました。
一方夫のデュホイ氏は、賭博で作った借金で首が回らぬ状態でございました。妻が持つ秘宝・『火竜の瞳』は、銀行の貸金庫に厳重に保管されていて、金に換えることなど問題外。しかし婚約披露宴の前倒し開催に伴い、『火竜の瞳』を金庫から出して実家に搬送する必要が生じました。
この事態の変転に直面したデュホイ氏は、勝負師の血の
このご夫婦――失礼、元ご夫婦――は、「二つ」ということがお好きなようで。
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