誕生日プレゼントは? 《楓》

 ◇



 久しぶりに大樹くんに愛してもらい、私は涙が止まらなかった……

 そして事が終わった後、泣き続ける私の隣には優しく抱き締めてくれる大樹くんと、同じく寄り添ってくれる葉月ちゃんが横にいる。


 あれから…… 助けを求めず黙っている事を選び、弄ばれ汚れてしまってから、私はもう愛される資格はないと思っていた。

 だけど、きっかけは葉月ちゃんに流される形だったけど、最後は大樹くんが優しく私の…… 心の奥まで綺麗してくれて…… それがこんな幸せな事だっだなんて思いもしなくて…… 涙が止まらないよ……


 大樹くんと葉月ちゃんの温もりを直に感じ、薄くなりつつあった私と大樹くんの間にあった見えない壁が崩れていったのを感じた。


 こうして触れ合って、今まで苦しかった気持ちが楽になって…… これから先、明るい未来へと進めそうな気分にもなってきた。


 はぁ、落ち着いてきたなぁ、ありがとう二人とも………… んんっ?


 ちょ、ちょっと、葉月ちゃん? モソモソと動いて大樹くんの方に移動して…… へっ? な、えっ? あわわっ! ほぇぇ……


 そばでも啜っているみたいな音…… えっ、そんな所まで!? 


 大樹くんの反応も私の時とは違って、凄く気持ち良さそうで…… 


「んっ…… あはっ、楓さんも一緒にどうですか?」


 えっ? わ、私も!? でも…… 私はさっき幸せにしてもらったから…… 

 わわっ…… 大樹くん、凄い…… いつも終わったらなるのに……


 葉月ちゃん、そんなに見せ付けるようにしないでよ……


 ちょっとだけ、ちょっとだけだよ?



 …………



「はぁっ……」


「どーしたんですかー?」


「えっ? い、いや…… 何でもないよ?」


「もしかして…… 大樹さんと三人でシた事を思い出してるんですか? あはっ!」


「ふぇっ!? しょ、しょんにゃ…… そんなわけないでしょ!?」


「もう、楓さんは分かりやすいんですからー」


 うぅぅ…… 葉月ちゃんには嘘をつけないよぉ……

 だって…… あんなの初めてだったんだもん。


「あはっ、盛り上がって凄かったですもんねー、あの時の楓さん、可愛かったですよ!」


「や、やめてよぉ……」


 思い出すだけでも恥ずかしい…… それにあの時は大樹くんが帰って来る前にも、葉月ちゃんとをしていたから余計に……


 流された形になっちゃったけど、いつの間にか葉月ちゃんのペースに飲み込まれて…… 最後は私からも…… んんっ!? 


「ぷはっ…… は、葉月ちゃん?」


「あたしも思い出したらぁ…… 今日は誰もいないですし、ねっ? 楓さん……」


 葉月、ちゃん? あっ、葉月ちゃ……



 …………



 はぁぁっ…… ここ最近の事を思い出して、ため息が出ちゃった。


 でも…… これは葉月ちゃんだからであって、葉月ちゃん以外とは考えられないコトだから! だから…… 大樹くん、許して?


 そんな言い訳を頭の中でしながら、洗濯物を畳んでいると…… 


「楓、どうした? 疲れてそうだな、代わるから休んでてくれ」


 私の様子がおかしいのに気付いたのか、心配そうな顔をした大樹くんが話しかけてきた。


「あっ…… だ、大丈夫だよ! 大樹くんこそ休みなんだからゆっくり休んでて」


「そうか? 無理はしないでくれよ?」


 ふふっ、いつも大丈夫だよと言っても私や葉月ちゃんに代わって家事をしてくれてるんだから、休日くらいはのんびりしていて欲しい。

 しかも昨日の夜は…… 三人で少し寝るのが遅くなっちゃったし、大樹くんの方が疲れてるでしょ?


 ふふっ…… 私は幸せな気分にしてもらえて、身体も心も軽くなったから大丈夫。


 葉月ちゃんは…… 元気が有り余っているのか穂乃果と遊びに行ってるけどね。

 あんなに動いていても元気なんだから…… 若いからかな?


「もしもし、こんにちわ…… ええ、はい…… こちらからは全部で、一、二…… 七人ですね、はい…… では今週末、よろしくお願いします」


 あっ、今週末って…… 電話の相手は葉月ちゃんのお父さんかな?

 今週末は葉月ちゃんの両親がやっている喫茶店で、大樹くんや私の両親も呼んで穂乃果の誕生日パーティーをする事になっている。


 家族みんなで穂乃果の誕生日を祝える日が来るなんて思いもしなかったから、私も楽しみにしている。


「さて…… そういえば穂乃果の誕生日プレゼントはどうする? やっぱり服が良いのかな?」


「うーん…… 多分そうじゃないかな? あとは化粧品とか?」


「おもちゃとかはあまり欲しがらないしな…… ははっ、前に葉月に『大人になりたい』って言っていたみたいだし……」


 大樹くん…… 自分のせいだと思ってるのかな? そんな悲しそうな顔をしないで……  


「私のせいでもあるから…… これからは今まで注げなかった分までいっぱい愛情を注いであげよ? ねっ?」


「楓……」


 ああ…… 悲しい時も嬉しい時も、こうしてすぐに抱き締め合えるというのは…… 幸せだね。

 そばに一番の味方がいるのがこんなに心強い事だと、悩み苦しまなきゃ気付かないなんて……


 んっ…… キスも…… 


「大樹くん、そばにいてくれて…… ありがとう、だからみんなでもっと幸せになれるように頑張ろ?」


「そうだな…… 落ち込む暇があったら、落ち込まないよう楽しくなる事を考える方が良いもんな」


「ふふっ、そうだよ…… とりあえず、帰って来たら穂乃果に聞いてみよう? 穂乃果の好きな物をプレゼントしたいもんね」


 そして葉月ちゃんには悪いけど、少し大樹くんに甘えさせてもらってから、再び洗濯物を畳み始めた。



 …………



「葉月ちゃんと公園で遊んでたら大海くんと凪海ちゃんと凪海ちゃんママも来て、みんなで遊んでたの!」


「しかもその後、葵社長と社長の娘さんが遊びに来てビックリしましたよ! 葵社長と凪海ちゃんママが従姉妹だっていうのにもビックリしましたけど」


 えぇっ!? そう言われてみればどことなく顔が似ているような気がする! 


「そしてまた『お団子』もらっちゃいました……」


「えへへっ、穂乃果このお団子大好きー! ママ、一本食べていい?」


「もうすぐ晩ご飯だから一本だけよ?」


「はーい! パパも食べよー?」


 また頂いちゃって…… ありがたいけどお礼はどうしよう。 


「じゃあ一本もらおうかな? ……ところで穂乃果、誕生日プレゼントに何か欲しいものはあるか?」


 あっ、大樹くんが聞いてくれた……

 穂乃果は何が欲しいんだろう?


「誕生日プレゼントー? んーっとねぇ…… えーっとねぇ…… 穂乃果、弟か妹が欲しい!」


「「「……えっ!?」」」


 穂乃果? それは……


「穂乃果も弟か妹が欲しいの! 凪海ちゃんに聞いたら『そういうのはパパとママにお願いした方が良いんだって!』って言ってたの! だから…… パパぁ、ママぁ…… …… お願い、お願ぁい!」


「穂乃果…… 弟か妹ってどうしたら来てくれるのか知ってるのか?」


 穂乃果にはまだはっきりと教えてはいないはず…… 学校でもまだ習ってない…… よね?


「うん! 桃と戦艦に乗ってどんぶらこしながら来るんだって! 凪海ちゃんがママにそう教えてもらったって言ってたんだー、えへへっ」


 桃? 戦艦? ……とりあえずわけではなさそう…… なら、何で葉月ちゃんまで?


「穂乃果ちゃん、パパとママに頼むのは分かるけど…… 何であたしにまでお願いするの?」


「葉月ちゃんが桃で、ママが戦艦にお願いしてくれたら、どっちも来るかなぁーって! えへへっ、穂乃果、頭良いでしょー!」


 えっ? えっ? ど、ど、どうしよう…… 下手に嘘をつくのも教育に良くないし、かといってこの『おねだりモード』の穂乃果を説得するには……


「……よし、じゃあパパが桃と戦艦が来てくれるか聞いてみるよ、もし来れないって言われたら、別に何が欲しい?」


 だ、大樹くん!? 上手く話を逸らしてくれた…… のかな?


「えぇー!? ……服、かなぁー? でもでもやっぱり弟か妹!! ねぇパパぁ、お願い、お願ぁい!」


「は、はははっ…… どうかなぁー? あまり期待しないでくれよ?」


「はーい……」 


 大樹くん!? もう! やっぱり大樹くんは穂乃果の『お願い』に弱いんだからぁ。


 そして…… 大樹くんは私達の方を見て、気まずそうに少し苦笑いしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る