幸せが『実る』日
みんな心の傷が完全に癒えたわけではないが、それでも幸せになるために前を向いて共に歩んでいた。
定時に仕事を終えて自宅に帰り、家族と共に心休まる時間を過ごす、それが俺達の精神的な安定にも繋がっていた。
穂乃果は友達が増えたみたいで、毎日のように遊びに行ったりと、家でも外でも楽しそうに過ごしている。
楓は今まで以上に笑顔が増え、家にいる時は暇さえあればくっつくくらいそばにいたがるし、かなり甘えたがりになっていた。
葉月も在宅ワークをしつつ、楓と競うように甘えてきて、元々スキンシップが多めではあったが、更に激しくなったように感じている。
そして暇を見つけては楓と葉月と愛し合ったりと、順調に新たな生活を楽しんでいたのだが……
「大樹さん! やりました! デキちゃいましたぁー!」
葉月の妊娠が分かり、俺達家族は幸せだが慌ただしい生活へと変化していった。
まずお互いの両親への報告をすると、驚かれたが祝福され、葉月の妊娠が分かってから、俺の母さんや葉月の両親、そして楓の両親までもが俺達家族をサポートするためにちょくちょく家まで顔を出してくれるようになった。
穂乃果には楓と葉月が性教育も含めながら赤ちゃんが出来た事を伝えてくれて、その日以来、お姉ちゃんとして穂乃果の中で何かが芽生えたようにも感じた。
葉月の体調を気にしつつ、子供の物を揃えたり、葉月の部屋を子育てしやすいように模様替えをするなど、出産に向けての準備を着々と進めていた。
葉月は初めての出産で少し不安そうだったが、そばに出産経験のある楓がいるというのが心強かったみたいで、楓に色々相談したり、時には甘えたりなんかもしていた。
「あはっ、大樹さん、女の子ですって! 名前どうしましょう?」
病院の検診でお腹の子が女の子と分かったので、産まれてくる前にみんなで名前を考えたりもしていた。
みんなで色々名前の候補を出し合い、悩みに悩んだ末……
こんな複雑な家族になったがみんなで絆を深めて歩み続けた結果、今の幸せが『実った』という事。
そして葉月のお腹の子は腹違いではあるが穂乃果と姉妹なので、穂乃果の『乃』の字ももらって、お腹の子の名前は『実乃梨』と名付ける事に決定した。
「実乃梨ー、お姉ちゃんだよー? 早く会いたいなぁー!」
名前が決定してからは、穂乃果は毎日のように葉月のお腹に呼びかけ、会える日を楽しみにするようになり、そして……
「大樹さん、あたしが出産したら次は楓さんですからね!」
「は、葉月ちゃん!? いや、子育てって大変なんだよ? それを私もだなんて…… 実乃梨ちゃんがもう少し大きくなってからでも…… あっ! やぁん…… そこは……」
「ダメですよ、『あたし達』が大樹さんとの赤ちゃんが欲しいって思ったんですから、だから育児が大変でも仲間外れはダメなんです! という事で…… はい、準備は大丈夫そうなんで、大樹さん…… ヤッちゃって下さい!」
「あぁっ…… んっ! だ、大樹、くん……」
なんて冗談なのか本気なのかは分からないが、俺と楓が愛し合う事をやたらと勧めてくるようにもなって少し戸惑っていた。
しかもお腹が少し大きくなっている葉月に見守られながら…… っていうのは少し気が引けたが、葉月の熱心な直接指導の成果なのか、楓が勉強熱心なのかは分からないが…… 楓の巧みな技に翻弄され、ついつい愛し合う事になってしまい、結局は葉月に対して何も言えない状態になってしまった。
楓も『ダメ』と言いつつ、幸せそうな顔で甘えてくるんだけどね……
そして月日が過ぎて…… 葉月は元気な女の子、実乃梨を無事産んでくれた。
出産には三人で立ち会って、実乃梨の誕生を見届ける事が出来たし、母子共に無事で本当に安心して、俺は人目を憚らずボロボロと泣いてしまった。
穂乃果は出産というものを初めて見て、驚きのあまり立ち尽くしていたが、自分の妹を初対面して……
「シワシワ…… だけど可愛い…… 実乃梨、お姉ちゃんだよ……」
自分の妹が誕生したことを喜んでくれていた。
「葉月ちゃん、お疲れ様…… 頑張ったね」
「あ、あはっ…… 楓さん、ありがとうございます…… いやぁ…… もう体験したくない痛みでした……」
「ふふっ、そうよね…… 私もそうだった、だけどしばらくすると『もう一人欲しいかも』って思っちゃうのよ、不思議よね」
「えぇ…… 今はそんな事考えられないですよ…… 大樹さん?」
「うぅぅ…… 良かった…… 良かったぁ…… 頑張ったな、葉月ぃ…… おめでとう……」
「ふふっ、大樹くんったらぁ…… 葉月ちゃんより泣いてるじゃない」
「あはっ! 大樹さん、鼻水出てますよ!」
今まで色々と辛い事があって、それでもこうして葉月と俺の娘が誕生したのを見られたんだ…… これで泣かないなんて無理だろ……
そして葉月は何日か入院してから帰宅する事になり…… 更に慌ただしいが幸せな生活が始まった。
穂乃果は遊びに行く回数が減り、生まれたばかりの実乃梨にベッタリ。
葉月も楓やみんなの両親に手助けされながら育児に奮闘中。
葉月の両親は初孫という事もあるが、見られないと思っていた孫が見れた事で歓喜していたなぁ……
「最初は君たちの生活には不安があったが、こうして孫を見られてすべてが吹っ飛んだよ、大樹くん…… 葉月を助けてくれて、幸せにしてくれてありがとう!」
と、感謝の言葉を頂いたりもした。
母さんも孫が増えたことを素直に喜んでくれて、楓の両親も俺達を祝福しつつ……
「次は楓の番かしら?」
なんて気の早い事を言っていた。
しばらくして、草薙くんと柑奈さんも出産祝いを持って訪ねてきてくれて……
「木下さん、葉月さん、おめでとうございます!」
「おめでとうございます…… 実乃梨ちゃん、初めましてー、わぁぁ…… 可愛い」
柑奈さんは葉月に抱っこされた実乃梨を見て『可愛い』と連呼していた。
「そうだ草薙くん、二人の新生活は順調かい?」
「はい! 順調過ぎるくらいっすよ! いやぁー、ここは住みやすい地域っすねー、柑奈ちゃんとイチャイチャしながら歩いていても『あらあら、仲が良いわねー』としか言われないんっすよ? ビックリっす!」
いや…… 草薙くん達の仲が良すぎて呆れられてるんじゃないか?
「一緒にしないでよ! それはくーくんが勝手にベタベタしてくるだけでしょ!?」
「えぇー!? でも柑奈ちゃんだって、いきなりチュッチュしてくるじゃん!」
「なっ!? そ、そ、そんな事…… たまーにしかしないわよ!!」
たまにはするんだ…… 相変わらず仲良しというか、どちらかといえばバカップル寄りだよな…… でも柑奈さんも過去に大変な思いをしていたみたいだから、幸せになって良かったな。
草薙くん達も結婚し、俺達の住む羽比町へと引っ越してきて生活が少し変わったと喜んでいた。
そしてご近所さんになったという事もあり、柑奈さんはちょくちょく遊びに来ているみたいで、葉月と楓に身近な友達が増えて俺も嬉しい。
やっぱり味方になってくれる人が一人でも多い方が心強いもんな……
「あはっ…… やっぱり大樹さんの娘ですねー」
「……どういう事だよ」
「おっぱいを吸う時にこんなにコネコネして…… 穂乃果ちゃんもお風呂に入ってるとすぐ触ってくるんですよー、あはっ」
そこで俺の娘だと判断するのは…… ちょっと実乃梨がかわいそうなんだけど!
まあ、でも…… 出産して更に巨大化したそれは確かに触ってみたくなるが……
「……大樹くん?」
「か、楓!? べ、別に俺は……」
「…………」
いてっ! 脇腹をつねるなよ…… 別に大きいのが好きというわけじゃないんだ……
「ふふっ、冗談だよ! ……可愛いね、実乃梨ちゃん」
「ああ……」
一生懸命葉月のお乳を吸う実乃梨。
そんな姿を三人で見守り……
「ただいまー! 実乃梨、お姉ちゃんが帰って来たよー!」
「お邪魔するわねー、あらあら、実乃梨ちゃん、ばぁばですよー、ふふふっ」
「葉月、調子はどう? 頼まれていたオムツも買って来たわよ」
実乃梨の誕生をきっかけに家族みんなの絆がより深まったと感じている。
そして……
「それで…… 楓は調子どうなの?」
「お母さん、ふふっ、大丈夫だよ、ちょっと悪阻が酷い時はあるけど元気だから」
葉月が出産して三ヶ月くらい経った頃、楓が妊娠している事が分かった。
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