珈琲7杯目 (3)退屈か災厄か
「あれ? ファルだ! リュライア叔母様も!」
聞きなれたお声に、わたくしもリュライア様も、まさかと顔を上げました。広場の向こうで手を振っておられるのは、クラウ様でございます。本日はプラトリッツ魔導女学院の制服姿で、何人かのご学友とご一緒です。
リュライア様の目が一瞬生気を取り戻したかに見えましたが、すぐにまた死んだタラ以下の目に戻られてしまいました。
「私はいないと言え」
「もう手遅れでございます」
わたくしはやんわりとお答えしてから、速足でこちらに向かってくるクラウ様に小さく手を振りました。一方、このまま退屈で息絶えるか、災厄を招き入れるかの二択を迫られたリュライア様は、どうやら後者を選ばれたようでございます。
「こんにちは、ファル! それとリュラ叔母様!」
「挨拶の順番が逆だろう。それより、お前が何故こんなところにいる?」
盛大なため息と共に発されたリュライア様の問いを無視して、クラウ様はお連れのご学友を振り返られました。
「みんな、紹介するね。この綺麗な人が、あのファルだよ! あとこっちが、リュライア叔母様」
三人のご学友は、皆一斉にわたくしをご覧になられましたが、その憧憬の表情から察しまするに、普段クラウ様は「あの」ファルについて、相当話を盛って周囲に伝えておられると思料されます。
一方、「こっち」で済まされたリュライア様の目は、死んだタラから怒れる獅子のそれへと変貌を遂げておられました。
「なあ、クラウ」ご主人様は優しく首を傾けました。「お前、死にに来たのか?」
ご学友たちが目を剥く前に、わたくしは急いでクラウ様にお尋ねいたしました。
「クラウ様、本日は授業の一環でこちらに?」
「ん? あ、ああ……ま、そんなとこ」
クラウ様は曖昧にうなずかれてから、突然はっとしてご学友の皆様と顔を合わせられました。
「ねえ、確かブレンカ先生は、他の人から助言を受けてはいけないとか、手伝ってもらってはいけないとか、言ってなかったよね?」
クラウ様の問いに、三人のご学友は一斉に顔を見合わせ、数瞬考えてから、一斉にかぶりを振りました。
「何の話だ?」
リュライア様が苛立たし気に姪御様へ問われました。珈琲が無い時のリュライア様の忍耐力は、それはもう凄まじい勢いで底をついてしまわれるのです。
「どうせまた追試か何かだろう」
「ひどいなー、リュラ叔母様」
クラウ様はようやくリュライア様にお顔を向けられました。「今日はね、大事な選抜試験。ブレンカ先生の『創造魔法論』のクラスに入れるかどうかの、大切な試験なんだよ!」
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